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G10話:冒険者ギルド

 前回のあらすじ

 異世界2日目の夜を明かした。

 エミールたちと冒険者ギルドに向かった。

---


 ウェスタン風のスイングドアを開けると、そこは受付と左手には上に行く階段、右手側にはバーがあった。

 建物のボロっちさのわりには広く見えるけれども、バーには店員らしきものはおらず。

 4卓ある客席もおじさんが一人だけ伏せているだけだ。

「おぉエミールじゃあねぇか、町に来てたんだな・・・って女連れかよ?」

 正面の受付から顔を覗かせている女性、恐らくは20前後の気の強そうな人がエミールに声をかけてきた。

 エミールと顔見知りらしい。


「おっすアミィさん、昨日ついてさ、今日はこっちの二人を冒険者登録しに来たんだ」

 と、エミールは私とアリアを示す。

「はぁ?この虫も殺せなさそうなお嬢さん方が?」

 しかしアミィさんと呼ばれた女性は、怪訝そうに私たちの方を見つめた。

 無理もない、か・・・私背低いし、アリアは華奢に見える美女だしね。


「いやいや、この二人は俺なんかよりよほど強いよ」

「エミールが弱すぎんだよ、あぁでもそれでも女でエミールより強いなら冒険者には十分か?お二人さん、本気で冒険者登録したいの?」

 エミールは舌打ちしているけれど、昨日死にかけた所なので反論も出来ずに引き下がった。


「はい、家出したので、冒険者になって生活するより他ありません、お年寄りの愛人はゴメンですし、妾館勤めも嫌ですから、幸い腕はそこそこ立ちますので・・・」

 これは昨日ジャンさんたちと相談して決めた設定。

 大陸外からきた(ことになっている)私たちの身分を隠す為の言い訳だ。


 大陸では現在七王三相時代までは貴族や豪商であったのに、立ち回りに失敗して没落している家がそれなりにあり、そういう家は娘を貴族の愛人に出したりして仕事や金を得たりしているらしい。

 同時に逃げ出す娘も多くいるとか。

 そんな彼女達の行く末は大きく別けて4パターン、すぐ連れ戻される、妾婦に身をやつす、誰かと駆け落ちする、そして冒険者になる。


 その末に死んだり殺されたりやっぱり連れ戻されたりはまたあるけれど、私たちの場合は連れ戻されることはないはずなので、一旦冒険者になるのが良いだろう。

 よその大陸人なんて身分は厄介事の種になりそうなので、冒険者という身分が必要だった。


 冒険者ギルドは、帝国時代より以前に発達した制度で、当時は国というしがらみにとらわれずに各地で活動できる様に作られた組織であったそうだ。

 その後帝国時代に皇帝は、国の軍を動かさずに庶民の問題の解決や魔物の間引きを行うことなど治安維持機能を期待してギルドの継続を保護し、魔力の波長から個人を特定する魔法道具を開発、各町の支部に支給し、冒険者の魔力の波長の情報は全土の冒険者ギルドに共有される様になり、多重登録などの不正は不可能になった。

 そのことによって、冒険者ギルドの登録証は実質身分証明書としての能力を有している。

 戦中戦後のゴタゴタで多くの技術が失われる中でも魔法道具の生産技術を守ったことで、ギフテッド体制下でも民間による自警組織としての側面を大きく残し存続している。


 つまり、ここで冒険者証を手に入れれば、犯罪を犯さない限り身分証明書として扱える。

 私のいた世界の様に戸籍がしっかり管理されているわけでもないので、冒険者証は信頼度の高い身分証になるのだそうだ。


「あぁハイハイ、お決まりのアレだね、まぁ確かに美人になりそうだし、妾に欲しがりそうなのはたくさんいそうだ。二人の名前聞いてもいいかい?」

 と、アミィさんは書類を出しながら私たちに質問を始める。


「ムツキ・ガーネットです」

「アリアと申します」

 冒険者を名乗るときには姓を自称するものもいるそうなのでそのまま名乗ることにした。

 彼女は私たちの名前を用紙に落としていく。

 見ればやはり筆記体のアルファベットに似ていて、私の名前はMutuki_Gaxanetと書かれている様に見える。


「(やっぱりローマ字表記っぽく見えるね、日頃からよく文字を書くなら大変そう)」

 アミィさんの手元を見ながら考察してみるけれど、やっぱりローマ字にしか見えない。

 何もかも書こうとすると大変そうだ。


「二人ともヒューマンだよね?年は?」

「15です」

「21です」

 決めていた設定通りに答えていく。

 エミールとジャンさんが身分証明書の為に、冒険者登録をしているので何を聴かれるのか、どういう審査があるのかを把握してくれていて助かった。


「え、ムツキちゃん15!?んーまぁいいや、冒険者はいろいろ辛いこともあるけど、ムツキちゃんみたいな可愛い子が冒険者になるなら歓迎するよ。あぁでもジャンさんたちの行商の手伝いがメインになるのか?」

 やや男らしい口調のアミィさんはちょこちょこコメントをしながら必要事項を埋めていく。


 私は密かに、私が女の子だからと侮って絡んで来る若手や中堅冒険者、アリアが美人だから粉をかける若手冒険者が出てくるとか、それを燻し銀のベテランが仲裁してくれるのを内心期待というかわくわくというか、テンプレというものを期待している部分もあったんだけれど、やっぱりああ言ったものはお話やゲームの中だけのことなのだろう。

 田舎町だからか、酔いつぶれたのか惰眠をむさぼってるのかわからないおじさんしか居ないみたいだし。


 書類の記入は滞りなく終わり、次は魔力検査。

「ほんじゃこれもって」

 と、アミィさんは私の前に石板の様な物を置いた。

 持ち上げると重さは3キログラム位

「まぁ初めてだよな?これがギルドが紅の皇帝から賜ったタブレットという魔法道具だ。それに魔力を流してもらうと受付の中にある箱にデータが保存されて、数日以内に各地のギルド支部に共有される様になってるんだ」

 フフン、と誇らしげにアミィさんは胸を張る、中々ご立派なモノお持ちだ。

「(く、悔しくなんかないし、私はあと2年位成長を残しているから?)」


 いやいや対抗心を燃やしてる場合じゃない

「えっと魔力を流すってどうすれば良いですかね?」

「「え・・・?」」

 私はわからないことを何となく聞いたつもりだったけれど、エミールやアミィさん、ちびっ子の相手をしていたジュリエッタも固まってしまった。


 それからなにか納得したらしいアミィさんは

「あ、あぁそうか、メイドにまかせて今までは魔法道具も自分で使う機会がなかったんだな、えっとタブレットをこう、両手で掴んで、真ん中の石ころをじっと見てみな」

 と、教えてくれるので私は言われるままにタブレットを握る。

「んでそこに向かって手の熱を分けるイメージをしてみろ、うんもういいぞ、15才で魔力340か、中々馬鹿げた数値してるじゃないか、今まで魔力を計ったことなかったのかい?宝の持腐れじゃないか」

 アミィさんは興味深いことを言った。

 私の魔力ってMPのことだと思うんだけど、私のMPは34、でも彼女は私の魔力を340と10倍の数値を述べた。


「次はアリアちゃん、さすがに知ってるだろ?」

 と、アミィさんは次にアリアにタブレットを渡す。

 アリアは頷いてタブレットを掴むと息を大きく吸って吐く。

「ふむふむ、180かぁ、ムツキちゃんほどじゃないが、中々高い数値だねぇ、魔法使いじゃないのかい?」

 先程私もアリアも武器は短剣だと伝えているから、この世界の水準より高いらしい魔力値に驚いたらしい。

 そしてやっぱり名付けで微増した後の数値の10倍の魔力だ。


 魔法使いって冒険者にどれくらいいるのかも興味があるね。

「魔力どれくらいあったら魔法使いになれるんですかね?」

 とりあえず私が魔法使いになりたい感じに尋ねてみる。

 実際この世界の魔法には興味もあるしね。


「そうだな、以前なら魔力が120もあれば魔法使いの訓練を勧めてたんだが、この地方にあった魔法学校は先の戦争でぶっ潰されたからなぁ」

 先の戦争というのは七王三相の乱という、跡目争いの戦争のことだと思うんだけど、始まったのは12年前、アミィさんの口ぶりではそれ以前から受付をしていたということなのだろうか?

「(25才以下に見えるのに、何歳から受付やってんだろう?)」


「ムツキちゃん顔に出てるぞ、オレは今21、受付は8歳からやってるんだよ、冒険者になるなら表情は読まれない様にしなきゃな」

 私の考えを正確に読み取って、アミィさんは私のアゴをクイっとしながら目を合わせた。

 それからアゴから離した手で私の頭をクシャクシャっと撫でると

「今や魔法学校は全土で三箇所しかない、一番近いのは王都だな」

 と、教えてくれる。


 魔法使い、興味はかなりある。

 幸い魔力は高いみたいだし、生き残るのにも貢献してくれそうだ。

「魔法学校は誰でも入学できるんですか?」


「あぁできる。ただある程度魔法の才能があることと、入学金として王都魔法学校なら30万Sc、学費として2年間でさらに90万Sc必要になるから、平民には中々辛い、それと別に奨励枠というのもあるが、そっちだと金は免除されるが、卒業後自動的に軍に入ることになる。それで5年間は軍属を辞められない」

 とのこと、幸いお金はあるにはある。

 奨励枠は却下ね、やっぱり魔法には興味あるなぁ


「が、やはり冒険者になるなら、今は先輩冒険者に習う方が良いな、体系化された技術は学べないが、冒険者なら攻撃魔法と生活魔法が使えればそれで十分だからな、水が出せる魔法使いなら引く手数多だ」

 ん?あれ?それもうアリアできるよね?

 アリアの方をチラリと見ると眼が合った。

 まぁいいや黙っとこう。


「何より学費が安いしな、ただお前たちの場合、相手が授業料として要求するのが『体』とかにされない様に気を付けろよ?冒険者は荒っぽいのも多いからな、お前たちくらい美人だと目立つし、魔法教えてやったからオレの女になれ、とか言ってくるやつはかなりいるから、優しい口調の押し売りにはくれぐれも気を付けろよ」

 それこそアミィさんは逆に口調は荒っぽいけど、すごく私たちのこと気にかけてくれてる。

 アミィさん好きだなぁ。

 

「真面目に聞いてるのか?脂ぎったおっさんや爺の愛人が嫌で家出したのに、オレ様ゴリラの抱き枕なんて本末転倒だろう?冒険者になったら自分の身は自分で守らなきゃならないんだから、しっかりしろよ?」

 うん、優しい。

「私、アミィさんのこと好きだなぁ」

「あ?」

 口をついてでた言葉にポカンとするアミィさん

 でもすぐに再起動する。


「アッハッハ、そういう反応が出来るのか、お前案外強いな、子ども扱いして悪かった。ムツキ、アリアお前たちの仲間入り歓迎する。いつまでジャンさんらといるかは知らないが、ジャンさんは今時珍しい位に義理がたい人だから、世の中の人がみんなそうじゃないってことはよく覚えておきな」

 言いながら彼女は出来上がったらしいネームプレートをカウンターに置く。


「これが二人の身分証だ。エミールと同じG級、ジャンさんみたいに行商でもしてれば、E級までは年1で上がると思うからくれぐれもいきなり無茶はしないように、あと無くすなよ?」

 渡されたネームプレートにはいつ彫られたのか名前が刻印されている。

 私はこれでムツキ・ガーネットという身分を手に入れた。

 アリアも一人の人間として身分を得た。

 さらにクエストボードの仕組みや依頼の受け方などのギルドの仕組みを教えてもらった後


「とりあえず家出したなら、メイドの服は変えた方が良いんじゃないか?目立つし、連れ戻され易くなるぞ?」

 と、アミィさんから御助言頂いた。

 確かにメイド服は目立つね、この世界でのメイドは一般的に地味な濃い色のワンピースに上から下までを覆うエプロンらしいので、アリアの格好もメイドとして認識されるらしい。

 身分を隠したがっているはずの私たちの設定では確かにメイド服はよくない。


 大陸外から来たと思っていて、連れ戻しはないと知っているジャンさんたちは気付かなかった不自然な部分。

 助言は受け入れるべきね。

「あ、そうでしたね、教えていただいてありがとうございます。アリア、エプロンを外して、それでなにか買いに行きましょう。防具の様なものは買えるところありますか?」


「だったら兄さんたちのいる市場まで、エミールを送って行こうか、あそこなら古着や革鎧くらいあるでしょ、エミールのもあそこで買ったって話だし」

 と、ジュリエッタが提案する。

 椅子に座らせたリュリュに合わせてしゃがみこみ、何か手あそびしているけれど、話はちゃんと聞いていたみたい。


「いいと思うぞ、目利きはジャンさんに頼むといい、目利きというよりは顔を知られているから、ぼったくりや粗悪品を掴まされる可能性が下がるってことだがな」

 アミィさんもそれで良いと笑って賛意を示す。


 こうしてG級冒険者ムツキとアリアは、防具選びの為に冒険者ギルドを後にしたのだった。

国の端っこ、廃れつつある田舎町のギルドだったため、トラブルが起きるほど人がいませんでした。

夜になればもう少しいるはずなので次以降のギルド支部では、御約束もあるかとおもいます。

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