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G23話:迷惑なナンパ

 前回のあらすじ

 昨日のお昼に続いてパンケーキを朝食のデザートに食べた。

 吐くまで食べるだなんてリュリュは食いしん坊だなぁ

---


 朝食の後はグリモスを発つ前のやり残しの回収、宿の荷物の引き払いはエミールに任せて、ジャンさんとリズ姉が挨拶回り、私とアリア、カノン、ユティ、リュシー、リュリュとは、前日予約した靴と装備類の受け取りの為、ジャンさん達の挨拶回りが終わるだろう2時間後に冒険者ギルド前での待合せをして出掛けることにした。


「もうびっくりしたよー?リュリュってばちゃんとパンケーキもあるからね?って教えたのに朝御飯モリモリ食べるし、ゲフゲフ言いながらパンケーキもモリモリ食べるし、挙げ句にねぇ?」

 ユティは、先程までスプラッシュし続けていたリュリュを呆れた顔で見つめながら歩く。

 その左手には新しい妹分カノンの右手が握られており、カノンは恥ずかしそうにしながら手を引かれている。


 一方で最後尾で私に手を引かれているリュリュはさっきまでの騒ぎ方が嘘の様にご機嫌で、ユティの話は聞いてるんだかいないんだか・・・。


 先頭を歩くアリアは後ろのことなど気にも留めないリュシーのお話を聞いてあげている。

 靴を受け取りに行くよ?と伝えてからのリュシーは跳び跳ねて大変にご機嫌。

 昨日はいつの間にか一緒に居たカノンに警戒してたのに、一緒にサウナで裸の付き合いをした後は、自然体のリュシーだ。


 カノンの設定は、ウチが面倒を見ていた修道院の併設孤児院の子ということになった。

 血の繋がった姉2人とともに子どもの頃から私の遊び相手をしていて、今回の船旅でも心配して着いてきてくれた。

 メイドではないものの、我が家の奉公人の様な、それでいて私の友達の様な立場だと説明している。


 姉2人も行方知れずで一人で6日近くも浜辺に潜伏していたことになっているカノンは、一瞬でジャンさんら4名の可愛がりの対象になった。

 特にジャンさんとリズ姉はまるでリュシーやリュリュを相手する様にカノンを慈しんでくれた。

 

 それで夕べはリュリュが嫉妬してしまうほどで、それはそれで大変に可愛らしかったけれど、それもやっぱりサウナに入ると別段気にした様子もなく、よく懐いていた。


 多分居場所を奪う存在なのかとか、もっと明確に、敵なのか味方なのかを見極めようとしていたのだろうけれど、彼女の、幼女の思考回路は理解し難い部分が多くて、私たちにとってはとりとめのない事も、彼女にとってはいつでも一大事なのだ。


 それでも一度家族、仲間、友人のどれかに認めてしまえば、一晩でカノンのことを甘えても良い相手として認識できる辺り、リュリュは賢い。

 今朝も朝食の後、カノンの手を引いて、自分から洗い場に向かっていた。

 押しに弱いカノンは、2歳相手にタジタジになりながらも、どこか楽しそうにしていたので、彼女の方もリュシー、リュリュのことを親しく付き合える相手だと、体感的に理解しただろう。


 今はユティとの距離を埋めているところだけど、ティータやセレナのことを思い出しているのだろう。

 その指はしっかりとユティの指と絡められていて、カノンは恥ずかしそうにしながらもどこか幸せそうだ。


「なんかごめんね、私のせいで朝からリュリュを吐かせちゃって・・・」

「ううん、ムツキお姉ちゃんは悪くないよ、このちびっ子が自分の限界もわからず食べるのが悪い」

 ユティは歩く速度を落として私たちに並ぶと、リュリュの頭に手をおいてくしゃくしゃと撫でた。

 リュリュはなじられているのに、それとはわからなかった様で、キャッキャッと嬉しそうな声をあげている。

 無邪気で可愛い。

 リュシーは靴のことを覚えていて、お楽しみなのでテンションが高いけれど、リュリュは朝のパンケーキが尾を引いていてテンションが高い。


 まずは町のやや海側の靴屋さんに行って、それからさらに海側のラルフさんのお店、その後少し南側の冒険者ギルドに行ってから町を出ることになるかな?


 いよいよ靴屋の前に着いて、リュシーは大興奮でアリアの左手を両手でにぎり、その場で足踏みして待ちきれない様子を見せる。

 リュリュもようやく何かを思い出したのか、お店の扉を前に興奮した様子を見せる。

「さてリュシーとリュリュに質問です。私たちはここに何をしに来たでしょう?」

 ユティが勿体ぶって、二人に質問をしてみる。


 二人は迷いなく叫んだ。

「リュチーのおくつ!!」

「リューュんおやちゅ!」

 うん、揃ってないね。

 て言うか、朝から吐くほど食べたのにまだおやつが食べたいの?

 早めに節制を覚えさせないと、将来大変なことになるかも?

 幼児なら丸々としてても可愛いと思うけれど、ブクブクになったリュリュなんて見たくないよね。


 まぁそれは追々考えよう。

「リュシーよく覚えてたねー」

 と、ユティがリュシーを誉めているのをリュリュが悔しそうに見つめている。

 昨日のカノンへのジャンさんリズ姉の可愛がりを見て嫉妬する癖でもついたのかな?

 むすっとしてちょっとブチャくなってるけれど、そんなお顔も可愛い。

 とはいえ、こんなブチャなお顔が癖になっても困るので

「リュリュー、一昨日ここで靴選んだの覚えてる?」

 と、楽しいことを思い出させようとしてみる。


 すると、リュリュはすぐに表情を切り替えてかわいい屋さん。

 こういう所、幼くても女の子だよねぇ。

「んー?んーぅ?」

 2秒位うなり声をあげるリュリュ・・・それからハッ!と思い付いたらしくて顔をあげると、ポシェットの中から海綿の破片をちょんと指でつまんで取り出して

「こぇ?」

 と首を傾げた。

「惜しい、そのちょっと前」


 2才だとまだ順番とか、昨日より前の記憶の時間感覚が弱いのか、覚えてることと覚えていないことがまばらで、中々思い出さないみたいだ。

 でもさらに10秒ほどすると再度ハッ!と眼を見開いてしゃがみこむと自分の簡易靴をパンパンと叩いた。

「くっくねー?」

 うん、微妙に思い出したのかどうかはちょっとわからない。

 でも正解らしいことを言った時には誉めて伸ばした方が良いよね?


「うぁー頑張ったねリュリュ、思い出したねえ!」

 ワシワシと頭をやると、誇らしげに眉をつり上げる。

「リューュ、だっこね?」

 でもちょっとつかれてきたのか、立ち上がると両手を挙げて抱っこアピール。

 仕方がないので抱き上げる。


「よしじゃあ、リュリュも落ち着いたところでお店に入ろうか?」

 ユティはアリアに頷いて合図をかけると、アリアはそれでは、とすでに待ちきれない様子を見せているリュシーにドアを開けさせた。

 本当ならメイドのアリアが開けるべきなんだろうけれど、子どもの楽しみを奪うことをためらったみたいだ。


「おはよー!リュシーのくっく!!」

 勢いよく店の扉をあけたリュシーは、勢いそのままに店の中に入っていこうとして、アリアに後ろから抱き上げられ、そのままに肩車にされた。

 細いアリアが腕の力だけで4才を肩車にするのは圧巻、そしてどうやら機嫌を損ねることなく、大人しくさせることには成功したみたいだ。


「あぁおはようございます。お嬢さん方の靴、出来てますよ、履かせてみてください」

 店に入ると先日と同じ格好をしているおじさんが、立ちあがり、私たちを迎えた。

 そしてリュシーとリュリュの2足ずつ4足の靴が出てきたときの二人の騒ぎ様ときたら・・・。

 私が明細書を貰い、お釣りを貰い、心付を渡している間、アリアとユティが、二人の靴のサイズを確認してくれていたけれど、不備も無さそうだ。


 お店を出てもちびっ子2人のテンションは変わらない。

 今度はカノンとリュシー、アリアとリュリュが手をつないでいるのだけれど、後ろからみていても、特にリュシーのテンションは高い。

「あるくの、あるくの!」

 と、ジャンプしたり、急に走り出そうとしたりして、カノンを振り回している。


 そのうち見かねたユティがリュシーの逆側の手を引いてリュシーを封印した。

 私もそれに倣いリュリュをアリアとサンドすると、リュリュの方は調子にのってなのか、足をやたら高くあげて歩いている。

 おもちゃみたいで面白い。

「リュリュ、お靴はどう?」

 と、先程靴屋の中でも何度かきいたのに、ついまたきいてしまう。

 だけどリュリュは満面の笑みで

「リシシ、ミシシシシシ」

 と笑うばかり。

 楽しくて仕方ないと言った具合。


 この時の私たちは気付いて居なかった。

 いつも以上に、私たちをなめ回す様に見る視線があることを。

 マップの索敵機能を使っていればまた違ったのかも知れないけれど、町中では索敵機能をつけていても、ほとんど白の人を表すマーカーばかりで、目が疲れる気がするので外していたのだ。


---

 ラルフさんの店は、靴屋と違って刃物や鈍器も置いてある。

 なのでリュシーとリュリュを連れていくのは憚られた。

 そこで、お店のすぐ近くの比較的広く、見渡しの良い場所に、ユティ、カノン、リュシー、リュリュを残して、私とアリアだけでお店に向かった。


 お店は張り紙がしてあって、どうやら私とアリアの為に一時的に貸し切りになっている様だ。

 扉を開けると、ラルフさんが、待ち構えていた。

「おぉ、きたかお嬢さん方、待ちわびたぞ」

 豪快にガハハと笑いながら私たちを迎える。


「おはようございますラルフさん、コートを受け取りにきました」

 ここに来たのは、調整をお願いしたコートの受け取り、そしてイラストを渡した道具の出来映えを確認するためだ。

 ラルフさんが出会った新しいインスピレーションの監修役といった所。

 こんな・・・と言っては失礼かも知れないが、田舎町にも関わらずこのラルフさんは鍛冶の求道者と言って差し支えないほど探求心に満ちている。


「えぇ勿論できております。女性らしい柔かなデザインを心がけたが、気に入ってもらえるだろうか?」

 出てきたコートは全体の形は元の通りトレンチコート形で、裾は長め。

 前は開いた状態になっていて、胸の所になだらかな膨らみを持ったプレートがはめられている。

 邪魔なときはプレートは外せる見たいね。


 肩にも板金挿入できるポケットがあって、対人用の袈裟斬りに対する防御力を高められる様だ。

 腰の高さで何かアーチ状の金具が内側に沿って取り付けられていて、そこから下はスカートの様に僅かに拡がる様になっている。

「うん、かっこ可愛い、見た目は満足、着てみて良いですか?」

「勿論だとも」

 ラルフさんに許可を得て試着。

 防御力は15、アリアの物と比べても女性らしさと、スリムなシルエットから滲み出る格好良さみたいなのがある。


「アリアはどうおも・・・う?」

 アリアに感想を求めようと振り向いたところ口をおおう様にして手で顔を押さえて俯いているアリアに気付く。

「アリア?気分でも悪い?大丈夫!?」

 駆け寄る私に、アリアは弱々しく、空いている方の手を挙げて大丈夫だと示すけれど、その様子はおかしい。

「アリア、ちゃんと話して頂戴、我満しないで!」

 彼女は私の一番大切な共犯者だ。

 彼女がいなければ今の私は居ない。

 その彼女が何かの病気や、食あたりか何かだとしたら、無理をさせず休養が必要だ。

 ジャンさんにお願いして数日滞在期間を伸ばしてもらわないと・・・。


「だ、大丈夫ですお嬢様・・・」

 弱々しく呟くアリアに、私はさらに不安になった。

「アリア、とても辛そうよ?兎に角座りなさい、いえラルフさん、横になれる場所はありませんか?」

「それなら作業場との間に昼寝部屋が・・・」

 ラルフさんも只事では無さそうだと、休養場所の提供をしてくれたけれど、アリアは更に続けた。


「いえ、それには及びません。ただコートの隙間、スカートの裾から見える。タイツに覆われたお嬢様のおみ足が、あまりにも儚げで、色っぽくて、興奮してしまっただけなのです!」

 と、アリアは力強く宣言した。


「アリア・・・」

 そういえば若干そういう、少女を好む性質があったのだったかと、初対面の時に抱いた危機感を思い出す。

「白い方のお嬢さんは、そういう趣味があったんだなぁ・・・まぁ、お幸せに」

 と、ラルフさんはお茶を濁した。


 それから、試作品の十手2本と、シャベル1本を見せてもらった。

 十手はどちらも主に強度に重点を置いて作ってあり、装備を試してみると片方は攻撃力6の防御力1、もう片方は攻撃力7の防御力3とかなり破格の数値をしている。

 まず刃がついていないのに攻撃力がユティに持たせたナイフより高いのが不思議でならない。


 そして、装備しなければ反映されないとはいえこの十手には防御力がある。

 防御力がとれくらい大事かわからないけれど、ショートソードの方が十手よりも長いのに防御力が存在しないのは少し納得できない気持ちもある。

 ということは、この十手は防御用に扱い易いことが、ショートソードで相手の剣を受けることよりも高く評価されてるということなのか?

 それともゲームシステム的な判断基準が残っているのか?

 考えてもわからないね。


 出来映えは十手もシャベルも言うことはない。

 シャベルは尖端がそれなりに鋭く作られていて、踏む所もあるし、槍の一種としても扱えそうだ。

 性能を見た所攻撃力+18防御力+2とショートソードの1.5倍の攻撃力と十手と同等の防御力を持っている。

 出来映えもかなりの物なんだろうね、武器として作られた剣より攻撃力があるだなんて、恐ろしいね。


 更にラルフさんは、是非私に使って欲しいと、シャベルと十手2本を譲ってくれた。

 十手はともかく、シャベルはこれから先の馬車の旅でも役立つ機会が多そうで、有難いものだ。

 ぬかるみや窪みに嵌まった時や、野営時のトイレの準備や後始末、キャンプ後に残飯や骨、焚き火の痕跡を埋めたりと、現在主流らしい鍬よりも多用途での利便性に優れているよね。


 ラルフさんにお礼を言い店を出ると、周りに視線がないことを確認してすぐにシャベルや十手をインベントリに移す。

 正直目立つし、普段は邪魔出しね。

 この世界の冒険者は普段から剣や槍を携えているのが一般的らしいけれど、アリアも私も主武装は短剣、ナイフの類で隠している。

 町中でこれ見よがしに武器を持って歩き回るのって何だか脅かして回ってる見たいに見えるし、普通はインベントリなんてないだろうから仕方ないのだろうけれど、ちょっとしたケンカから、刃傷沙汰に発展しそうで怖いしね。


 そんなことを考えながら歩いていたのが災いしたのか、露店広場を見渡せる通りまで戻ると、諍いの声が聞こえた。

「だからーちょっと10分!いや3分だけでいいからさぁ!」

「そうそう、俺たち紳士だからなにもしないって、道をきくだけだからさぁ!」

「私たちこの町の住人じゃありませんって言ってるじゃないですか!それに家族と待ち合わせしてるんです!」


 聞き覚えのある声と、少し剣呑な雰囲気の男たちの声・・・。

「アリア!」

「はい、お嬢様!」

 頷き合った私とアリアはそれぞれ違う方向に走り出した。



ラルフさんの出番は一瞬で終わりました。

チャーリーはなんのために名前を付けたんだったか・・・。


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