G20話:本日の成果
前回のあらすじ
初仕事のためグリモスの南の街道へと出掛けた私とアリアは、真の目的である新たな使い魔の召喚を行うことにした。
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ランチタイムが終わりに差し掛かった頃、私たちはグリモスに帰ってきた。
戦利品は結構な量の薬草類と、襲いかかってきたビーチリザードという、魔物に分類される生物の死体が2つ。
現地で作った木工のソリにのせて持ち帰っている。
インベントリに収めれば重さを感じずに運べたかも知れないけれど、それでは不自然なので致し方ない。
ビーチリザードは80cm程のトカゲの様な外見で、尻尾と
指の間に水かきの様な皮膜が発達している。
召喚を試みていたとき、近くにいた彼らは私たちが動きを止めたのを感知したのか近寄ってきて、アリアの手によって見事退治されたのだ。
どうして名前がわかったかといえば、その後インベントリに入れてみた時にアイテムとして判別され、魔物ビーチリザードの肉塊として表示されていたからだ。
ついでに食用に向いているとあったので一応持ち帰ってみた。
「少し重たかったけれど、なんとかもって帰れたね」
「えぇ、ソリのお陰ですね、服も汚さずに済みましたし、あの子のお陰ですね」
と、アリアも文明の利器と、それを作ってくれた新しい仲間を誉める。
訳あって別行動になったけれど、3枚目の使い魔カードとして選んだ騎士に憧れる少女はすごく良い子だった。
騎士に憧れているだけあって協調性が高く、狩人の娘として培われた手先の器用さと、現場にあるものでソリを作ってしまう手際の良さはまさしく私たちに必要な女の子だった。
外見はユティと変わらないくらいで、胸は私よりも薄いくらい、引き締まった体つきをしていて、好感が持てた。
性格はなんだかちょっぴり後輩気質で、彼女にはフォニアと名前をつけた。
「性格も良い子だったし、明明後日の再会が楽しみだね」
「えぇ、そうですね」
私の言葉に相槌を打つアリアに対して、もう一人はまだ緊張しているのか口数が少ない。
「大丈夫?町に入る前に少し休憩する?」
彼女は体力に劣る面もあるので、少し気にしてあげないといけない、なにしろ稀少な治癒術の使い手でもあるので、これから幾度とお世話になる。
その上・・・
「は、ははは、は、はい!だ、だいしょうぶなのです!多分!はい」
状況にあまりついていけていないらしくて、先程からずっとこの調子だ。
「カノン落ち着いて、私のことはお姉様だと思って良いんだから」
濃い茶色の髪を肩の辺りで切り揃え、泥まみれの白いローブを身に纏った外見10才位の女の子、カノンと名付けた彼女は、緊張しいらしく、召喚してからずっとほぼ涙目である。
魔物の死体をみては悲鳴をあげ、植物に裾を引っ掻けては悲鳴をあげた上盛大に転び、さらには水場にはまってと一人で大賑わいな女の子
こけて出来たケガは自分でヒールをかけて治していたので、治癒術の腕は確かだろうけれど・・・。
「これからあなたの事を冒険者登録するんだから、あまり緊張しないでよ?」
「ひゃひゃ、はい、が、がんばるのです!」
ガチガチのカノンはペチペチと自分の頬を叩きやる気を見せるけれど、自分で叩いたのが痛かったのかまた涙目になっている。
「もう、そんなに強く叩かなくても良いでしょうに」
可愛いので和んでしまうけれど、少し申し訳ない気持ちにもなる。
赤くなったカノンの頬をさすってやりながら、私は彼女達を呼び出した時の事を思い出した。
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「それじゃ、始めるよ!」
力強く宣言した私に、アリアも頷いて。
私はカードケースから取り出したシスターオブアコライトのカードを賢者の短剣になぞらせた。
途端にその場に風が巻き起こり、岩場の間の砂に何か円型の模様が浮かび上がる。
さらにその模様は、私の体から抜け出た光を吸収して輝き始める。
あまりの眩しさに目を閉じたけれど、その時アリアの何か叫ぶ声が聞こえてきた。
やがて光が収まったのがわかったので目を開くと、そこにはカードイラストをそのまま現実にした様な女の子達がいた。
「え、シスターってそういう意味!?」
尼さんとか修道女的な意味のシスターだと思っていたのだけれど、目の前にいるのは、カードのイラスト通り3人の女の子、左右の二人は裾の膨らみの少ない、黒のローブを身に纏い、頭には白と黒の布製のヴェールかなにかをつけている。
そういう意味では修道女というイメージには沿っているか?
それに対して真ん中の子は白いローブを身に纏った幼い少女で、その胸元には大きな十字架がかけられている。
まさかね・・・、3人一組だったなんて・・・
「想定外ね」
「3人出ましたね」
アリアも驚いたみたいだけれどなぜかその手には血に濡れたアンシーリーコートが握られている。
「呼び出しに応え参上致しました」
「どうぞわたくしたちをお役立てください」
「せ、誠心しぇいい、ちゅとめます!・・・うぅ・・・ってひゃあぁぁぁぁぁ!」
ベシャ!
3人は私に向かって挨拶をしたけれど真ん中の子はなぜか叫び声をあげるとその場で砂に足をとられて転んだ。
尻もちをついて、涙目になっている。
「あ、妹、大丈夫?」
「末ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫・・・って大丈夫じゃないのです!そこ、おっきいトカゲが!た、食べられりゅう!」
と、どうやら姉妹らしい彼女たちは3人とも同じ、濃い茶色の髪をしていて、末っ子は肩までの髪、上の二人はヴェールに隠れて長さはわからない。
そして、末妹の示す先を見るとそこには首を半分切られ動きを止めた大きなトカゲが横たわっていた。
さすがに私もビックリする。
「きゃ!な、いつの間に!?」
するとすぐにアリアが答えをくれる。
「お嬢様の召喚の風の音か光か、それともその前まで歩いていたのが、足を止めてここで休んでいる様に勘違いさせたのか、襲いかかってきたので撃退しました」
さすがは護衛メイドだけあって、私を守ってくれたらしい。
「大丈夫だよ、妹、もう死んでるってさ」
「ほ、本当ですか・・・?」
おそるおそるといった様子でトカゲの死体を眺める末っ子ちゃんは涙を溜めた目がウルウルとしていて、みているだけで庇護欲を掻き立てられる。
10才位だよね?
「えっとあなたたちの私への認識と、自分たちの認識を聞いておきたいんだけれど?」
ひとまず気を取り直して訪ねると、上の子が代表して応える。
「私たちを選んでくださったマスターです。私は姉シスターです。妹たちよりは多少打たれ強いので壁役をすることが多いですが、治癒の術も少しだけ使えます」
姉シスターが言葉を終えるとすぐに間の子が言葉を続ける。
「私は、妹シスターです。姉や妹と違って治癒の術は素質がありませんが、破魔の力が姉より強いです。多少機敏なので姉を盾にしつつ敵を攻撃します」
と、彼女は少しさばさばしているみたい。
ただ格好がお姉ちゃんと同じなので区別がつかないかな?
妹シスターの言葉が終わると、自然全員の視線が末っ子アコライトに集まるけれど、何を求められているのかわからないらしく彼女は首をかしげた。
「末ちゃん、マスターに自己紹介しないと!」
と、姉シスターが耳打ちしてようやく理解できたのか、彼女は再起動して言葉を紡ぐ。
「ふゃ!?妹のアコライトなのです!打たれ弱いし、どんくさいですが、治癒の術が多少得意です。がんばりますからあまり怒らないで欲しいのです」
ちょっぴり弱気でドジな子みたい、医者がドジなら怖いけれど、ヒーラーなら大丈夫だろうか?間違えて敵をヒールしたり・・・、実際の動きをみないとわからないか。
「末ちゃん、落ち着いて・・・」
姉シスターが後ろから妹アコライトを抱き締めると、妹アコライトは少しだけ照れ臭そうにしながら、でも少し落ち着いた様子を見せる。
「はぅ・・・お姉様、ごめんなさいです。私、またダメな所を見せてしまいました」
半べそ状態の妹アコライトは申し訳なさそうに、回された姉の腕に下から手を重ねる。
姉シスターは、愛おしそうに妹アコライトの耳に口を近づけると
「私の末ちゃん、大好きよ?」
と呟いて、妹アコライトはさらに顔を赤くしながら縮こまる。
とりあえず落ち着いたみたいだ。
その間に使い魔の画面でステータスを確認していたけれど、どうやら彼女たちは3人別々に認識されているらしく。
画面にはシスアコ長女、シスアコ次女、シスアコ三女として表示されている。
維持コスト3の正体は一人辺り1らしい。
気分の悪さとかは感じないね、ならばこのまま次にいってみようかな。
「続けて次の子を召喚するけど、もしも私が倒れたらこのアリアの言うことを聞いてね?」
と、3人に語りかけると、3人は物わかり良く頷いた。
アリアと同じで従順みたいだね。
「それじゃ行くよ!」
私は2匹のトカゲをインベントリに収納して場所を空けるとそこにめがけて、騎士に憧れる少女のカードを賢者の短剣にかざして振るう。
すると先程と同様、風と光が起こり目を開けて居られなくなる。
「ふぁややややーぁ!?」
と、なんとも気の抜ける声がして、多分妹アコライトの転倒する音も聞こえるけれど見えないので助け起こすこともできない。
少しして光が弱まったのを感じて目を開けると、そこには私なんかよりよほど冒険者風の女の子がいた。
年はユティと近そう、細身で引き締まった体つき、髪は・・・3姉妹よりは明るい焦げ茶色かな?
ボブの髪は少しぼさついていて、折角の可愛い顔立ちなのに、勿体無いと感じさせられる。
「こんにちは、騎士に憧れる少女?」
「はい、こんにちはですマスター!」
明るい、そして前向きそう。
何よりも名前が呼びにくい!
使い魔の画面で確認すると表示されている名前は憧れる少女、なんと言うか・・・酷いね。
呼びにくいし早めに名前をつけてあげよう、4人ともちょっとにてるし、揃えて覚えやすい名前が良いかな?
一応本人たちにも聞いてみようかな?
「早速だけど、名前を付けます!希望はありますか?」
と、4人に向かって訪ねるけど誰もうんもすんもない。
「じゃあ私が呼びやすい様に決めるね」
4人組で、全員年齢がバラバラで・・・あぁアリアはおき魔女の一歌が変身する魔法少女の名前をもらったんだよねぇ・・・それならば。
第1シリーズラストである3期目の、「おき魔女組曲」から主人公4人の名前をもらおうかな。
外見の年の順番に姉シスターから命名していく。
「貴方の名前はティータ、貴方はフォニア、貴方はセレナ、最後に貴方はカノン・・・」
命名する度に、命名の注意の窓が開いて、本当に名付けますか?と私に問うのを全てオーケーしていく。
するとやはり注意の通り、少しずつステータスが上がる。
名前をつけた瞬間から名前を強く認識できるのか、4人の少女達は特に違和感は感じていない様子で、ティータお姉様とか、フォニアさんとか、お互いを呼びあっているし、初対面のはずのアリアのこともどこか尊重する様子を見せる。
確認の意味も込めてアリア含めて5人のステータスを再確認見ると・・・。
アリア レベル8 絆0
HP492/500 MP18/18
ATK120DEF57MATK2MDEF36AGI40ACC44
アリアの攻撃力には今は手に握っているアンシーリーコートや、革のドレスの数値も反映されているね。
シスアコ長女改めティータ
ティータ レベル7 絆0
HP440/440 MP33/33
ATK19DEF29MATK33MDEF36AGI30ACC37
シスアコ次女改めセレナ
セレナ レベル5 絆0
HP440/440 MP23/23
ATK22DEF18MATK18MDEF22AGI23ACC12
シスアコ三女改めカノン
カノン レベル3 絆0
HP410/410 MP23/23
ATK13DEF26MATK63MDEF53AGI9ACC6
最後に憧れる少女改めフォニア
フォニア レベル7 絆0
HP470/470 MP11/11
ATK32DEF41MATK2MDEF19AGI24ACC24
恐らく4人は武器をつけていない数値かな?
アリアの数値の出かたからしても、防具は採用されてるっぽい。
その後確認させてもらうと、ティータはメイス型の武器、固有名スターメイス、攻撃力24
セレナはモーニングスター型の武器、固有名モーニングコール、攻撃力22を持っていた。
モーニングコールっていうか、殴られたら永眠しそうな武器だけどね・・・。
フォニアは固有名のないトマホークとセルフボウを持っていて攻撃力は9と12だった。
さらに一見武器を持っていなかったカノンは、胸に下げたロザリオが武器の代わりみたいで、追葬のロザリオMATK45MDEF20となかなかえげつなさそうな数値をしている。
どうやら意識の混濁とかもないみたいなので、恐らく5を切らなければ大丈夫なのだろうと当たりをつけ、次にこれからについて考える。
正直、2人増やすつもりが一気に4人も増えてどうするんだ・・・って感じ。
さすがに初めてのお仕事で四人も見つけてきたらジャンさんたちにも迷惑だよね?
馬車にも乗り切らないし。
ちょっと考えないとね。
「ねぇ、ティータとカノンは治癒の魔法が使えるんだよね?」
私が問いかけると、二人は頷いた。
「はい、ただカノちゃんの方が効果が高いですね」
と、ティータはすでにカノンに愛称までつけている。
カノンはそ、そんなことないよ、お姉様たちと違って破魔の術は使えないし・・・と謙遜している。
ステータス的にも前衛攻撃役、前衛盾役、ヒーラーと別れているし、元々そういうコンセプトの使い魔ユニットだったのかな?
三人一組でバランスがとれている。
でもティータも治癒の魔法が使えるなら、カノンを借りて、代わりにフォニアをいれてもある程度バランスは取れるだろう。
「少しお願いがあるの、ここから南に一日半の距離にザラオって港町があるんだけれど、だれか3人で先行してて欲しいの、それで、私とアリアの方にティータかカノンのどちらかがついてきてほしい。私たちには旅の道連れがいるんだけれど、その人たちの馬車には全員は乗れないのよ」
「つまり、先にザラオと言う町に入ってマスターたちをお待ちしていれば良いのですか?」
ティータはメイスを手の中で遊ばせながら、尋ね返す。
他意はないはずだけれど、鈍器を持った可愛い女の子って、なかなか狂気じみたものを感じるね。
「そうだね、後私たちの設定なんだけれど・・・・」
冒険者ギルドへの建前、ジャンさんたちへの建前などを言い含めて、路銀も3人分袋に入れて、話し合いの末カノンが私たちと来ることになった。
さらにその後で、5人がかりで薬草の採集などしてから別れたのだ。
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「それにしても、きちゃなくなっちゃって・・・後で、お洗濯してあげないとね」
乾いて固まった髪についた泥を指で崩して払ってやりながら頭を撫でると、申し訳なさそうな涙目の上目遣いでこちらを見つめるカノン、なかなかに可愛らしい。
「うぅ、ごめんなさいなのです・・・」
「謝らなくて良いの、アリアなんか女の子の御世話するのが大好きなんだから、御世話させてあげる!位の気持ちでいれば良いの」
アリアは私の言葉にウンウンと頷き後ろからカノンを抱きすくめる。
その感触、あるいは温かさが良かったのかカノンは恥ずかしそうにしながらもおとなしくなった。
そういえばさっきもティータにそれで落ち着かせられてたね。
「カノン、貴方はお嬢様にお仕えする同志ではありますが、同時に妹分でもあります。妹からそんなに風に怖がられては、私は少し寂しいです」
と、アリアはカノンの耳朶を唇で食みながら呟く。
「ふゃ・・・く、すぐったいのです、アリア姉様・・・」
赤くなり、相変わらず涙目のままで切なそうに呟くカノン
どこか危ない雰囲気を醸し出した二人をそのまま眺めていたい気持ちも微かにあったけれど、ここはすでに町の中、あまり目立つのも良くない。
「カノン、アリアを手伝って一緒にソリを引いて」
冒険者ギルドまではあと僅か、カノンも多少落ち着いたし、早くリュリュを抱っこしに帰りたい!
仲間がたくさん増えましたが、一人を除いてしばらく別行動になりました。
1枚のカードから3人の女の子が!お得ですね。