G14話:ガールズトーク
前回のあらすじ
ランチタイムで混む前にランチを取った。
リュシーとリュリュがお腹一杯になったので、お昼寝をさせることにした。
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服の上からでもハッキリとわかる丸々と膨れたお腹、先程までのはち切れそうな元気はなく不機嫌そうに無言、ショボショボとしたお目々が全てを物語っている。
今私が手を繋いでいるのは、満腹で眠たくなった子どもだ。
「リュリュ、抱っこは?」
先程と同じ様に尋ねてみるけれど
「ゃー」
と、不機嫌そうに唸るだけ。
眠さによる不機嫌からか、抱っこを嫌がり自分で歩こうとしてるけれど、ふらふらしててちょっとあぶない。
「じゃあエッタお姉ちゃんの抱っこは?」
と、ジュリエッタもリュリュに尋ねるけれど
「やーぁ!」
何度も聞かないでよ!わかってるでしょう!?とばかりに不機嫌な声を出す。
一方リュシーは既にアリアの腕の中で寝ている。
口をモギュモギュさせて、夢の中でもまだ何か食べてるのかな?
アリアは力持ちなので難なくリュシーを抱えているけれど、外見が細いので大変そうに見える。
おっぱいに顔を半分埋めて、幸せそうな表情のリュシー、革ドレスごしだから少し硬そうなんだけど、枕の役割は果たせているのだろうか?
「んー、んーぅー」
私と繋いでない方の手の平で顔をグシグシとしながら頑張って歩くリュリュがいじらしくて可愛いけど、実のところその寄りかかる様な歩みはとても遅くて、このままだと宿まであと20分はかかりそう。
抱っこすれば4~5分なんだけどね。
でも嫌がるのを抱き抱えるのもなぁ・・・また抱っこするか尋ねても嫌がるだろうしちょっと趣を変えてみようか?
「リュリュ」
「うん?」
不機嫌でもお返事はちゃんとしてくれるリュリュさんです。
あぁ、あまり間を空けると不機嫌さが増しそうだね。
「おんぶしてみようか?おんぶだったら前も見えるし、いつもよりちょっと高く見えるよ?」
「?」
私の提案に不機嫌なリュリュはあまりパッと来ていない様に見える。
だけど私が手を離し、背中を向けると理解したのかガバリと飛び付いてきた。
「お、食いついた。ちょっとさわるよ?」
ジュリエッタは少しおどけながら、しっかりと体を支えられていないリュリュの手や足を私の肩や腰に動かして、体重を分散できる様にする。
「よいショ!」
それから、リュリュのお尻に手を回して立ち上がると、リュリュは上機嫌に声をあげた。
「アハハハハハ、リューュおおきい」
首筋に湿った息が当たる。
「ジュリエッタ、リュリュの裾捲れたりしてない?」
念の為確認、下着なんて穿いてないリュリュなので、裾がまくれあがってると、お尻丸出しになってしまう。
いくらまだ2才とはいえ、人様から預かっている娘さんのお尻を衆人の晒し者にするわけにはいかない。
「うん、大丈夫、真下から見ない限り見えない」
と、安全確認もできたので再度歩き出す。
やっぱりお疲れだったのだろう、リュリュは私が歩き出す前に眠ってしまっていた。
肩甲骨の辺りに顔を押し付けて、制服ごしに熱い息を吹き込まれている。
背中に押し当てられる柔らかい膨らみは、満腹で膨らんだお腹。
あまり刺激するとリバースするのが見えているので、リュリュの体重はなるべく手で受ける様にする。
やっぱりリュシーと比べると少し肉付きの薄いお尻はもっちりした弾力と骨の感触とがダイレクトに指に絡む。
弾力を楽しみたい気持ちもあるけれど、あまり刺激するとリバース以上の危険があり得るので自重する。
「本当にムツキって力持ちではあるよね、体格は私とそんなに変わらないのに、リュリュもそうだけどリュシーのことも軽々抱き上げてるよね」
と、ジュリエッタも呆れた様に言う。
「そだねー、ちょっと力はあるかも、おかげでジュリエッタたちとも仲良くなれたし、リュリュがおねむでもこうやって運んであげられる。良いことだよね?」
「うん、今までだとお兄ちゃん達が露店を出すときは、私一人じやリュリュとリュシーの両方が寝ちゃったら抱っこ出来ないから、ずっと宿屋の部屋で面倒みて遊んでたんだ。だからこうやって外を連れて歩けるのが嬉しい、ありがとうねムツキ、アリアさん」
適当に思い付くまま話してた私と違って、ジュリエッタは多分心からの言葉。
声のトーンが僅かに下がっている。
留守番役にもそれなりの葛藤とかあるんだろうね、詳しくは聞いていないけれどジャンさんとジュリエッタの間の兄弟や、二人の両親の事もあるし、部屋で待っているのとか苦手なのかも知れない。
地雷怖いからきかないけれど。
「えへへ、ところで宿で二人を寝かせたあとどうしようか?」
とりあえずは話題の転換、笑って流してもおかしくない流れだったはずだ。
「そうだね、普段なら編み物とか繕い物して待つんだけど、今日はそういうのないし・・・、お喋りしながらリュシーたちと一緒にお昼寝かなぁ」
ジュリエッタはニコニコと笑う。
今までなら二人が寝たら本当にただ待ってるしか無かったろうし、きっと退屈だったろう。
「そっか、じゃあいっぱいお話しようね?」
私もお喋りは嫌いじゃないし、二人の寝顔を見ながらのガールズトークは、とても楽しそうだ。
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やがて宿に戻ると、受付の子に声だけかけて部屋に戻る。
自分の部屋じゃなくて、ジュリエッタたちの部屋。
間取りは私たちの部屋とほぼ一緒だけれど、荷物が少し置いてある。
「ちょっと待ってね、おねしょシーツ敷くから」
と、ジュリエッタは鞄の中から何か毛皮製品だけれど、質感の特殊なものを出した。
どうやら水分を弾く性質のある毛皮らしいソレをジュリエッタはベッドの上に敷き、さらにもう一枚薄手の布を重ねた。
「はいできた。ここに二人を・・・」
と、ジュリエッタが促すので私たちはチビーズをそこに横たえる。
すると、リュシーはすぐにベッドの上に大の字を描いた。
それに比べて、リュリュは背中から外した直後から、ウンウンと唸り、横たえると同時に目を覚ましてしまった。
「うー、ふぅん、ムゥキおねーちゃ、ぅー」
と、体を半分起こしながらこちらに手を伸ばしてくる。
眠たいけどまだ遊びたい?
それとも単に温かい枕が欲しいのかな?
「いいよ、じゃあ抱っこで寝よう。その代わり先におしっこ済ませてからね?」
腕を開いて待つと、ベッドの上を這いずりリュリュが近付いてくる・・・それから
「あーぃ」
と、手をこちらに伸ばしてきた。
5分寝て不機嫌はリセットされたのか素直だ。
私はまたリュリュを抱き上げる。
すると今度は正面からギュッとしがみついてくる。
「じゃあちょっと行ってくるね」
と、声をかけるとアリアがピッタリと隣に着く。
私からは離れないらしい。
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トイレから戻って、満足した寝顔のリュリュをリュシーの隣に横たえると漸くひと息。
「いやー、楽しかった。妹がいたらこんな感じなのかなー」
カンナが弟の世話に夢中になるわけだよね、昨日出会ったばかりのリュシーとリュリュがおねーちゃんって抱きついてくれるだけでお腹の、おへその下辺りがじんわりと熱くなる。
アサさんの娘のユウちゃんと違い、赤ちゃんの時から知っている訳ではない。
血も繋がらない、出会ったばかりのこの子たちでもそうなのだから、血の繋がった弟妹やそれこそ子どもだったら、一体どれくらいの熱が込み上げるのだろうか?
ちょっと恐ろしいくらい。
「あはは、ムツキが気に入ってくれてて良かった。アリアさんもお尻を触られたり、よだれつけられたりして嫌じゃなかった?」
と、ジュリエッタが飲み物を用意しながら私とアリアのことを案じる。
「いえ、リュシーちゃんはお利口さんでしたから、なついてくださってとても嬉しかったですよ?」
「そうそう、お姉ちゃんって呼ばれると、なんでも許せちゃう。リュリュの寝顔やっぱり可愛いなぁ、私もこういう妹が欲しいなぁ」
しみじみと思う。
結局どれだけ可愛くても、どれだけなついてくれても、二人はジャンさんとルイーズさんの娘で、いつかはお別れしないといけない。
私とアリアは所詮他人だから、きっといつまでも二人と一緒にはいられない。
命の恩人という形で出会えたからジャンさんたちも私たちにやさしくしてくれているけれど、いつまでも甘えるわけには行かないよね。
そのいつかを思うと寂しいけれど、今はこの柔らかい寝顔をプニプニするだけで幸せになれる。
「あはは、本当に気に入ってくれて、良かったねー」
と、ジュリエッタは寝ている二人の髪を弄る。
「う~ん」
「あた」
すると、リュシーが寝返りをうち、ジュリエッタの手を叩く形になる。
「あはは、嫌がられちゃった」
「二人も寝ちゃったし、お話でもして時間潰そうか?アリアも座って?」
寝た子を起こすのは愚策、ここは年頃の乙女同士ガールズトークと洒落こもうじゃない
「お話って言ってもどんなこと話せば良いのかな?」
と、ジュリエッタは私の右前に、アリアは左隣に座る。
ガールズトークといえば、流行りのアイテムやアイドルの話、それかおしゃれでリーズナブルなカフェやパティスリーの話、後は恋話くらいだけど、生憎とこちらから提供できる情報は全くない。
となると・・・
「ジュリエッタとエミールの馴初めなんて興味あるなぁ?」
「えぇ・・・、何も面白いことなんてないよ?ただの幼馴染だし・・・周りに同じ年頃の子少なかったしね、ただでさえ少なかったのにセブンリングスでヒューマン同士しかダメになったから選択肢なんて無かったよ?」
そういって、好き好んでエミールを選んだ訳ではない、と主張するジュリエッタだけど、エミールとのやり取りを思えば説得力はない。
「(エミールのことどうみても好きだよねぇ?)」
「(そうですね、好意を持っているのは確かです。お兄ちゃんが許してくれたら結婚すると仰ってましたしね)」
アリアとヒソヒソやってると
「もーう、目の前でヒソヒソしない!そーいうムツキはなにか浮いた話のひとつもないの?」
ジュリエッタは精一杯の抵抗を見せた。
だけど残念。
「私ずっと女子校だったからね、リュシーと同じ年頃の頃に行きつけのお店のお兄さんにお嫁さんになってあげる!って言った事ならあるけど、あんなの初恋とよんでいいか迷う程度のものだしね、うん、浮いた話はないかなぁ」
実際あのペットショップのお兄さんには何度か告白してしまったけれど、1桁の時の事だから幼い初恋としては有効でも、恋話や浮いた話としては無効だろう。
「ジョシコーってなに?職業?」
と、ジュリエッタはどうも女子校という言葉がわからないらしい。
学校のない地域だったみたいだししょうがないか
「えっと、学校ってわかる?」
「うん、王都とかおっきな町にあるって言うよね魔法学校とか軍官学校とか、ジョシコーもその一種ってこと?それならジョシ、校だから、女子校か、花嫁修業でもする学校なのかな?」
と、中々鋭い推察を見せるジュリエッタ、知識がなくても言葉から推察できるってことはそれなりに頭は良いはず。
数字も強いみたいだし多分ジャンさんが先生になって色々教えてるんだろうね。
「まぁそんなところかな?同じ年頃の男の子と遊んだりする機会なんて数えるほどしかなかったから、浮いた話なんてありませーん」
実際には3つから20以上上までゲームセンターで話したり遊んだりする機会はあったけれど、あれは趣味の人たちの集まりであって、本名も知らない人がほとんどだったしね。
「えー、アリアさんはどうでしたか?すっごい美人さんですし、目立つ髪の色ですし、さぞやおもてになったでしょう?」
と、ジュリエッタは今度はアリアに尋ねるけれど。
「いいえ、私は物心ついた時からお嬢様にお仕えするべく、相応しい私である様に努めておりますので・・・」
うん、一昨日召喚したばかりだし、なにも間違ってはいないね。
嘘はついてない、大事なことだ。
「えぇー勿体ない、それだけの美貌を持ちながら・・・、恋愛対象に成る人はいなくても貴族の後妻とか側室になり放題なんじゃ!?」
と、ジュリエッタは興奮気味、ちゃんと声は小さいけれどね。
しかし・・・
「どこの馬の骨とも知らないデブやハゲや身のほど知らずの相手をするのなんて御免ですね、御嬢様のお側で老いさらばえた方が余程幸せなことです」
と、かなりガチなトーンでアリアが応えると、さすがに絶句するジュリエッタ。
「ちょっとアリア、言葉が重たいよ、アリアにも好きな人とかできたら結婚して幸せになっても良いんだからね?」
アリアは使い魔だから子どもができるかどうかわからないけれど、子どもだけが幸せの形とは限らないよね?
「いいえ、私の幸せはお嬢様の幸せなお姿を近くで見守り続ける事です。リュシーちゃんやリュリュちゃんも可愛らしいですが、私の一番はお嬢様ですから」
と、アリアは譲る気はない様だけど
「ところでジュリエッタさんは、そこまで仰るからには、エミールさんとの事にも乗り気でない様ですし、貴族の愛人になる話があれば見ず知らずの殿方の抱き枕を選ぶということですか?」
話をそらすためなのか中々意地悪なことを言うね。
ジュリエッタがあぅあぅと困った顔してる。
「わ、わたしは見ず知らずの人よりはエミールの方が、しょ、消去法だけどね!」
ちょっぴり照れながら言うのが可愛い、思えばまだ中学生だもんね、素直になれないのは仕方ないことだよね。
昨日のエミールへの駆け寄り方を見れば、エミールのこと好きなのはまるわかりだけどね。
さすがにアリアもからかい過ぎたと思ったのかすぐに謝罪する。
「申し訳ありませんジュリエッタさん、ジュリエッタさんが可愛らしかったのでついからかってしまいました。」
訂正、あまり悪びれてはいないね。
ジュリエッタはさらに真っ赤になるけれど、アリアはさらに続ける。
「ジュリエッタさんがエミールさんのことを好きなのは明らかなのに酷いことを言ってしまいましたね、申し訳ありません」
「なふ!?あぅ、あぅ・・・」
と、真っ赤になり口をパクパクさせるジュリエッタ、そしてますます隙だらけになって、弄られるジュリエッタ。
あれ、これってもしかして年下の女の子をいじめてることになるのかな?
そろそろ止めておこう。
でも私はもちろん、アリアも供給できる話題はないしね。
それからはさすがに恋愛ネタでは弄らなかったけれど、基本的にジュリエッタに話させて私とアリアとでからかったりしながら、たまにグズるリュリュをあやしたり、おしっこに起きたリュシーをトイレにつれていったりと、ハプニングを挟みながら、和やかに時間は過ぎていった。
おかしいですね、ベッドにおちびちゃんを寝かしつけて、お喋りしただけで5000文字以上使ってしまいました。
進むのが遅い訳ですよね。