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G17話:「妹」は可愛い

 前回のあらすじ

 ちびっ子用の靴を注文した。

 受け取りが後日になるので、ポシェットも買ってあげた。

---

 海で貝がらを拾いに夢中になっていたリュシーとリュリュは、やがて電池が切れたおもちゃみたいに眠ってしまった。

 露店商人たちが店じまいする頃まで1時間を切っていたので、ちょうど良いからと宿に帰って来た。


「いやー夢中になってたねえ、砂浜で急にリュリュが崩れた時は急病かと思って焦ったよ・・・」

 力なくグデグデになったリュリュの柔らかい体をおんぶしてきたジュリエッタに、私は若干の羨望眼差しを向けながら先程の海遊びを振り返る。


「ねぇー、最初からおさかなと貝がらを拾うって自分で言ってたのに、まさか貝がらがなにかわからないだなんて思わなかったわよね」

 と、ジュリエッタは自分もかなりはしゃいでいたことには触れずに応える。

 思いだして見ればジュリエッタもグリモスは2度目だといっていたし、海を見たことはあってもあんなに近くまで、砂浜に降りたことなんてなかったんだろう。


 それにしても、砂浜に落ちている流木や、海藻を拾っては

「こぇかいがら?」

 と尋ねてくるリュシーと、それを真似してか砂粒や木片を拾っては

「こぇ?こーぇ?」

 と何度も見せつけてくるリュリュの可愛かったこと・・・

 思い出し萌えとでもいうのかな、寝顔を見ていてもほっぺが緩んじゃうや。

 あげく、遊び疲れて歩いたまま眠り始めるなんて思わなかったよ。


 スピスピと寝息をたてるリュリュの下には先程と同じ様におねしょシーツを敷いてるので安心なのだけれど、先程と違いトイレに行っていないので、長くなるほどかなり高い確率で漏らす予定。

 リュシーの方は宿に戻った後ちゃんとトイレにも行ったし、お昼寝の時はおしっこ起きられる子らしいから安心だけど、リュリュが漏らすと一緒に濡れてしまう可能性が高いので、今もアリアが抱っこしている。


 アリアの胸にしがみついて眠るあまえん坊さんのリュシーだけど、ジュリエッタが言うには本当は少し人見知りらしくて、出会ってすぐの私たちにすごくなついていることにはすごくびっくりしているらしい。


 室内なのでアリアは革ドレスを脱ぎ、メイドエプロンに戻っているのだけれど、その柔らかそうな生地の質感に美しい曲線美を描いていた胸は、現在はリュシーの右手とほっぺによって歪み、何ともフィット感の良さそうな枕となっている。

 もしかするとアレも人見知りだと言うリュシーが慣れた一因なのかも?

 膝枕しか持っていない私の方にもなれてくれているのは、リュリュが私になついていて、警戒が緩いのかもしれない。



宿にもどってしばらくたった頃

「んーぅ・・・」

 と、リュリュが大きく体を反らせながら寝返りをうった。

 裾が捲れて、可愛いふとももが露になる。

「帰ってきて40分位かぁ、そろそろお兄ちゃんたち帰ってくる頃だし起こそうか?今ならまだお漏らしもしてないし、いい頃合いだよね」

 空いているベッドに仰向けに寝そべり、私があげた革袋をしばらくうっとりと見つめていたジュリエッタは、体を起こし革袋をポケットにしまいながら言った。

 友達からそういったモノを買って貰ったのがはじめてだそうで、嬉しかったらしくて帰ってきてからほとんどずっと見つめていた。

 お揃いの小物でこんなに喜んで貰えるなんて、プレゼントした甲斐があったというものだけど、大人びて見えるジュリエッタが年相応の喜びを全身で表しているのは微笑ましくて、抱き締めたくなるほど可愛い。


 逆に彼女からは宿に戻った後で、フランステルプレにすんでいた頃に作ったという木製の、持ち手に花を象った櫛を貰ってしまった。

 手作りなのに良いの?と遠慮したけれど材料があれば作れるし、予備もあるからと押しきられた。

 結構しっかりした作りで、驚いたけれど、木工はフランステルプレに棲んでいるエルフ族に教わったと言っていた。


「リュリュー、そろそろママたちが帰ってくるから、おっきして、おしっこすませておこうー」

 と、リュリュを起こそうとする姿も何となく昼間でより幼げに見える。

 中学生だもんねぇ・・・って再度認識する。

 なんとなく、ヤヨのことを弥生お姉さまといって呼び慕っていた後輩ちゃんたちのことを思い出す。

 私のことも睦月先輩とか冷泉先輩とか呼んで慕ってくれたけれど、部活の先輩であるヤヨのことはどことなくかわいがっていた様に感じる不思議な後輩ちゃんたち。

 私もお姉さまって呼ばれてみたかったりしたんだよねぇ・・・。


「ねぇねぇジュリエッタ」

「なぁにムツキ?」

 アリアも抱いていたリュシーを起こして、トイレに連れていくその横で、まだ目を瞑ったまま蠢き始めているリュリュの体を抱き起こしているジュリエッタに後ろから声をかけるとジュリエッタは振り向いた。

 昨日までのムツキ様よりも、ずっとフランクな呼び方、呼び始めた最初は落ち着かない風にしていたジュリエッタも今日半日の散歩や、保育活動ですっかり慣れている。

 そろそろ次のステップにいってもいいかな?それとも早すぎるかな?


「お姉さんって、どう思う?」

 私はたぶんジュリエッタのお姉さんになりたいのだと思う。

 そうすればきっといつまでも、ジュリエッタやちびっ子たちとお別れしなくてもいい。

 ううん、お嫁入りとかで一緒に暮らせなくなる日はくるのだろうけれど、それでも姉妹に、家族になっていれば、いつだってまた会いにいけるはずだ。

 それこそ私がこの世界にいる限りは・・・。


 今の私には家族がいない。

 それが寂しかったから、あんなにもちびっ子たちに惹かれたのかもしれない。

 私に新しく年上の家族ができるのは不自然でも、下の子なら自然に受け入れられるから?

 もしくは、幼い子たちならすんなりと私を家族として受け入れてくれるかも、そんな打算だったかもしれない。

 でも、ジュリエッタも私のことを受け入れてくれる気がして、私はそんなことを尋ねたのだ。


 だけど先走った私の言葉は説明不足だったみたい。

「義姉さん?いい人だと思うよ?計算も出来るし、文字も書ける。商人の嫁としてはこの上ないと思うよ?お兄ちゃんにはもったいないくらい」

 ジュリエッタはリュリュの覚醒を一旦放置して私の方にちゃんと顔を向けて答えてくれている。

 対応が真面目で好感がもてる。

 でも、ルイーズさんのことだと思わせてしまったみたい。

 でも私も怖くなってつい話を合わせてしまう。


「そうだよねー、その上美人だし、リュシーたちの躾も年嵩のわりに行き届いてるし、いい人だよね」

「本当にそう、私も子どもっぽいソバカスが消えたら、大人びて見えるのかなぁ・・・」

 と、私から見れば充分年の割り大人びて見えるジュリエッタも、自分で子どもっぽいと気にしている部分を吐露する。

「でもムツキは顔立ちはおさ・・・可愛いけど、ソバカスはないよね。絶対18とか20とかなったらアリアさん以上の美人になると思う、まだ成長は終わってないのよね?」


「いやどうかな?私のお母様も身長はルイーズさんより拳一つ低かったし・・・ジュリエッタ?」

 成長の指針となる母のことを引き合いに出したら、ジュリエッタがしまった!という顔をしているのに気付く。


「いや、あぅ、ごめん・・・ムツキのママのお話させるつもりじゃなかったのに・・・」

 ちょっと名前をあげただけなのに、優しいジュリエッタは気にしてしまったらしい。

 その目には涙が少し溜まっている。

 彼女たちに伝わっている情報だと、どこにあるかもわからない別の陸地、30日以上の漂流でたどり着いた私が元の国に戻れる可能性はとても低い。

 2度と出会えないそれを思い出させてしまったと気にしているのだろう。


「ジュリエッタってば、気にしちゃったんだ?優しい子だなぁ、あ、リュリュおはよ!おめめパッチリしたら、おしっこいこっか!」

 ジュリエッタがこちらに向いていたので私の方が先に気付いたけれど、リュリュがすでに寝ぼけ眼をパチパチとしながらこちらを見ていた。

 まだ眠くて不機嫌顔、ムッとした口元が可愛い。

 それでも私が抱っこしてあげるアピールをすると両腕を懸命に伸ばしてくるのがまた堪らない。


「私はもう多分、元の家族には会えないからさ、ジュリエッタたちのことを、家族みたいに思っちゃダメかな?」

 リュリュを抱き上げながらおねしょシーツに水溜まりがないことをチェック、ついでの様にジュリエッタの耳横で、本命を呟く。

 さすがに私だって恥ずかしい。


 出会って二日目のご家族に、それも本当にたまたま出会っただけなのに、家族みたいに付き合っていいかだなんて、都合が良いにも程がある。

 現状でもかなりお世話してくれているのに、もっと甘えさせてほしいだなんて恥ずかしい。

 でも偽らざる本音。


 それから逃げる様に、リュリュをトイレに連れていき、アリアたちと一緒に部屋に戻ってくると、ジュリエッタはすでに片付けを済ませていた。

 いつでもジャンさんたちをお迎えできる。

「あ、4人ともおかえり、ムツキ、アリアさん、二人のトイレの世話ありがとう」

 リュシーもリュリュもお昼を沢山食べたからか、出るものもなかなかの量で、10分位かかった。


 トイレの間隣に居て手を握ってやらないとリュリュは寂しくて泣いてしまうので、広くはないトイレの中でずっと話しかけてくるリュリュに相槌を返していたけれど、これって年頃になっても覚えてたら死にたくなるレベルの記憶だと思う。

 私はそういうことした記憶はないけれど、もしかしたらお父様やお母様相手に「ポンポン痛くなくなるまでお手々握ってて?」なんて恥ずかしいお願いをしたことがあるんだろうか?

 少し思い返そうとしてみて、やっぱり危険なので封印しておくべきだと思い返すのを止める。


「リュシーちゃんはさすがはお姉ちゃんです。一人でも大丈夫そうですよ?」

 と、アリアはスッキリとした様子を見せるリュシーの頭を撫で、リュシーは誉められて胸を張る。

 一方で、お腹は痛くなくなったものの、どこかまだお腹がムズムズするらしいリュリュは「うーん、うーん?」と悩ましい声をあげてはお腹を擦っている。

「リュシー、リュリュ、お水飲んでママたち待ってようね」

 と、ジュリエッタが水をテーブルに用意すると、二人はポテポテと歩いていきスツールに腰かけて水を飲む。


 アリアがリュシーを追いかけて行き、逆にジュリエッタは私の方へやってくる。

「さっきの話だけど、私もねムツキのこと、お姉ちゃんみたいに思ってる部分があるんだ」

 と、ジュリエッタは照れくさそうに耳打ちした。


「私とお兄ちゃんの間にね、お兄ちゃんとお姉ちゃんがいたんだよ?前の戦争で、居なくなっちゃったけどね?」

 私の手、指先をそっと持ちながら、私のすぐ目の前の顔はしょうがないなあっていう様な苦笑い。

「お姉ちゃんは私と年が近かったから、生きてたらきっと今のムツキと居るみたいに楽しかったんだろうなって・・・私、ムツキのこと好きだよ?昨日出会ったばかりだけれど、家族みたいにずっと居られたらいいなって私も思ってるんだよ?」

「ジュリエッタ・・・」

 そんな風に思ってくれるなんて、出会ってから間もない私のことをそんなに大事に思ってくれるなんて・・・


「ねぇリュシー、リュリュ、ムツキお姉ちゃんとアリアお姉ちゃんのこと好きよね?これからも一緒に居たいよね?」

 と、問いかけると、小さな妹たちは満面の笑みを浮かべて

「「うん!」」

 とハモった。


「リュシーたちの前でだけ呼び分けるのもアレだし、今度からムツキお姉ちゃんとアリアお姉ちゃんって呼ぶけど、構わないよね?ムツキお姉ちゃん」

「も、勿論だよ、これからもよろしくねジュリエッタ」

 嬉しくて、ちょっと泣きそう。

 だけど、ジュリエッタはそれだけじゃ許してくれない。


「私ね、お兄ちゃんからはユティって呼ばれてるのよね、お姉ちゃんの名前がアンリエッタだったから、エッタとかエッティとかがニックネームにできなくて、ちっちゃい頃はアティとユティって呼ばれてたみたいなの・・・ムツキお姉ちゃんにはニックネームで呼んでほしいな?」

 と、ジュリエッタは僅かに甘える様な声色で私の指先に指を絡める。

 

「う、うんわかったよユティ」

 その指を握り返しながら、改めて呼ぶとユティは照れ笑い、そしてそのままアリアの方を向くと

「アリアお姉ちゃんも、よかったら私のことはユティって呼び捨ててください、さんとかつけられるの慣れなくって。お願いしますね!」

 ユティの横顔は少し紅潮していて、さっきまでよりもさらに可愛く思えた。



出会ってから僅かに二日目でジュリエッタからムツキへの呼び方はムツキ様→ムツキ→ムツキお姉ちゃんと変遷を見せました。

まだ関係性は変わるのか、いつまで一緒に居られるのかはまだムツキにはわかりませんが、次の町以降もジャンさんたちと行く道を選んだ様です。

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