G9話:港町グリモス2
前回のあらすじ
港町についた。
ジャンさんの奢りで宿に部屋を借りて、ようやくひと息つくことが出来た。
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あれから2時間ほどでジャンさんとエミールさんも戻ってきた。
ロードランドッグの毛皮もジャンさんたちが処分してきてくれて、全部で12000Scが手に入った。
使い易い様に銀貨2枚と銀銭4枚に分けてくれて、ジャンさんの予備らしい革の袋に入れてプレゼントしてくれた。
ところで、どうして一年前迄はフランステルプレで店を構えていたジャンさんたちがこの町の取引先、お得意様を持っているのだろうか?
その答えは至極簡単な話で、ジャンさんは元々フランステルプレを中心に5ヶ所の町を自ら廻り、フランステルプレの店はジュリエッタさんとルイーズさんに任せていたらしい。
戦後の弱い物流では集落に必要なものを手にいれるのに、危険を承知で自ら動くしかなかったんだってさ。
終戦から4年経ちようやく治安が回復の兆しを行商人が増えてきて、そろそろ行商から手を引いて、店舗経営に専念をと思っていた頃セブンリングスが公布され、ジャンさんたちはフランステルプレからの退去をしないといけなくなり。
施行直前の頃から、家族全員でフランステルプレを出て5ヶ所の集落を巡っての行商を開始した。
フランステルプレにも定期的には寄っているものの、他人種居住区画への年間、ならびに一定期間内の滞在制限があるため、現在のフレンステルプレを中心とした行商路では行商の途中何度もフレンステルプレを素通りすることになり、一度の行商が無駄に長旅になってしまう。
そこで、先程馬車の中でも聴いた様に、領主の評判が悪く、先行きの暗そうなグリモス側の行商をやめてフランステルプレを始点にして、王都側への行商路に変更しようと思っているそうだ。
それならば毎回フランステルプレを通る時には年間滞在制限を一度の滞在制限日数である6泊(行商人は一般の旅人よりも制限が緩く年間ひとつの他人種居住区画に36泊、一度に6泊居られる)にしてちょうど良いペースの行商路に切り替えることにしたのだ。
そして、ゆくゆくは王都側に近い町に店を構えたいという野望も持っていて、今は蓄財の最中。
食事も済ませ、入浴も済ませた。
入浴と言ってもお風呂は温水に漬かるものではなくサウナの一種。
綺麗な水は魔法で出せるもののグリモスでは貴重らしく、火魔法を使っての製塩のついでに発生する蒸気をサウナ室に集めて、そこで血行をよくしてから、サウナ室の外に置いてある桶に入っている水とボロ布で体を拭く。
なおサウナ室の中はわずかなパーテーションで区切られているだけの実質混浴の様なもので、エミールさんがアリアの体に見とれてジュリエッタさんに殴られていた。
サウナも気持ちいいけれど、やっぱりお湯に浸かれる方が気持ちいいなぁと愚痴をこぼしたら
中央や地方でも領都の方に行けば上下水道が整備されていてお風呂に入れる町もあるとルイーズさんが教えてくれた。
「好い人達だよね」
「はい、命を助けることが出来て良うございました」
部屋に入って髪をすいて貰っていると、アリアが嬉しそうに呟き返す。
アリアはサウナ上がりのためかすごく血色がよくなっている。
綺麗を通り越して、なんだか少しえっちい。
何せ肌が上気しているだけではなく、昼はシニョンにしていた髪はおろしていて、それがしっとりと肌に張り付いている。
そしてエプロンもはずしていて、とてもシンプルなワンピース姿になっている。
こんな美人さん、それも今日であったばかり(私基準)の人と、ひとつの部屋に寝るなんてすっごくドキドキする。
しかも・・・
「いやまさか、ルイーズさんも、ジュリエッタさんもノーパン、ノーブラだなんて思わなかったなぁ」
ついさっきサウナに入る時に発覚した新事実に私はやや興奮気味だ。
貴族のファウンデーションとしてガードルやコルセットは存在するけれど、平民には私のイメージする下着と言えるモノは定着しておらず。
複雑な縫製を施されていない簡素な造りのドレスの下は綿で出来た充て布をつけて、擦れるのを防止しているくらい。
「肌ざわりの良い布は高価ですからね、お嬢様、終わりました」
アリアは私の髪の手入れを終えると、次は自分の髪に残った水分を拭き始める。
日本で使っていたタオルと比べるとどうしてもボロ布と言いたくなる粗末な布だけど、水吸いは中々に良い。
私は一足先にベッドに腰かけると、アリアが髪の手入れをする様子を見る。
昨日の夜召喚したばかりのはずのアリアだけれど、その手入れの仕方は実に手慣れている。
アリアは、そういう風に生まれたから最初からその知識があるのだというけれど、気持ち悪くはないのだろうか?
そんな考え事している間に、アリアは身支度を整え終わると、ボロ布を使用済みを入れる籠に放り込んだ。
「お嬢様、私も寝仕度は整いました」
部屋の中には、魚の油らしいものにボロ布をねじったものを差し込んで火を点けているだけなのでかなり暗い、そして臭い。
出きれば早めに火を消して、空気を入れ替えてから眠りたい所だ。
でも今夜は確認しておきたいこともある。
昨夜は意識を失ってしまっていたので確認できなかったこと・・・
「アリア、灯りを消して」
指示しながら私は、先程入浴するときにインベントリに収納していたスマホを取り出す。
家族の写真、家で飼っていた犬たちの写真、女中さんたちの写真、友達の写真それらを見返すための唯一の手段。
そんなスマホが盗まれたりしたらコトなので、入浴中はこっそり鞄事すべてインベントリに放り込んでいた。
アリアはやはり手慣れた様子で灯を消すと窓を開けた。
スマホの電源を点けて、パターンをなぞる。
しばらくするとOSが起動して、ランダム表示の壁紙が表示される。
今回は閃国戦姫シリーズの人気美少女キャラ孫魯育、駒姫、エラレ、エスィルトとネッサンがデザインされた夏をイメージした水着姿のイラストが表示される。
結局駒姫ちゃん以外は引けなかったなぁ、と少し悔しさを思い出しながら、右上の時間を確認する。
時間は夜9時を過ぎた所、まだこんなに早い時間なんだと思いながら、ふとまた疑問が沸き上がる。
そういえば時間は一日24時間なんだろうか?
それに言葉、よくよく考えたら普通におしゃべりできてるけれど、日本語が通じてるのって普通じゃないよね?
文字は筆記体のアルファベッドに似ていたけれど・・・
いや今はいい、今日確かめたいのはどのタイミングでアリアの維持MPコストの3が要求されるか、今日一日時々様子を見ていても一度もMPが消費される様子がなかった。
或いは同時に回復していたのかもしれないけれど、今夜確認したいのは0時を境に消費されるか否かだ。
使い魔維持コストの消費タイミングと、MP回復速度が解らないと次の使い魔をいつ召喚していいかも解らないし、アリアには申し訳ないけれど時間潰しに付き合ってもらう・・・ってあれ?
スマホのバッテリーの残量が87%あるんだけれど、昨夜はもう少し減っていた様な・・・?
「お嬢様?」
私がスマホを見てボンヤリしていたからかアリアが、声をかける。
おっとそうだった。
アリアとはこれから日付け変更頃までおしゃべりして、色々と今後の事を決めるんだ。
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朝にチュンチュンと、小鳥の声が聞こえるのは異世界でも同じらしい。
この世界で初めて迎えた朝は記憶に残ってないから、私にとってはこれが初めての朝・・・
私に付き合ってアリアも遅くまで起きていたのに、すでに起きていて、昨日サウナに入る時に脱いだブラとショーツ、寝る前に脱いだ制服とブラウスを魔法で丁寧にシワ取りしてくれている。
「おはようアリア」
「おはようございますお嬢様、今日も良い天気ですよ?」
窓は開け放たれていて、僅かに海の匂いがする。
異世界でも海の匂いはそれとわかるものみたい。
昨夜の検証では、0時と同時に維持コストの消費が確認された。
ただし、名付けにより消費3になっているにも関わらず実際には2しか減少しなかった。
そこで経過を監察したところ、更に20分後に1、MPが回復していることがわかった。
これは20分に固定で1回復なのかそれとも本当はもっと別の計算式があるのか今の時点ではわからないけれど、とりあえずMPはある程度回復することが確認できた。
あとはレベルがあがってMPが増えた後に数値が変わるかどうかを確認したいかな?
現在の時刻は朝6時半、少し眠たいけれど7時半には朝食だと聞いているので身支度をを整える為にちょっぴり早起き・・・と言っても学校に行く時間で考えたらそんなものか。
そして昨夜寝る前にインベントリに戻したスマホのバッテリーが100%になってる。
壁紙に表示されたヤヨとカンナの顔が懐かしく感じる。
どうやらインベントリに入れているとバッテリーが充電されるらしい。
これでライトや家族の写真を見るのには困らなそう。
何気にすごく嬉しい。
絶対に壊れたり盗まれたりしない様にしないとね。
インベントリに戻す。
ついでに、昨日服を脱ぎ着する時に確かめたら、どうやら防御力が発生するのは、ブレザーとスカートをセットで装備した時みたいで下着やブラウスは防御力に寄与しないことがわかった。
逆にアリアに私の制服を着せてもDEF値は変わらず。
私がアリアのエプロンを借りた時はアリアが-1、私が+1されたので、恐らくアリアのエプロンの防御力は+1なんだけれど、それがどれくらいの性能かは不明なままだ。
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アリアに髪を整えて貰ってからジャンさんたちと合流して朝食をとった後、私とアリア、ジュリエッタ、それにリュシーとリュリュにエミールが付き添いで冒険者ギルドに、ジャンさんとルイーズさんは露店をするために商業区画へと向かうことになった。
時刻はだいたい9時半位。
一応ギルドが混むのは8時~9時頃だそうなので僅かにずらした格好。
私がリュリュと、エプロンを外しているアリアがリュシーと手を繋いで歩く。
エプロンを外したのは、メイド風の装束はこんな田舎町では目立つからというジャンさんの助言に従ったものだ。
イヤでも、まぁ、目立ってるよこれ、アリアは美人さんだから仕方ないとは思うけれど、歩いてるとめちゃめちゃ見られる。
「いやー目立つねぇ」
とジュリエッタがため息を吐く。
「うん、やっぱりエプロンはずしてもアリアは美人さんだから見られちゃうね」
「申し訳ございません」
アリアが別に悪い訳じゃあないけどね、視線が集中してちょっぴりだけ照れちゃう。
アリアは申し訳なさそうに謝るけれど、リュシーと繋がれた手はごきげんなリュシーに振り回されてブンブンしている。
それがワンちゃんの尻尾みたいに見えて可愛い。
しかしジュリエッタとエミールの反応は私の期待とは違った。
「いや、ムツキも目立ってるだろ?」
「そうね、ムツキもかなり目立ってるわ」
と、二人とも断言する。
そっか、私もブレザーなんて着てるからね、珍しいよね。
なお二人とも私のことを呼び捨ててもらう様にして、私も呼び捨てるコトにした。
これから暫く一緒に行動するのにさんとか様で呼ぶのは目立つしね。
年の近い二人とは友達として振る舞うことにした。
そのため昨日までとは言葉遣いや態度もお互いだいぶんかわった。
男の子を呼び捨てにするのなんて初めてだからちょっと、いやかなり照れるけれど・・・同時になんだかちょっぴり楽しい。
「ねぇエミール、ギルドってまだ?」
それはそれとして宿屋から5分歩いてる。
丘の上から見たときは小さな町に思えたけれど、実際に降りてみるとけっこう広いのね。
「あぁ、もう見えてるぞ、あの扉が半分の建物が冒険者ギルドグリモス支部、看板出てるだろあの剣と杖とピッケルの交差したエンブレムが冒険者ギルドのマークだよ」
と、エミールは嬉しそうに答える。
見ると確かにエミールの言う様な建物があったけれど、なんか思ったよりみすぼらしい建物だね。
そのまま更に20秒ほど歩くと、西部劇なんかによくある中が覗けるスイングドアのあるその建物についた。
ちょっぴりお酒の匂いもする。
「じゃあ入るぞ?」
と、先頭を歩くエミールが尋ね、私は期待に胸を膨らませながら大きく首肯くのだった。
冒険者ギルドを書くのは初めてです。
男の子一人に女の子いっぱい、お約束の予感がひしひししますね!