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G22話:失敗

 前回のあらすじ

 カノンをジャンさんたちに紹介した。

 思い付きでパンケーキを焼いた。

---

 別にね、私だって考えなしに行動してる訳じゃあないんだ。

 大金を手にして、お金使いが荒くなってる?

 うん、認めよう。

 お年玉を切り崩して1年分のお小遣いに充てていた睦月はもういない。

 だって考えて欲しい。

 500万枚の金貨を仮に100年生きるとしたら、年に5万枚、1日に130枚使っても使いきれないだけの金貨を持たされた私が、金遣いの配分を間違えるのなんて仕方がないことだよね?


 完全に開き直るつもりはないし、お金持ちの遊びをするつもりはないけれど、昨日と今日で散財したとはいっても帝国金貨で1枚ちょっとだ。

 収入も赤字とはいえ決して少なくない金額を得た。

 

 金銭感覚が着実に蝕まれている。

 それはわかるけれど、カノンの緊張をおかし作りでほぐして、なおかつお留守番のさみしんぼを我慢してくれたリュシーとリュリュのご機嫌とりもできる。

 お買い得な出費だったハズだ。

 とは言えこれは想定外・・・失敗したと感じさせる部分。


「ほらリュリュ、コチのバター焼きよ?あなたバター焼き好きでしょ?」

 宿屋の食堂で夕飯を食べる私達。

 リズ姉が自分の皿から取り分けたバターとガーリックなどで焼いた魚をリュリュの口許に差し出すけれど・・・

「や」

 と、短く言い放ってリュリュはそっぽをむく。


 リュリュは現在ハンガーストライキの真っ最中、その要求は、パンケーキを食べたい、である。

 食べ物を要求するハンガーストライキというのもなかなかコントラディクションの激しい行動だと思うけれど、欲求に忠実な幼児にこれだけの行動を起こさせてしまったのは私の失敗だ。

 今まで大した好き嫌いをせず、なんでもよく食べる子だったリュリュの突然の豹変ぶりに、リズ姉もジャンさんも困惑を隠せなかった。


「パンケーキってそんなに美味しかったの?」

 と、リズ姉が、ちゃんとお夕飯を食べているリュシーに尋ねると、リュシーもパンケーキの柔らかさと甘さに想いを馳せたのか、うっとりとした表情でその魅力をつたえる。

「うとねー、フワフワでねー、ちよっとあまくてね、でもあまいけどこれくらいあまい!あと、フワフワで、あったかくて、おくちにはいらないの!ジュルッ!!」

 と、よくわからない説明、親指と人差指をほんの少し離しているのは甘さを表しているらしいけれど、いったいどれくらいなのかまったく伝わらない、ただリュシーがホットケーキを気に入っているのは伝わった。

 最後に口からはみ出した食欲についてはリュシーが照れくさそうなのでノーコメント。


「ふーん、これは私もそのうちご馳走してもらって確かめてみないとねえ」

 と、リズ姉は私の方をチラと目配せしながら見つめる。

「うん、リズ姉にももちろんご馳走出来るときはするよ?ただ材料に牛乳と卵も要るからソレなりに時と場所を選ぶかも」

 少なくとも最低限畜産物に余裕がないと作れない。

 グリモスは田舎とはいえ港があるから、魚でたんぱく質が取れる分畜産品に余裕があるのだ。

 ソレも町周辺の砂漠化と引き替えだけどね。


「是非早めに食べてみたいけど、明日には町を出るし暫くは無理かなぁ・・・あ、リュリュ、言っておくけど、ソレ食べないと明日の朝までなにもあげられないわよ?10、9、8、7、6・・・」

「あー、ンたべゆ!たべムグっ!」

 謎のカウントダウンに負けてとうとう口を開いたリュリュはモムモムとコチを咀嚼する。

 実際一度くちに入れてさえしまえば、彼女のあきれるほどの食欲は、先程までの頑なさが嘘の様にどんどん次の一口を要求する。


「もしもよろしければ、明日の朝、うちの厨房で作って見ませんか?」

 と、普段なら忙しなくテーブルの間を行来しているハズのダノンちゃんが私たちのテーブルにやって来てそんな提案をした。

「ダノンちゃん、さっきはどうも」

「いえいえこちらこそ大変結構なモノをいただいてしまいました」

 二人で頭を下げ合う。

 冷静になったダノンちゃんは年若いとはいえ一人前の宿屋の娘、わざわざ私たちのテーブルに来た以上、その提案は宿屋にも+があると考えての事だろう。


「それで厨房を使っても良いというのは?」

「はい、実はあのパンケーキというものの作り方を教えて頂きたいのです。拝見した限り、グリモスで手にはいる食材がほとんどでしたから、砂糖とはちみつだけどうにかすれば、うちのメニューに一日に10枚くらいだけでも提供できないかなぁと思いまして、女性や子どもに人気が出そうじゃないですか?セブンリングス以降ジャンさんたちの様にお子様や奥さま連れの行商人も多いですから、客寄せの一助になればなぁと思いまして」

 と、ダノンちゃんは健気に笑う。


 この年でもう立派に家業の事を考えているのだ。

 眩しくて直視できない。

 私が彼女と同じ年頃の頃は、まだアーケードの本格的なゲームには手を出していなかったから・・・おき魔女のブルーレイ盤を買い始めたくらいかな?

 我ながら今思えば順調なオタクコースを歩んでたなぁ・・・。


「そういうことなら協力したいけど、手間もかかるし材料も結構高いよ?牛乳と小麦粉、卵に砂糖は最低でも必要だし、腕も酷使するから、ダノンちゃんの腕が筋肉質になっちゃうかも・・・」

 別に嫌というわけではないのだけれど、連続でまたパンケーキを作るのも何だかなぁ、と抵抗してみるけれど、リズ姉もダノンちゃんもユティ、リュシー、リュリュ、カノンまでじっと私を見ている。

「(これは断れないね)」

「わかったよ、でも材料はどうしようか?」

 朝一番から買いに行くのも辛いしね。


「材料は勿論こちらで持ちます。作り方をご教授頂く訳ですし、お給金も半日分お出ししますし、ジャンさんたちの食べる分も勿論確保します」

 かなり前のめりになりながら、お願いしてくるダノンちゃん。

 そこまで言われたら断れないよね。

「わかった。じゃあ明日ね、詳しい話はお仕事の後で教えて?」

 ダノンちゃんもそうだけど、リュリュの鬼気迫る表情が地味に耐え難い。


 多分私たちの会話の半分くらいしか理解できていないハズなのに、パンケーキという言葉に反応して、騒ぐでもなく、暴れるでもなく、ジっと私の目を見つめて訴えているのだ。

 た・べ・た・い、と・・・・


「リュリュー、今ちゃんと食べないと明日の朝のパンケーキはなしだよー」

 ダノンちゃんがペコペコと頭を下げて立ち去った後で私はリュリュを脅かした。

 するとやはりリュリュは私の言った言葉が分かるみたいに、嫌がらずにパクパクと食べ始めた。

「うーん、俄然楽しみになってきたわ」

 と、リズ姉もまだ見ぬパンケーキに期待を膨らませる。


「あー私もまたアレ食べられるんだ?嬉しいなぁ、とても楽しい食感だった!あと、ふわふわでね?」

 ユティも気に入ってくれていたみたいで、とても楽しそうにパンケーキをアピールしてくれる。

 ハードルを上げないでー!

 と、心の中で叫びながら、それでも和やかにグリモスで最後の夜は過ぎていった。


---


 翌朝、アリアとカノンを伴って厨房に向かうと、ダノンちゃんと女将さんが待っていた。

 女将さんは本名もあるけれど、若々しい・・・って言うかダノンちゃんのお母さんなのに、20台半ばなので、ダノンちゃんの前で名前で呼ぶのも何だかやりづらいし、ダノンちゃんのお母さんとか、おばさんなんて呼びにくい、だから彼女は女将さんだ。


「おはようございます。お待たせして申し訳ありません」

 とりあえずご挨拶。

「いえ、ダノンが無理を言ってしまって申し訳ありません、お客様に料理のレシピを教えて頂くだなんて」

 女将さんは本当に申し訳なさそうに、頭を下げる。

 年下の女の子の前でそのお母さんに頭を下げさせるのはなかなか辛い。


「あ、頭をあげてください女将さん、やることは少ないですけれどソレなりに時間は掛かりますから、急いでいきましょう、夕べお願いしたものはありますか?」

 と尋ねると、女将さんは小さな手桶に入った液体を見せてくれる。

「バターの原液なんてどうされるのですか?バターは別に用意しましたが・・・」


「はい、ありがとうございます。でもこれが少しほしかったんで、では始めましょう」

 そう言うと私はまたパンケーキ作りを始める。

 アリアには用意してもらった液体の泡立てをお願いし、女将さんはカノンと生地作り、私とダノンちゃんはメレンゲ作りを担当する。


 出来上がった二つを混ぜるのは作り方を修得する予定のダノンちゃんが担当する。

「せっかく泡立てたメレンゲが潰れない様にサックリと混ぜていってね!」

 ここぞとばかり、私には理解できない例の混ぜ方を説明すると、ダノンちゃんには伝わるみたいで

「あ、そっかぁ!」

 といいながら手際よく生地にメレンゲを練り込んでいく、悔しい。


 そしてあっという間に焼き上がり、さすがに毎日宿屋の厨房を切り盛りしてるだけあって、二人とも手際が良かった。

 泡立て方とかも口頭で伝えたら通じるしね。

 焼き上がったモノにアリアに泡立ててもらったクリームを乗せて出来上がり。


 それをまずは女将さんが試食、そして目を見開く。

「うん、おいしい!これはダノンがお金を出してでも教わるべきだと言うわけだ。パンが喉を通らないときでも食べれる子もいるね」

 と、女将さんもどうやら気に入ってくれた模様。

「昨日よりも美味しい!自分で作ったからかなぁ?それともこの白いのが美味しいのかな?」

 と、ダノンちゃんも達成感と疲れた体に染み渡る糖分に酔っている様だ。


 それから勿論ジャンさんたちも

「俺はもう少し甘さが少なくても良いが、これは確かに食べやすくて良いな、疲れてるときなんかに良さそうだ」

「休憩の時に食べたいなぁ、なぁこれジュリエッタも作り方覚えねえ?」

 と男二人も中々の好評価。

 そして、リズ姉も・・・

「これなら、中央側の町でも人気が出そうだわね、誰かもう考案してるのかしら・・・もしも王都の組合に聴いてみて誰も作ってなかったら、お店を出せるわよ?」

 と太鼓判。


「ねー、すごいでしょー?タンケーキはおいしーのよー?ハグ!」

 と、間違いにも気付かずなぜか自慢げにパクつくリュシーと

 軽い朝食のあとのデザートにパンケーキを出したのに無言でかじりつくリュリュ。

 グリモスでの最後の食事の時間は賑やかに流れ、そして食べすぎたリュリュのハイテンションなリバースによって終わりを迎えたのだった。


グリモスの町とのお別れが近づいています。

あとはラルフさんのお店と靴屋に寄っておさらばです・・・。

ストーリー的には大分寄り道なので、いっそ飛ばしても良さそうですかね?

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