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G19話:初仕事へ

 前回のあらすじ

 リュリュのお腹とお尻がムズムズするので、今日はちびちゃんズはお出掛けをしないことになった。

 お留守番の3人を宿に残し、私とアリアは冒険者としての初仕事に出掛けることにした。

---

 どこか男前なギルドの受付嬢アミィさんに、いろいろな素材の生育する環境や獰猛な獣や魔物の出難い幾つかの狩場の情報を聞いた私とアリアは、グリモスから南側、明日昼から通る予定になっているザラオ方面の街道を歩んでいた。

 グリモスから南側の街道は、右手、西の方角に私たちのスタート地点であった丘陵地があり、左手側、東の方角には広く海を見渡すことができる。

 町の近くと違って、砂浜と街道との間には落差は小さいものの海岸段丘が発達している。

 単に町の砂浜は落差を切り崩しただけかも知れないけれど。

 そういえば港になっていた場所は逆に砂浜がなくて、段丘と同じ高さのままの舟着場が海に向かって延びていたね。

 もしかしたらあの港は沿岸で水深が深めなところの段丘を切り崩して作ったのかもしれないね。


 海の向こうにはそれなりに大きな島が見えていて、そこは海エルフの居留地「朝露の島ブラットレーネ」だという。

 以前はグリモスもその海エルフ達の町だったそうだけれど、今はその島に閉じ込められているらしい。


 同じ様に、グリモスの北西側には森エルフの集落「風の通り抜ける森ヴィントワード」もあったそうだけれど、そちらのエルフ達は無理矢理フランステルプレに移住させられたらしい。

 そして、グリモスで使われる木材の生産地扱いでヴィントワードは切り開かれているのだそうだ。

 アミィさんの言っていた護衛の依頼というのも、ヴィントワードとの街道にロードランドッグが頻出するために行商が護衛を雇うグリモスではお決まりの依頼のこと。


 まぁセブンリングスは好きになれないけれど私みたいな個人がどうこうできることではないので、とりあえず警戒に集中する。

 マップと索敵機能を使いながら、さらに解像度も調整して遠近問わずはっきり見える様にしている。

 アリアは私の半歩後ろについているけれど、これは私を矢面に立たせているわけではなく、後ろからの予期せぬ攻撃(実際には索敵によって予期できるけれど)からは身を挺して私を守り、私を視野に入れることを目的としている。


「いい景色だねぇ、アミィさんがいってた目印の岩場まで後どれくらいかな?今日のお昼も食べに行くってバーバラと約束したし、できればランチタイム終わりまでに町に帰れる場所だといいけれど・・・。」

 周りを警戒したまま後ろのアリアに聞こえる様に声をかける。

 街道だけあって、人通りはまったくないわけではなくて町を出て30分ほどの間に、私たちを追い越していく馬車と、ザラオ方面からくる馬車1つずつとすれ違った。

 しかし今は近くに動物も人もいないので、そこそこ大きい声を出している。


「お嬢様とご一緒できるだけで私にとってはどこでも良い景色なのですが、そうですね、早くリュシーちゃんやリュリュちゃん、それにユティのところに帰ってあげたいという気持ちもありますね」

 アリアは落ち着いたやわらかい声で私の言葉に答えた。

 アリアもあのかわいい妹たちのことを大切に思ってくれているのが嬉しい。


「そうだねぇ、あ!何かお土産になる様なきれいな石とか、お花とか用意したいよねぇ」

 貝殻拾いも楽しかったし、二人はきれいな貝殻をポシェットに入れてご満悦だったから、更なるお宝を渡してあげたい。

 もちろん彼女たちが自分で探したものの方が良いのだろうけれど、大切な人からのお土産はそれがガラクタであっても子ども心を擽るものだったはずだ。

 石なら保管もし易いだろうし、花なら押し花にすれば長持ちする。


「お嬢様が楽しそうで何よりです・・・と、どうやらあそこが岩場ではないでしょうか?」

 アリアが示した方を見ると、確かにそこにはアミィさんの教えてくれた岩場らしきものが見える。

 まだ2kmくらいあるかな?街道からはわずかに外れた海沿い。

「あそこから海を背中にしてまっすぐ陸地側に入ったところにある水場周辺で薬草類が取れるって話だったよね?」

「はい、それではまずは岩場に参りましょう」

 岩場はあくまで目印で、あの岩場が見えたら薬草狩が目的の人は水場のほうを目指すという。

 それはつまり岩場の方にはあまり人が行かないということだ。

 なので私たちは、その岩場を次の召喚を行う場所として選んだ。


 少しずつ近付いて見ると岩場は3mくらいの岩塊がいくつも転がっている場所で、その内側は見えにくい。

 その上近づいてきてわかったけれど、周囲の魔物も少なく、海の方に2つ白い◇があるだけだ。

 マップにはそれが映っているものの、その位置はすでに海の中で、肉眼では何も見えていない。


 それにしても、小さな虫もたくさん近くに居るのに、マップに索敵されないのは、大きさ故か、それとも別の基準があるのか?

 今だって近くに海があるのだから魚や貝、カニだっているはずなのに・・・その存在はマップに示されていない。

 驚異度とかが関係あるのかも?

 敵になる可能性があるかどうか・・・とか?

 その可能性を考えれば二つの◇の動向には注意を払っておく必要があるだろう。


「さて、岩場まで来てみたけれど、近くで見ると大きな岩だねぇ」

 岩場の近くは海岸段丘が続く中、そこだけは砂浜に向かってなだらかな坂道が出来ていた。

 そこを降りて、岩場のすぐ横まで来ると、岩は3メートルほどの高さと、大きいものではさらに7メートルの幅に5メートルの奥行きまで持つものすらあった。


「天然の岩だと思うけど大きいねぇ、どうしてこんなのが海岸に幾つも落ちてるんだろう?」

 ここは砂浜だし、こんなに大きな岩塊が崩れてくる様な崖もない。

「わかりません、わかりませんが、今の私たちにとって良い目隠しなのは確かです。ここなら街道から見えないでしょう」

 アリアは周囲を軽く見回しながら言った。


「うん、そうだね、早いところ始めようか?」

 こんなところに来たのは、新しい使い魔を呼び出す為だ。

 条件はアリアの時とほぼ同じ、女性で今の魔力で呼び出すことが出来て、そして私に近侍していてもおかしくないこと。

 これはジャンさんたちに語った設定と冒険者登録に使った設定とに関わることで、ジャンさんたちには船の仲間が見つかったと伝えることになり、冒険者ギルドには私を心配してメイドが追いかけてきたと理解される様にぼかして伝えれば良い。


 次に新しく発覚した条件たち。

 ひとつはセブンリングス、あの法律がある以上亜人系は呼ぶことができない。

 もうひとつは・・・

「盲点だったよー魔力を使いすぎると昏倒することがあるだなんて・・・」

 冒険者ギルドのアミィさんから聞いた話では、魔法つかいが急激に魔力を使って昏倒することがあり、有志の研究によってその基準になるのが、だいたい魔力が最大値の25%を切ると意識が朦朧としはじめ、20%を切るとほとんどの者は気絶してしまうという。

 ほとんどのというのは、例外があるからで、大魔法使いと呼ばれる様な者や魔法力の多い者はこの%での法則に引っ掛からない場合があるそうで、例えば体力に優れるもの達の多い獣人たちの中において、神秘を宿すとまで呼ばれた牛系獣人マイノーター族には魔力が500に届く者も居たそうだが、彼らはこの25、20%の法則には該当せず。

 魔力が50辺りを切ると昏倒していたという。


 つまり魔力が低い者は25%を目安に、そして魔力の高い者は50を目安に考えろということだね。

 私の場合最初の日MPが22で、アリアの召喚に18を消費したら倒れた。

 22の魔力に対して4だと20%を切っているので倒れる目安とも辻褄があう。


 ひとつ問題としては、私の現在のMPが34であるのに、冒険者ギルドの計測では340となっている。

 今の私の場合25、20%の法則で考えれば、MPが9を切った辺りで朦朧として、7か6を切ったら倒れることになる計算だけれど、50ラインで考えるなら28か29消費する召喚にも耐えるということになる。


「それで、どうなさるのですか?」

 アリアにはすでに夕べのうちに相談しているので、ここでの議論はそう残っていない。

「やっぱり夕べの話し合いの通り、25から27の消費魔力で呼べる子を選ぼうと思う、みんなが待ってるのに寝ちゃうと困るしね?」

 なので25%を切って朦朧とするかを今日のところは試す事にした。

 20%を下回ったり50、私のステータスの場合MP5を切ったりということは試さない。


 実際消費魔力18のアリアでもロードランドッグを真っ二つに出来る戦力だしね。

 まぁ彼女は攻撃魔法が不得意な代わりに低いコストでステータスが高めな護衛メイドだったというのもあるかもしれないけれど・・・とりあえず候補は夕べ念入りにアリアと話し合って3枚のカードに絞っている。


 1枚目は消費MP27、維持コスト3、人型/風属性のレアカード、鎌鼬かまいたち女忍おんなしのび

 バージョン1.2のカードで、高い攻撃力と素早さ、クリティカル率を誇る低コスト帯でもやや高い消費のカード、高い素早さを生かしての奇襲などに向いた使い魔だという。


 2枚目は消費MP26、維持コスト3、人型/闇属性のレアカード、賢者の卵。

 バージョン1.1のカードで、魔法使い系統のカードなのでコストの割りに耐久力などフィジカル面のステータスは低いけれど、攻撃力が高い。


 3枚目は消費MP26、維持コスト2、人造/闇属性のコモンカード、ホムンクルスエリミネイター

 バージョン1のカードで、外見は人型だけれど実際には名前の示す通りホムンクルスで、ステータスは高くないけれど、耐久力と回復力に優れていて、体の欠損を受けても再生する。

 この3種のカードなら1枚で消費MPの条件を満たすことができる。


 だけど、今朝のリュリュのお腹ムズムズを受けて、私はヒーラーの必要性に思い至った。

 この世界には魔法がある。

 魔法の道具や魔物もいる。

 その世界の中で、一人前の魔法使いと呼ばれるのはごく少数に留まり、中でも治癒術をよく扱える者は数えるほどしかいないという。

 子どもたちが怪我を負ったり、熱を罹るなどした時に、それが直接死や後遺症に繋がりうるのに、医者は民間療法レベルで頼れるのは治癒術使い、それも地方には似非術士ばかりで、王都をはじめとする大きな町にしかまともな治癒術士はいないとなれば、あの可愛い妹たちのために治癒術士を確保したいと強く感じたのだ。


 所が困ったことに狙いの25~27消費の治癒術系統の使い魔で人型女性というのがいない。

 そもそも、実物のカードに表記されているコストは5刻みの10から150までなのに、召喚の画面だと事細かに細分化されているのは何でだろうね、アリアはゲームカードのコストは15で、召喚用の画面ではMP18の維持コスト1だから、ゲームで簡略化されてる部分が詳細になったのかとも思ったけど

 よくよく精査すれば、ゲームでは一様に10コストだった見習いサーヴァント、ゴブリンシーフ、クピド、ベビードラクルを例にしても見習いサーヴァントは消費6、ゴブリンシーフは14、クピドは23、ベビードラクルに到っては77と全く異なる数値に成っていた。


 なので、条件に合うカード探しも、それなりに面倒があった。

 一度手元にカードを出して、外見を条件に探して、それから召喚の画面で確認する必要があったのだ。

 その手間を忘れた訳ではないけれど、早めに治癒術士を確保しておきたいと、私は半ば強迫観念にとらわれたみたいになっていた。


 幸い、人間の女性の姿をしているカードは入れ物を分けている。

 インベントリから鞄の中に移して、召喚の項目にもう一度目を通して、治癒術士系統の使い魔を探す。

 そうして目についたのは・・・


「シスターオブアコライト・・・」

 アコライトとはミサの時に司祭に仕える侍者のことらしいけれど、EoSでは見習い聖職者ということになっている。

 それも聖職者=治癒術を使う代表格というファンタジー的常識の下に・・・。

 つまり比較的低コストで治癒術を用意できるカードな訳だけれど、バージョン1.1で追加された照れ屋のアコライトはスーパーレアのカードであった上、イラストが人気の作家の手のモノだったためリサイクルボックスに落ちている様なこともなかった。


 ところが、アリアと一緒に暴いた筐体の中から取り出したカードにはこの、シスターオブアコライトが含まれていた。

 レアリティはやはりSRだけれど、照れ屋のアコライトと比べるとゲーム時はコストが5高い15で、それでも人型勢力には貴重な低コスト回復役のカードだと、一目でわかった。


 現在召喚用のページで確認すると、シスターオブアコライトの消費MPは護衛メイドと同じ18、維持コストは3、目標の25~27には届かないけれど、これともう一枚なにかを用意してやることで目標の数値を満たすことにして・・・

「この子を、召喚しようと思う」

 アリアに改めてカードを示すと、アリアもヒーラーの大切さにはすでに思いいたっていたみたいで

「アコライトということは、下位の治癒術が使えますね、よかろうと思います。私も治癒術士の確保は喫緊の課題だと感じておりました」

 と頷いた。


 これで心は決まった。

 私が呼び出す2枚目の使い魔カードはシスターオブアコライト、鞄の中の使い魔カード入れから、シスターオブアコライトのカードを探すと、左右にメイスを持った修道女姿の護衛を従えた幼く見えるアコライトが祈りを捧げている図が描かれている。

 そして3枚目は消費MP9の騎士に憧れる少女を採用した。

 騎士に憧れる少女は、裏面テキストによれば、短弓と投げ斧とを得意とする狩人の娘であるらしい。

 騎士に憧れているだけで騎士ではないのがミソで、中距離攻撃が得意で、協調性も高い。

 アリアとアコライトと合わせて前衛後衛ヒーラーが揃えば戦いやすさも変わるだろう。


「それじゃ、始めるよ!」

 力強く宣言する私にアリアも頷いた。

初仕事は受注しないタイプの納品系依頼になりました。

地味で、報酬も僅かですが、失敗する危険のないやつです。(野生の獣や魔物に襲われればその限りではない)


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