G18話:「おねえちゃん」になった私
前回のあらすじ
ジュリエッタ・・・ユティとさらに仲良くなった。
これからはリュシーとリュリュだけじゃなくて、ユティのことも妹として可愛がろうと決めた。
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あれからまたしばらく経って、ジャンさんたちが帰ってきた。
「ただいまー、リュシー、リュリュ、パパ帰ってきたぞぉ!」
やけにテンションの高いジャンさんは、帰宅後すぐに持っていた荷物を床に置くと幼い娘達に飛び付き
「パパおひげショリショリしゅる!アハハハハハハ!いたい!」
「マァマ、マァマがいい!」
と、やっぱり上機嫌?の娘達もハグで応える。
・・・リュリュは腕から逃れようとしている様に見えなくもないけれど、仲良し親子なのは間違いない。
「ムツキちゃん、アリアさんもありがとうございました。途中で娘達を連れてきてくれて元気がでたわ、ただいまリュシー、リュリュ、お姉ちゃんたちの言うこと聞いてお利口さんにしてたかなぁ?」
ルイーズさんも仕事明けだとこんな不思議なテンションになるんだね、なんとかジャンさんの腕から逃れたリュリュ(本当はジャンさんが腕から開放しただけ)を抱き上げると頬ずり、チークキス、また頬ずり、からのハグとコンボを見舞う。
リュリュももちろんパパの腕を逃れてまでママに飛び付いたので大喜びで抱きつき返している。
それが終わると再びリュリュは本当は(ママの次に)大好きなパパの方へ抱きついていき、甘え、代わりにリュシーがママに飛び付く。
エミールは幌馬車を片付けて居るのだろう、まだ戻ってきていない。
ユティはエミールの前ではちょっとすました態度をとってしまうことがあるし、ジャンさん達に伝えるなら今だろう。
ユティはジャンさん達の前に歩いていくと
「お兄ちゃん、義姉さん、ちょっとお話いいかな?」
と、単刀直入に切り出した。
ジャンさんはリュリュのおでこをチュッチュッと吸っていたけれど、ユティの様子が真面目なのを見ると、リュリュを横抱きにしながら向き直った。
「どうしたユ・・・ジュリエッタ」
多分普段はユティ呼びだけれど人前ではジュリエッタと呼ぶ仕様だったのだろう。
愛娘とのじゃれあいで気が抜けていたのか一瞬素が出かけたみたい。
ルイーズさんもリュシーをしっかりと抱いたまま、ジャンさんと並ぶ。
「あのね、今日一日リュシーとリュリュのお世話を二人と一緒にしてたわけじゃない?」
と、ユティは少しオドオドとしながら二人に告げる。
少し不審な(義)妹の言葉を二人はただ黙って聞いている。
「それでね、おちび達の前で呼び分けるの面倒だし、私も二人のこと大好きだからさ、あのね・・・お姉ちゃんって呼ぶことにしたの、それでね、二人には私のことユティって、呼んでもらうことにしたから、お兄ちゃんも二人のこと家族みたいに接して・・・くれるかな?」
なんていうかな、エミールといるときには見せないいじらしい雰囲気に、可愛くて抱き締めたくなる。
初めて会ったときは年上かとも思ったのに、我ながら単純で困っちゃう。
ユティも私の妹なのだと思うと可愛くてたまらない。
ジャンさんはユティの顔をじっと見つめると、やがてふぅと息を吐いた。
「ユティがそれでいいなら、それでいいさ、俺はお前のお兄ちゃんだからな、できる範囲でユティのお願いはかなえてやるさ、それに俺も二人のことは嫌いじゃない、恩人だし、ちび二人もなついてるしな、二人もそれでいいのか?昨日まで様付けで呼んでいたのが一気に家族扱い、それも年下の・・・になるが」
とジャンさんは私たちが気を悪くしないかと尋ねる。
もちろんそんなことは気にしないどころか、大手を振ってユティ、リュシー、リュリュを妹扱いできるとあっては、断る理由が一切見つからない。
「むしろ私のほうがお願いしたいくらいです。私たちはこの大陸で今は二人だけです。ほかの子達が見つかるかどうかもわからないです。そんな中偶然であったジャンさんたちが、すごくいい人たちで、ユティもリュシーもリュリュもすっごくいい子で、私も、たぶんアリアもすごく気持ちが楽になったんです。だからどうか、私とアリアを、次の町までとは言わず一緒にいさせてください」
「まぁうれしい、義理の妹が二人も増えるのね、それもこんなに可愛いムツキちゃんとアリアちゃんが」
ルイーズさんはおっとりとした笑顔を浮かべていう。
しかしアリアは澄ました顔で
「あぁいえ、私はあくまでお嬢様にお仕えするメイドですので、皆様がお嬢様のご家族になるというのであれば、私も皆様のことを主人のご家族として振舞わせていただきます」
と言った。
それに対して、ルイーズさんとジャンさん、それにユティは少し寂しそうな顔をする。
しかしさらにそれを見越していたのか、アリアは言葉を続ける。
「とは申せ、主家の皆様がお子様たちには姉や叔母の様に振舞えとおっしゃるのであれば、メイドはご要望にお答えいたします」
と、アリアは微笑を浮かべて、ルイーズさんに抱かれているリュシーの髪の乱れたところを直す。
「よかった。夕べ子どもたちがすごく喜んでたんですよ、新しいおねえちゃんたち好きーって」
とルイーズさんが笑うとアリアも気の抜けた笑顔を浮かべて
「はい、改めてよろしくお願いしますルイーズさん」
と答えた。
すると次にみんなの視線が私のほうに戻ってくる。
これって私もルイーズさんを呼ぶ流れなのかな?
でも、これからは私はジャンさんたちと家族になるのだから、ルイーズさんのことはユティに倣って・・・姉と呼ぶべきかな?
・・・緊張する。
「ええっと、よろしくね?ルイーズお、おねえたん・・・っ!?」
噛んだ!
悔しい何が悔しいって、ジャンさんもルイーズさんもユティも笑いをかみ殺しているのが悔しい。
幸いだったことは、いまだエミールが戻っていないことか。
アリアはさすがだね、冷静な表情・・・ちょっと頬は赤い気がするけれどね。
それからエミールが戻ってきたころにはさも当然の様に家族としてのやり取りをはじめていた。
もともと客人がいない時にはジャンさんはユティをそう呼んでいたそうだし、それはエミールの前でもそうだったらしいから、単に私たちの前でも余所行きモードにならなくなったというだけのことだ。
エミールはそれでも少しだけ混乱した様子を見せたけれど、すぐに対応した。
家族の団欒の場でもユティはエミールに対してちょっと素直になれない困った性質があって、本当はもっと甘えたいと思っているのが傍から見ていても丸わかりなのが微笑ましかった。
なおジャンさんのことも兄さんとかお兄ちゃんと呼ぼうかと思ったのだけれど、ジャンさんがなにかいけないモノに目覚めそうだからと今までどおりジャンさんと呼ぶことになった。
なので私からの呼び名で変わったのは、ユティとリズ姉(おねえたん事件を引きずったのでニックネームで呼ぶことになった)、アリアからは私以外基本さん付けとちゃん付けでユティだけ呼び捨て、逆に私は基本は呼び捨てで呼ばれてリズ姉からだけちゃんづけ、アリアは今まで通り基本さん付けでリズ姉からだけちゃん付け
そしてもちろんユティからはムツキお姉ちゃんとアリアお姉ちゃんと呼ばれることになった。
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さらに翌日。
今日も今日とて、ジャンさんとリズ姉、エミールは露店活動。
リュリュがちょっとお腹の張りが思わしくなくてグズグズ言っているので、宿でお留守番。
ユティはもちろんお世話役としてリュシーと一緒に宿で過ごすことになった。
私とアリアは、G級冒険者として日帰りでできる仕事があるか掲示板を見てくるからとお出かけすることになった。
海岸沿いでの採取依頼とかがあればそれを受けてみようと思っている。
嘘とはいえ難破した仲間を探していることになっているのだから、それに即した依頼を受け、可能そうならここで一人使い魔の女の子を増やしたい。
今のMPで召喚できそうでなおかつ戦力になりそうな目星はいくつかつけていたのだけれど、少し迷うところもあって・・・
「せっかく冒険者になったんだから、できることにはどんどん挑戦していきたいんだけれど、あぁもリュシーとリュリュにしがみつかれると、私たちだけでお出かけするのはなかなかつらいものがあるね」
宿屋を出る時下の二人の妹が
「おねえちゃ、アリアちゃおたいのも?リュシーもついていこうか?」
「リューュおでかけいいねぇ?」
と、私のすそを引っ張りながらさも当然の様に隣にくっついてくるリュリュのまだまだ赤ちゃん分を残したぷにぷにのお顔に、もちろんだよぉ!って言いたくなるのを頑張って頑張って我慢した。
アリアも顔を紅潮させて、リュシーを抱き上げるのを我慢していたのがよくわかった。
でも、今日はおねえちゃんたちもお仕事だからお留守番ねって言い聞かせたら
「そっかーおちごとかー、リュチーもね、おちごとあるのよ?エッタおねえちゃとね、リュリュちゃんとねー、おはなをねークチャクチャーってするのとかねー?」
とお仕事に理解を示してくれるリュシーは、おねえちゃんの後のんは抜けることが多いのとか、言えたり言えなかったりする滑舌の不安定さとか、名前を列挙するときに毎度首を大きく上下させるのとか、かわいい所を挙げるときりがない。
そしてリュリュも
「おちごと?・・・んちょ、おねちゃいってらっさい」
と、なぜかベッドの上によじ登るとぺたんと座って、手をパタパタと振ってお見送りしてくれた。
思わず、いい子!って言って抱きしめたい気持ちに駆られちゃったけれど、それをやってしまうと二人がお見送りをしてくれたのに台無しにしてしまう。
心を何とか強く持って宿を出てきたのだ。
「そうですね、しがみついてくるのも堪りませんが、お見送りされるともう・・・なんといいますか、堪りませんね」
アリアも一昨日からのリュシーを中心としたふれあいで、すっかり気持ちがお姉ちゃんになっている。
最初からかわいさにはメロメロにやられていた気がしないでもないけれど、アリアはどうやら可愛らしい女の子が好きで堪らない女性なのだろう。
無論通常の可愛がりの範疇でだと思うけど・・・信じていいよね?
初めて会った時私のブラに頬を寄せてホゥっとした表情で悦に入っていたのを思い出す。
いや、深く考えないでおこう。
アリアは私のことを大事にしてくれるメイドで私の現状唯一の共犯者、信じないと。
「本当に可愛いよねぇ、リュシーとリュリュ・・・それにユティもなんか微笑ましくて可愛いよね、エミールのこと好きなくせに照れちゃってさ」
「えぇ本当に、私の一番はお嬢様ですが、お嬢様を危険にさらさない限りはあの子たちのことも護りたい、そう思えます」
もともと美人さんなアリアが、ちびっ子たちのことを想い浮かべる微笑は、すごく清らかで、とても神聖なものに見えた。
やっぱりアリアを見ている人たちの視線を感じながら昨日ぶりの冒険者ギルドにたどり着く。
今日も今日とて冒険者ギルドは閑古鳥、昨日と同じく酔っ払ってるのか、寝てるのかわからないおじさんが寝てるだけ、受付にはやっぱりアミィさん。
「お、来たな新人冒険者、アリアはなかなか様になってるじゃないか、美人過ぎるが、なんとか冒険者に見える。ところでもう合同の護衛任務なんかは全部先輩に持ってかれたぞ?あぁでもジャンさんたちといるなら日数のかかる護衛任務は受けないよな」
と、相変わらず男の人みたいなしゃべり方で、アミィさんはニカリと笑いながら私たちを迎えてくれた。
「どうも、アミィさん、今日は日帰りで出来そうな初心者向きの依頼はないかなって探しに来ました。採取系とか」
ほかに誰もいないので、受付カウンターにまっすぐ進んで、アミィさんを見上げながら笑いかけると、アミィさんはそうかそうかとうなずいた。
「えらいな、ちゃんと身の程をわきまえてるじゃないか、それならわきまえているついでに依頼を受けずに、この辺りの常時収集品を取ってくるといいぞ、」
と、アミィさんは掲示板ではなくカウンター横に貼り付けてある依頼の紙を示した。
が・・・
「(エイドの実、デトークスの実、パラライ葉・・・他のも実物見たことがないからわからないや・・・)」
まぁアイテムとして認識できるなら大丈夫かな?
「この辺はポーション類の材料だから、いつでも買い取ってるよ、あまり高くもないが、初心者向きだろう?」
と目配せする。
本当アミィさん好きだなぁ・・・優しいし男前だ(女性だけれど)。
「じゃあそうします。どの辺で取れるとか、どういうところに生えているとかはアドバイスありますか?」
初めての冒険者活動は、情報を聞き出すことから始まった。
ジャンさんたちもムツキとアリアを受け入れてくれました。
結果ムツキからルイーズさんも名前が略される事になりました。
打ち間違えに必要な注意がどんどん増えてきますね。
自分を追い詰めている気がします。