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G21話:美味しい?美味しい!

 前回のあらすじ

 異世界生活4日目にして2、3度目の召喚に挑戦、仲間が増えた。

 予定より人数が多くなったので先に次の町に行っててもらうことにした。

---

 グリモスの町の冒険者ギルド、約5時間ぶりに訪れたそこは、相変わらず人の気配が少なかった。

 冒険者ってもしかしてアパートとか借りるときに

『冒険者やってます!』

 って名乗ると大丈夫かこの人、と顔をしかめられる類の職業なのだろうか?


 自分の名乗り始めた職業に一抹の不安を抱えながら、ウェスタン風のドアを押して中に入ると、相変わらずアミィさんが受け付けに座っていた。

「ただいまアミィさん♪教えてくれた狩場良かったです」

「おかげさまで無事に戻って参りました」

「し、失礼しますです」


「おーおかえりムツキ、アリア・・・となんかちびかわいいのが増えてるな?追手・・か?」

 アミィさんはカノンの姿を見て訝しい顔をする。

 彼女にはジャンさんたちに伝えた『設定』も伝えていないので、私のことは中年貴族の妾になるのが嫌で家出したどこかそこそこ良いところのお嬢さんだと勘違いしている。

 それゆえに新顔の、明らかに旅なれていない10歳前後の少女カノンを見て、実家に仕える奉公人位に考えたのだろう。


「まぁそんなところで、この子は人見知りのする子で、私についてきちゃったみたいなんです。10歳なんですけど、冒険者登録って出来ますか?」

 私は受け付けに近付きながら、アミィさんに尋ねる。

 アミィさんは顎に手を当てながら

「登録はできる・・・が、ノルマはこなせそうなのか?いやまぁ二人が三人分こなしても良いんだが、10歳なら家族としての登録でも良いと思うぞ?」

 と、アドバイスしてくれる。


 ノルマというのはEFGランクの冒険者に義務付けられる活動実績の報告で、依頼や納品、提携している商店での素材の売却証明等により満たされるモノだ。

 ジャンさんたちの様な行商人ならば荷の輸送等でもノルマとして報告できる場合があるみたいだけど、人数が増えればその分ノルマも増える。

 だからジャンさん達も、ジャンさんとエミールだけが冒険者登録していて、リズ姉たち4人はジャンさんの家族として登録されている。


 家族としての登録でも魔力は測られるし、身分証も発給される。

 ただ制限として、大きな城壁と門に検問がある様な町だと、家族登録者だけの外出に制限があるのだ。

 幸い私たちは戦闘力が高いらしいので、討伐対象さえ居ればノルマはなんとかできそうだし

 もしかしたらいつかカノンだけでお使いとか頼む事もあるかもしれない、なので多少面倒が増えても登録はしておきたいと考えている。


「はい、大丈夫です。この子はこう見えても色々出来ることありますから」

 なにせ稀少な治癒術使いである。

 それだけでも十分なのに、外見も可愛らしく癒し系。

 アリアもそうだけれど、元になったカードが美麗なイラストが売りのカードゲームのモノで、さらにカノンたち・・はSRだからというのもあるかもしれない。


 庇護欲を駆り立てられる小柄で華奢な体、身長差の関係で自然と見上げる形になる潤んだ瞳。

 清潔感のある白いローブ・・・は今は乾いた泥に汚れているけれど、早くリュシーやリュリュと並べて愛でたい。

 いやむしろ、リュシーやリュリュに対してお姉さんぶっているカノンを妹扱いして可愛がり回したい。

 私の中に、数時間前までは微塵も存在しなかったはずの欲求がドンドン沸き上がっている。

 ちょっと怖いくらい。


「まぁそういうなら止めないが・・・・って、その引きずってるの、ビーチリザードじゃないか!?」

 と、アミィさんはここでソリに積んできた2つのトカゲに気が付いた。

 簡単な血抜きの作業はフォニアがしてくれたので、品質は多分良い。

 まだ皮と肉とを剥いでいないのは、利用があるかわからなかったのと、この肉がビーチリザードのモノだと担保するためだ。

 私のシステムでビーチリザードでも、現地では違う呼ばれ方かも知れないしね。


「はい、歩き疲れて休憩してる時に襲ってきたんで、撃退したんです。なにかまずかったですか?」

 一応、アミィさんからはなれないうちはなるべく魔物や獣とは戦わない様にと言われていたので、不意遭遇だったとアピールするのを忘れない。

 するとアミィさんの反応は少し想定外のモノだった。


「いや、問題ないどころかアリアのこと見直したよ、伊達にムツキのごえ・・・もとい、女二人旅してただけはあるねぇ、ビーチリザードを2匹も相手取るなんて、しかもナイフでだろ?最低でもE級の実力はあるってことだ。ところでそいつは素材買い取りに回すのかい?」

 と、アミィさんは物欲しそうな、というか、食べたそうな目でビーチリザードの肉塊を見つめた。


 どうやら美味しいものなのかな?

 私は爬虫類って食べたことないし、食べたいとも思わないけれどね。

 ビーチリザードを売却する意向を伝えるとアミィさんは、隣の飲食スペースのおじさん(どうやらお父さんらしい)を呼ぶと、おじさんは査定を始めて

「うん、血抜きもきれいだし肉も新鮮だ。皮も余計な傷が少ないし色つけて12000で引き取らせて貰いたいがどうかな?」

 と、尋ねてくる。


 レートがわからない。

 アミィさんに尋ねようとおもったら、既にカノンの冒険者登録作業をしていて目線が合わないし・・・

 おじさんの目を見る。

「?」

 嘘をついている様には見えない(なによりあのアミィさんのお父さんだし)

「あー、お嬢さんは今日が初仕事だから急に額言われてもわからんよなぁ?俺はここの支部長でもあるからな、責任と誇りにかけて嘘はつかないよ」

 と、両手を挙げて無害アピールをする。

「(うぅ、気を遣わせてしまった上に、ギルドの人を信じない感じの悪い新人だと思われちゃったかも・・・)」

 そんな風に思ったのは私だけだった様で


「疑うのは身を守るのに必要な事だ。特にお嬢さんみたいな別嬪さんは、油断すると食いものにされる事もあるからな、気に病むな」

 と、頭を撫でられた。

 その手はゴツゴツしてて、ジャンさんやお父様なんかとは比べられないほど大きくて、なにか安心出来た。

「信じます、支部長さんのこと・・・売りますトカゲも薬草類も」

 私はもう不安感もなく、おじさんに今日の成果物の売却を承諾した・・・けれど。


「あぁー、すまん、薬草類と鉱石類はアミィに聞いてくれ、俺にゃ品質の違いが分からんのだ」

 と、支部長なのに通常の買取り品の査定が出来ないと言われてしまった。

「えぇー・・・なんですかソレ、クスクス」

 ギルド付きの酒場のマスターかと思えばアミィさんのお父さんで支部長で、査定も担当してるのかと思えば食品の目利きしか出来ないって・・・真面目な顔で。

 そのギャップの波状攻撃に私は陥落したのだった。


---

 それから、無事に買取りをしてもらい、

 カノンの冒険者登録も済んだ。

 今日の納品も一緒に行ったことにしてもらって、これでG級の今月の最低限のノルマは達成出来たらしい。

 意外と易しいノルマだね。


 冒険者ギルドを出たその足で港側の露店エリアに向かった私たちは、カノンをジャンさん達に簡単に紹介、3人は人目があるので控えめに祝福してくれた。


 それからバーバラとの約束を守るため食堂に行くと、カノンと3人で昼食を摂った。

 既にユティたちは昼前に来店していたらしいので、きっと昨日と同様そろそろお昼寝から起きておやつを欲しがる頃だと、なにか買って帰ろうとしたのだけれど。

「あーごめんねムツキさん、今日ランチにパンを食べたお客さんが多くて、パンが残ってないんだよね今、生地作っててさ」

 と、バーバラは残念そうに告げる。


 と、其処で少し気になったことがある。

「厨房で作ってるわけじゃないの?」

 厨房には鍋を振るってるお父さんだけがいて、生地を捏ねたりしている様には見えない。

「うん、温度調整のためにね、パンは地下の倉で作るんだ。もうすぐランチタイムも終わりだからね、今から生地を作って、置いてる間に私たちは夕食」

「そっか」

 なるほど、彼女が言う通り、地下室の方が季節で温度が変わりにくいから、パン生地を発酵させるのに向いているかも。


 そこであっと思い付いてしまう。

「ねぇバーバラ、食材を買って帰りたいんだけど、どこかお店知ってる?」

 その一瞬の閃きに、私は好奇心を抑えきれなかった。

 

 食材は、この時間に買いに行っても、牛乳や卵は良いものがないとのことで、バーバラのお父さんのご厚意で分けていただいた。

 勿論代金は払ったけれどね。

 おまけでバターも分けてくれたのがありがたい。


 それからジャンさんたちの露店に戻り、ハチミツと砂糖を購入。

 さらに目的の物や代用出きるものを売っているお店を聞いて全てを支度して帰った。

 なお料理をする予定なので、カノンのために普段着用のワンピースも1着購入して、着替えさせている。


 さて、宿屋に帰った私たちはまず庭の使用許可を求めた。

 火を使うので、その事も確認。

 普段受付を担当している看板娘のダノンちゃん11歳が、見守ってくれることになり一緒に庭に出て、その一角を占拠した。

 アリアとカノンに下準備の指示を出してから、こっそりと宿の部屋に戻り、リュシーとリュリュがお昼寝中なのを確認、リュリュの体調が復調していることを聞くと、おやつを準備するので起きたら適当に庭に連れてくる様にユティにお願いしてそのまま庭に戻った。

 ユティにカノンのこと紹介し忘れたけれどまぁ後でも良いかな?

 今は時間との勝負だ。

 ただでさえ道具が代用品でうまくいくかわからない。

 

 庭に戻ると、すでに二人が指示を守って作業を開始していた。

 アリアは串焼き用の串を束ねた物を握り一心不乱に卵白をかき混ぜ、泡立ててくれている。

 カノンも私のお願いした通り小麦粉と卵黄そして牛乳を混ぜてくれている。


 泡立て器がないので、・・・確か箸でもできると聞いたので、少し太めの魚を焼く串用の串を購入してきた物を紐で固定している。

 小麦粉も本当なら薄力粉が良かったんだけれど、パンを焼く用の粉だから多分強力粉に近いだろう、ここも不安な点。

 と、私も用意しないとね。


 私は買ってきた物を集めておいてある場所に行くと、ダノンちゃんが年の近い上に名前も似ているカノンに話しかけてこちらを見ていないのを確認してから、インベントリの携帯七輪を取り出した。

 まさか早くも出番が来るだなんて・・・。

 さらにその上にホットプレート代わりに購入してきた素材の板鋼を網を外してセットした。

 したけど・・・これどうやって火をつけるんだろう?


 魔力を燃すんだから、タブレットの魔法道具みたいな感じに手の熱を分ける感じ・・・?

 試しに窪んで持ち手になっているところに魔力を込めると、七輪の上にのせている鋼板が温まってきた気がする。

 とりあえずこれで様子をみてみよう。


 次に港で売られていた木材のうち竹材と思われる物の切れ端を入手している。

 これをうまく使えば憧れのアレが作れるのでは?と追加で入手した。


 それからアリアが攪拌した卵白を受けとると砂糖を足し、さらに泡立てる。

 疲れにくい体で良かったと思うくらい手首を動かし続けるとようやく角が立った。

 メレンゲの完成だ。

 先程までカノンをかまうのに夢中だったダノンちゃんがようやくこちらに興味をもった。


「わぁ、なんですかソレ?白身魚のすり身みたいですねぇ?」

 と、港町特有の喩えなのか、メレンゲに興味津々になっている。

「これはメレンゲっていって、見てたと思うけど卵白を泡立てたものだよ?」

 ふくらし粉があるかわからないから、一手間かけてみたんだ。

 幸い砂糖は割りと質も良く、粒も揃っていたのでメレンゲを作るのに不足はなかった。


 次にソレをカノンに用意させた生地に徐々に練り込んでいく。

 泡を潰さない様にってよく言うけど、結局意味はわからなかった。

 私は料理とかお菓子作り、そこそこ好きだったけれど、技術や気性的に向いていないんだろう。

 ソレでもパンケーキ位なら・・・と思いついたのがつい1時間ほど前・・・そしてとうとう1枚目が焼けた。


「ふぁー、良い匂いなのです」

「お嬢様はこういったこともおできになるのですね」

 アリアとカノンとは少し興奮した様子で1枚と呼ぶのが憚られるほどの厚みに膨らんだパンケーキに熱い視線を注いでいる。

 そしてソレ以上に熱い視線でパンケーキを見つめるダノンちゃん。


「なにこれなにこれ、みたことない、こんなホワホワなの見たことない!なにこれパン?パンなの?あ・・・失礼しました」

 お客様にたいする口の聞き方も忘れちゃうくらいの興奮を見せるダノンちゃん、年下のよそ様の子じゃなかったらおでこペチンしてたよ?


「これはパンケーキっていって・・・」

 あぁ、なんだっけ?パンって食べるパンのことじゃないもんね確か・・・。

 良いや適当にごまかそう。

「鉄の上で焼くから!パンケーキ、オーブンってパンを焼くのに塞がってたり、魚焼いたりして匂いがついちゃうじゃない?でもたまには甘いケーキも食べたい、そこでこのパンケーキが生まれたのよ」

「はぁーなるほどー、これなら確かにオーブンを占拠しませんし、魚に匂いもつかないですね、ムツキさんって意外と物知りなんですねえ」

 と、誉めたのか貶したのかちょっとよくわからないダノンちゃんに、毒味役をしてもらうことにする。


 すでに私は2枚目にかかっているので、アリアにお願いして皿にのせてもらい、ダノンちゃんに試作1枚目を食べてもらう。

「た、食べて良いんですか?」

「うん、ダノンちゃんが見守ってくれたお陰で、お庭で火をつかわせてもらえたしね、そのお礼だと思ってよ?」

 と、許可すると、彼女は緊張気味にパンケーキを切ると一口目を頬張った。

「どう・・・?美味しい?」

「ぬふー、ホワホワでおいひぃですぅ!ほのかに甘いですし、食堂の甘いパンも好きでしたけど、比較できないくらいホワッホワですぅ」

 とまなじりを下げてうっとりとすると、幸せそうにすぐに二口目を頬張る。

「とりあえず成功みたいね、じゃドンドン焼いてくからアリアとカノンも焼けたら食べてね、リュシー達が起きてきたら配膳してもらうから」


「はい、お嬢様」

「はい、マ、ムツキお姉様・・・」

 お料理は、修道院に居るときによくティータやセレナ達とやっていた(設定上のことなのか、実際に記憶があるのかは私にはわからないけれど)とかで、カノンの緊張も少しは解れた様に見える。

 実際、生地をこねる手際も、卵白と卵黄を別ける手際も悪くなかったし、慣れてるんだろう。

「(なんだ、やっぱり治癒術以外の取り柄もあるじゃない)」

 見つめる私をキョトンと見つめ返すカノンの姿に癒しを感じながら、その後も私は十分な枚数のパンケーキを焼いて、主役の登場を待ったのだった。

シスターと言えばお菓子作り、と作者が考えてしまうのは、幼稚園の頃にシスターの先生がよくお菓子作りの話をしてくれたから・・・なのかもしれません。

パンケーキを一緒に作ったのでカノンの懐き度が少しあがった様にムツキは感じていますが、実の所最初からカンストです。

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