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G16話:おたいのもリベンジ、そして砂浜へ

 前回のあらすじ

 お昼寝、おやつをすませてちびっ子たちも元気になった。

 たまたま会ったエミールに、靴を買えるお店に案内してもらった。

---

 店内に入ってさっそく、目をキラキラさせてサンプルの靴を見ている二人のおちびちゃんたち。

 連れてきて良かったって思うけれど、ピョンピョン跳び跳ねる様な動きとゆれるワンピースの裾に少し不安になるのも事実。

 何せこの子達はノーパンなのだ。


 別にこの子達の母親・・・ルイーズさんがノーパンを強要している訳ではなく、この世界の平民層は子どもだけではなく、大人でもノーパンらしいし、年端のいかない子どもだから気にする方が多分おかしいのだろうけれど、日本では幼い子を相手にした性犯罪のニュースがたびたび報道されていた。

 可愛い二人の邪気の無い姿に劣情を呼び起こされる様な不埒な人は居ないと信じたいけれど、ここは日本よりも文化的、科学的に未成熟な世界だ。


 たとえば宿屋の受付をやっていた子だって、ここの女将さんが14歳の時に産んだ子だというし、その女将さんだって先代の奥さんが16歳の時に産んだ第3子らしい。

 昨日女将さんと受付の子が似てたから姉妹ですか?と尋ねたらまさかの母娘で驚いた。

 日本人的感覚だとジャンさんとジュリエッタみたいに、間に何人か挟む兄弟の上と下だと思うよね。


 まぁなににせよ、この世界基準でいうならば、年頃になったならばともかくとして、この年頃の幼い娘たち(平民)ならば外で生尻の露出や、花摘みするくらいは『パンツを穿くなんて概念がないから恥ずかしくないもん』とでもいうのだろうか?とてもおおらかで、預かった娘さんの露出を気にしている私のほうこそが異端なのだ。

 店に入るなり目をキラッキラさせてはしゃぐ二人を見て、またも考え事にふけってしまった私を現実に引き戻すのは聴き知らぬ声

「いらっしゃい、見かけない顔だね、子ども靴は3500から、大人靴は4500からだよ」

 と、腕っ節の強そうな厚手のエプロンを着けたおじさんが私たちを迎える。


「こんにちは、よければ全員分・・・の靴を見繕って欲しいんですが」

 店内の空気がピシリと音を立てて止まった様に感じる。

 店内には私たちと、店主さんなのかな?エプロンのおじさんだけだ。

 そして実際には完全な無音になったわけではなくて、止まっているのはおじさんとジュリエッタだけで、ちびちゃんズ姉はアリアの手を引っ張って『あっちがみたい』アピール。

 ちびちゃんズ妹は口を大きく開けて手近な靴(革製)を指差している。

 欲しいのかな?でもちょっとリュリュには大きいかも。


「あぁ、あのお客さん?俺の聞き違いでなけりゃ、全員分とおっしゃいましたか?」

 と、おじさんは驚きと呆れの混じった顔で私の方を見る。

 なんだろう?おかしなこと言ったかな?

「はい、言いましたよ?私たちの靴5人分ですね、あっ!もしかして子どもの靴は置いてないですか?」

 でも子ども靴の値段も案内してたよね?


 そういえばこの世界では靴はけっこう高いので、すぐにサイズが変わる子どもには今かはかせている様な簡易的な靴を履かせることが多いのだったか、ただ簡易靴は踏ん張りがきかないし、足に物を落とすと危ない。

 できれば足に合ったモノを履かせてやりたいのだ。

 一緒にいる間お金は私が出す。

 この子達と一緒に走り回りたいんだ。


「いえ、勿論靴は用意できますが、特に下のお嬢さんのお年頃ですと、年に3~4回は新調が必要でしょう。負担が大きいと思いますよ」

 おじさんは費用、負担の心配をしてくださったらしい。

 と、ここでジュリエッタも再起動。


「ムツキ、本気なの?ムツキがお金持ってるのは知っているけれど、私や二人の靴もって・・・うれしいしいけれど、高いよ?」

 と、ジュリエッタも費用のことを不安に思ってくれていたらしい。

 無論、浪費するつもりもすべてを明かすつもりもないけれど、インベントリにはばかげた枚数の帝国金貨が詰まっている。

 金銭的には余裕があるし、これは浪費ではなく必要な経費だと考える。

 私が精神的に豊かで健康的生活を送ることに、リュシーとリュリュとのお散歩や外遊びは密接にかかわってくるはずだ。


 実際この子たちと遊んでいるとなんだか満たされた気持ちになるし、笑っているのを見るとこっちも笑顔になる。

 少なくとも次の町までは一緒にいられることになっているし、正直海沿いを行くのも建前的なもので実際には海難にあったわけでも、浜辺に流れ着いた侍女たちがいる可能性があるわけでもないので、そのままジャンさんたちに帯同していくのもいいかなって思い始めている。

 もちろんそうなるならお手伝いや、冒険者の仕事もしてちゃんとこの世界になじむ予定だ。

「いいの、冒険者にもなったし、ジュリエッタは私が戦えるの知ってるでしょ?これからどんどん稼ぐから平気だよ、私がみんなにお礼がしたいの・・・そういうわけなので、私たちには1足ずつ、ちびちゃんたちには2足ずつ、靴を新しく作りたいんですが、どれくらいかかりますか?」

 先ほど子ども靴は3500Scから、大人靴は4500Scからと言っていたけれど、それは木靴や中古靴を含む価格だというのは私にもわかっている。


 私は中古靴なんて履きたくないし、健康やお洒落に関することだから妥協もしたくない。

「全部新品で木靴なら大人用は7000Sc子ども用は5500Sc、革靴ならその4倍くらいですね」

 つまり革靴でも5人分7足で18万Sc前後?お高い買い物なのは確かみたい。

 それでも、買うことはある程度決まっている。

 しいて問題を挙げるならば

「明後日の朝までに何足作れますか?」

 タイムリミットがあることだ。


 おじさんはあごの下に手を当てて数秒考えてから。

「うちは材料はすでに置いてあるし、木靴なら内側を足にあわせて削りなおすだけだから早いけれど、革靴なら4~5足かね」

 となると全員分は諦めないとかな・・・

「4足で考えるべきですかね、それならちびちゃん二人の分を優先します。10万Sc渡しておきますから靴の引き渡しの時に明細をください」

 私たちがなめられやすい外見をしていることはわかっている。

 ラルフさんの店では、ジャンさんとラルフさんが知りあいだったことや、鎖分銅のくだりで信頼を得たため必要はなかったけれど、おじさんにはハッタリを仕掛けることにした。


 例えば10万Scというそれなりの大金をポンと渡してしまえる資金力、相手が破落戸ゴロツキならいっそうカモ扱いされるかもしれないけれど、こういう商店は金払いの良い客を好んで敵に回すことはしないはず。

 おじさんの前に新金貨をポンと置くとおじさんは目を見開いた。

「は、はい、お嬢様方の靴でございますね、それでは先に採寸をさせていただいて・・・お好きなデザインのモノを選んでいただいて良いですか?こちらで採寸します」


 多分なれていない丁寧口調、おじさんはようやくこちらが冗談で言っているわけではないと気付いてくれた。

「リュリュ、おじちゃんにあんよ見てもらうからあのイスに座ろうか」

「でもリューュくっく、あーん、ハハハ」

 たくさんの靴を見つめていたリュリュはまだ見ていたいと抵抗するけれど、所詮2才児、後ろから抱えてあげると嬉しそうに笑って喜ぶ。

 そのままイス(踏台)に座らせてあげると、私はリュリュの簡易靴の紐を解いてやる。

 少ししっとりとした小さな足が解放されて、汗の匂いがするけれど、仄かな甘さを感じる匂いに不快さはない。


 両方の足を自由にしてやりハンカチで拭ってやると、くすぐったそうに身をよじる。

 可愛い。

「じゃあ採寸をお願いします。リュリュ、おじさんがちょっとさわるけど良い子にしてようね?」

 後ろにまわって、さりげなく腕ごと抱き込む。

「キャッキャ」

「じゃあ失礼しますね、革靴でよろしいのですね?」

 おじさんはリュリュの前にしゃがみ採寸を始めようとするけれど、リュリュが少し暴れてしまう。

「こらリュリュ、あまり暴れるとおくつ買えなくなっちゃうぞ?」


 本当はご褒美や罰で釣るのは躾的によくないんだろうけれど、実際時間は有限なので少しでも省ける手間は減らしたい。

「くっくかうの?リューュのくっく?」

 まだ半分赤ちゃんの顔だけど、やっぱり女の子、自分の靴を買うとなると顔色が変わったね。

 か細く高い声はテンション高めなのが良くわかる。


「そーだよーリュリュのおくつお姉ちゃんが買ってあげるから、お利口で待ってるんだよ?そうしたらこのおじさんがつくってくれて、明後日には出来上がるって!」

「くっく?」

「うん」

「リューュくっく?」

「そうだよー」

 壊れたおもちゃみたいにこのやり取りを7度繰り返す。


「はい、リュリュちゃんね・・・内側に名前も入れますか?」

 リュリュとお話してる間に採寸を終えたおじさんが、そんなことをたずねる。

 どうやら子どもの靴を盗む人も世の中にはいるらしくて、防犯のために靴の内側に名前を入れることを進めているらしい。

 まず子ども靴自体が高価で貴重なのでこの年頃の靴なら名前が被ることもほぼほぼないので、入れておくと盗まれても処分しにくいのだとか。

 名前をいれてもらうことにして注文書をジュリエッタに書いてもらう。


 リュシー、アリアにイス(踏台)を譲り、私とリュリュも靴のデザイン選びに入る。

「リュリュ、どれか好きなおくつを二つ選んでみて、材料があるやつならおじさんが作ってくれるから、リュシーの採寸が終わったら見せに行こうね」

「ちゅきなの?」

 リュリュは大袈裟に首をふんふんと振りながら、靴を選び始める。

 といっても日本みたいにキャラクターものの靴なんてないので、細かい造形の違いばかりで、目立つものはない。

 でもリュリュにとってはモノを選ぶという体験が楽しいらしくて、リュリュには大きすぎる靴を手に取っては撫でたり、ひっくり返してみたりして、なにが納得いかなかったのか棚に戻していく。

 きちんと棚に戻す辺りルイーズさんの躾がしっかりしてるのだと思うけれど、左右逆だったりは愛嬌の範疇だよね。


 30分ほどかけて、おじさんもその靴なら子供用を作れると太鼓判を押してくれたモノをリュシーとリュリュ2つずつ選び、ついでに私は小物売り場にあった革製品の袋を3つ購入してアリアとジュリエッタにひとつずつ渡した。

 すると、まだ靴が受け取れないリュシーとリュリュがしょんぼりしてしまったので、さらに目についた小さな布のポシェットを2つ購入し、リュシーとリュリュに持たせることにした。

 宝物入れみたいなものだ。


「うん、似合ってる。可愛いよリュリュ」

 肩にかけたポシェットをパンパンと手で叩くリュリュの頭をウリウリとしながら褒めていると

「リュチーは?リュチーは?」

 と、リュシーも褒めてほしくてくるくるとまわって見せてくる。

「似合ってるよー、可愛いよー」

 どうして妹というのはこんなに可愛いんだろう。

 と、妹じゃないのに姉心を自覚してしまうくらいに二人ともプリチーだ。


「ほ、本当に大丈夫?今日だけでほとんど帝国金貨1枚使ってるよね?」

 と、不安顔のジュリエッタを宥めるのは少し骨が折れたけれど、リュシーとリュリュの笑顔を買ったと思えば安い。


 店を出て海沿いに向かう道すがら、歩く度に揺れるポシェットを立ち止まってはさらに手で揺らすリュリュを見ていると本当に可愛くて、いつか来る別れを思うと寂しくてたまらなくなるけれど・・・。

「うみで、おしゃかなとかいらがひらって、こぉなかにいれるんだよ?」

 と、アリアに説明しているリュシーの姿を見ていると、なるようになるかな?

 と、気持ちが少し軽くなる。


 結局はジャンさん達と一緒に居たいと思ううちは一緒にいさせてもらえる様に努力するしかないし、いつかお別れするときにはリュシーやリュリュとも笑顔でまたねって言える様に、悔いがない様に過ごすしか出来ない。

 いつか私が、「睦月」から剥がれてここにいるみたいに、どうしようもないことだってあるかもしれないんだから、毎日を大事にしよう。


 手の中にある温かくて小さくて柔らかい手を、優しく握って。

「うわー、海全然ゴミがないねー、キレイ」

「さようでございますね」

 環境が、工業的にはほとんど汚染されていない海、その砂浜に降りた私は感動を口に出した。

「きれー」

「きぇー」

「キラキラしてるねー」

 ちびっ子たちもテンションが揚っているみたいだし。


 さてさてキレイな貝殻たから探しでもしましょうか。

 

次回、砂浜遊びははしょります。

今回も靴を注文するだけで終わってしまいましたので、もう少し話の進みを気にしようと思います。


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