G25話:グリモスを後にして
前回のあらすじ
変なチンピラに絡まれたけれと、鉄拳を交えた交渉術により事なきを得た。
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グリモスの騎兵達が、やけにやる気に満ちた表情で帰った後で、私達は認識していた事件の概要を、ジャンさんたちに説明しなくてはならなかった。
「・・・てことはだ。領主様のご子息の自演だったわけか?ユティやチビどもを怖がらせて、目的はアリアさんをどうこう・・・と、噂に違わない野放図ぶりだな」
ジャンさんたちは、私たちが調書を負えた後に待ち合わせ場所に戻ってきたので、簡単な説明しかしていなかったけれど、それ勿論ロミオに対しての怒りを露にした。
「ジュリエッタはおまけかよ!くそぅ・・・。」
想い人をおまけ扱いにして、それも手下のチンピラに私ともどもご褒美にしようとしていたと聴いて憤りを隠せないでいるエミール。
「アリアちゃんは目を引く美人だからねぇ」
と、穏やかに微笑んでいるリズ姉だけど、その内心は子どもたちを脅かされたことで怒って煮えたぎっているのがわかる。
「グリモスに行くことはもうないだろうが・・・最後に嫌な思い出を作ったなぁ」
もう行かない予定の町の最後の思い出が、チンピラ紛いの領主のどら息子に絡まれての乙女のピンチだなんて、その気がなくても二度と来たくなくなること間違いなしだよね。
「それにしてもみんなが無事で良かったわ」
と、リズ姉は私とユティを手招きすると抱き締めた。
二人の、ううん、私を入れて3人分の体温が集まって気持ちいい。
夏だけど日本とちがってからっとしてるからね。
すると、荷馬車でカノンに寄りかかってウトウトしていたリュリュが目を剥いて声をあげる。
「あーあぁ!リューュも!」
と、荷台から落ちそうになりながら、リュリュは手を伸ばす。
アリアはそんなリュリュの元に向かい抱き上げると、リズ姉の横まで連れてくる。
なお、カノンはすでに荷馬車の中で荷物に寄りかかって眠っており、リュシーもそんなカノンの体に寄りかかっておねむだ。
兵士たちと30分緊張した状態でお話して、その後私たちが15分ほど話をしていたから、そりゃちびちゃんずは眠たくもなるよね。
騎馬隊が立ち去った後そのまま休憩がてらで話していたけれど、子どもたちを自由にさせていて遠くに行ってしまったり、動物や魔物に襲われるのを避けたかったので荷車に乗って待ってて貰ったからね。
「あー、さてと、話もわかったし、さっきの様子だともう俺たちに絡んでくることもないだろう、そろそろ行こうか、エミールの番な」
と、ジャンさんは立ち上がりながら私とユティの頭をポフポフと叩く。
妹扱いが嬉しいと感じる。
「リュリュはママと後ろの風景を見ながらにしようか?」
と、リズ姉はリュリュを抱き上げる。
リュリュはやっぱりママが一番なのか、ママの胸に顔をぐいぐい押し付けながら笑顔。
ユティが先に荷車に上り、リズ姉の片手を引いて乗るのを手伝っている。
「お嬢様お手をどうぞ?」
と、アリアも私と並んで歩きながら、下から上に上げる様にして手を支えてくれて、荷車に楽に登る。
2頭立ての幌馬車は、売り物を入れた棚類なんかが沢山あっても私たちが座って居る分には十分な広さがある。
勿論ちびっ子の2~3人は寝ていても余裕だ。
でも、野宿には向いていない。
子どもを3人転がせば、大人は1人位しかねられない。
なのでジャンさんたちは基本的に野宿はせず。
間にある村に一泊してからザラオの町に向かう予定にしている。
これは、私たちが居ようと居まいと変わらない部分。
では逆に変わる部分はというと・・・?
「今夜泊まる村、通称ボスコンでは、アリアさんとムツキ、それに念のためカノンも、一人にならない様にしてくれ、それからユティはエミールの妻として振る舞ってくれ・・・」
と、ジャンさんは「エミールの妻」という部分で非常に苦しい表情を浮かべた。
エミールのことを認めているはずなのに、それとユティを嫁にやるのは別の感情が働くのかな?
それにしてもこの意味不明な指示はなんだろう?
「皆をボスコンに連れていくのは初めてだが、あの村は女性が少なくてな、旅の女性に対して非常に強引な勧誘をすることで知られてるんだ。さすがにリュシー、リュリュみたいな子どもは対象外だろうが・・・相手のいないアリアさんとムツキは、親切な言葉をかけてきて、いきなり路地裏につれていかれたりするかもしれないから、本当に用心してくれ」
正直ドン引きな内容だった。
夫の振りを・・・ということはさすがに旦那持ちにはちょっかいかけないということだろうけれど
「はいジャンさん、ところでボスコンには一泊するだけで行商はしないんですよね?」
「あぁしない、最初に行商路を選ぶ時に懲りたんでな、ボスコンは正直長居したくないんだ」
と、ジャンさんは苦い顔。
ボスコンはザラオと同じ領主に采配される漁村で、北にかつては海エルフを中心にした町だった現グリモスと南にザラオという有力な港を持った町があることもあって、重要な土地ではなかった。
大陸外縁のため主要な行商路に選ばれることもなく。
大きな港を作るには海が遠浅で、大型船の接岸は難しく、長年僻地の漁村でしかない。
グリモス、ザラオ間で領地を跨ぐ場合にたまに旅人が通るくらいだという。
村は時給自足は勿論出来るが、たまにくる行商に町の話を聞きついていってしまう娘も多く。
特に紅の帝国による大陸統一の後は、貨幣経済が発達、町に行き働き口を見つけた娘が現金収入を獲る貴重な手段となることもあり、当初は娘たちが町に出ていくのを止めなかったが、戦乱の後で村長が気付く、村に若い娘が居ないと・・・。
いや居ないことはないのだが、村の男衆の数に到底足りないのだ。
そもそも生まれるのは男の方が多く、男は村の漁業や農業を引き継ぐ為に残るが、女が3割ほど村を出ていくので、すぐに女が足りなくなって、村の成人男性の半分は生涯未婚だという。
そうして、村では未婚女性の旅人に対して強引な勧誘をする様になったのだとか。
「私は何をされてもお嬢様のお側にお仕えする予定ですから」
と、隣に寄り添ってくれるアリアの存在は頼もしい。
逆にカノンは不安そうにしているのがわかる。
先に南下したティータやセレナ、フォニアの事が気になるのだろう。
年頃の女の子3人だなんて、村から見れば与しやすく、カモの様に見えたかもしれない。
とは言え、3人は戦闘力もそこそこあるしね、無理矢理手篭めにされるなんてことはない、ないんじゃないかな、ないと思う、思いたい。
もしも私の可愛い3人の妹分に手を出してたらどうしてくれようか・・・?
沸々と黒い感情が沸き上がる。
すると、ジャンさんも私の表情に気づいたのか、私の頭を抱き抱えるとポンポンと優しく叩いた。
「ボスコンじゃなく、ザラオにメイドさんたちが流れ着いてたら良いな」
お兄ちゃんってこんな感じなんだぁ・・・と、少し感動するけれど、馭者席のエミールと背中合わせに座っているユティが、少しじっとりとした視線で私を見る。
実妹の複雑な葛藤を誘ってしまったみたいだね。
リズ姉は、すっかり寝静まったリュリュの胸をトントンしながら、こちらを微笑ましそうに見ていた。
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所変わって、ここはグリモスの領主別邸。
領主がグリモスに来た場合に宿泊する屋敷で、元は帝国時代、エルフの集落だった頃に帝国の役人を迎えるために使っていた迎賓館。
しかし現在そこにたむろしているのは、中央からの派遣の役人ではなく、10人ほどのチンピラの集団だった。
「おまえらなっさけないなぁ、ロミオ様に恥かかせるなよ」
「いや、あんまり美人だったもんで、ちょっと見惚れちまったんだよ!」
「グフフフ、あの後よく見たら、あの赤みのある黒髪の娘もかなりの美形だったからなあ、殴られたおまえらには悪いが、先に味見だけさせてもらうからな?安心しろって、あの色白の女は側室にするからおまえらには回してやれないが残りの二人も中々美人だったぞ、それにもう3人ばかりガキもいたからな、側室の妹としてしばらく飼う必要があるが、あれの妹なら美人になるだろうし、あいつらだけでも向こう10年楽しめるぞ」
下卑た笑いを浮かべる小太りの男は、喜びの絶頂にあった。
なにせあの銀髪の娘はコレまでロミオが見たこともないほど美しかった。
幼い頃に初恋をした彼の父の愛妾よりも、父が囲っていた全部で7人いた美人たちよりも・・・。
その基準で言えば、あの赤黒い髪の娘も、まだ色々発育は足りてないものの、父のところにいた美人たちを超える美人になるだろうと思い、急きょそちらも味見をすることにしたが、ここにいる手下達には十分甘い汁を吸わせているのて、文句を言うものは居ない。
自分は選ばれた男だ・・・と
下位とはいえ貴族の嫡男として生まれ、父以上に美人と縁があるとなれば、それ以外の縁も父とは比較にならないだろうと自惚れの真っ最中であった。
「グフフ、夕方には娘たちが届くだろうからな、一人くれてやるからよそで楽しめよ?喧嘩はするな?」
楽しみの最中に下品な男の声なんか聴きたくないロミオは、3人いた年頃の娘の一人、可愛い部類ではあるが珍しさのない顔立ちの娘くらいは手下の褒美にやっても惜しくない、そう考えて笑っていた。
そして2時間後彼らは町の兵に捕らわれて領主の元に護送されていくことになり、ロミオは廃嫡、あまつさえチンピラ達は重い労働刑を科せられることになるのだがそうとは知らずに、中々来ない美人たちを思い笑っていたのだった。
あぁロミオ、貴方(の名前)はどうしてロミオなの?
ロミオという名前のキャラをこんな小太りのクズにした罪悪感が今になってヤバイです。
救済かフェードアウトか少し悩む所です。