G7話:ほぼムツキ+ガーネット風の私
前回のあらすじ
獣の群れから助けた行商のジャンさん一家とお友だちになった後で、違和感から鏡を覗いたら、映った顔が「私」のだった!
あれ?文章にすると普通?
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これは、どういう事でしょうか?
キャラ名ガーネットだったじゃない?
髪も赤っぽいし、足も速いし、魔法だって使えるのよ?
なのにどうしてお顔がムツキなの?
いや待って・・・?
ぺたぺた(胸を触る)
むにむに(お腹を触る)
うん、すっごいしっくりくる。
今の今まで違和感を感じなかったのは、触りなれた睦月の体そのものだったからだ。
どうして今の今まで違和感がないことに違和感を覚えなかったのか・・・。
違うのは、髪の色、目の色、あとは疲れにくい体とゲームのインターフェースが生きてること位?
このインターフェースのことや世界のことが気になったせいで見落としたのよね・・・?
「あの、ムツキ様?」
ジュリエッタさんが、下から私の顔を覗き込む。
綺麗な目の色、ヤヨと同じ青の瞳、目立つ顔立ちではないけれど、出るとこ出てて13歳にしては大人びて見える。
きっと世の中の私と同じ年頃の男の子は、こういう大人っぽい女の子が好きなんだろうなって思う。
それに比べて私の体の貧相なこと・・・
こんな体で、こんな顔で、『ガーネット』を名乗るなんて!
急激に恥ずかしくなる。
ガーネットは私の理想の主人公。
それがこんな平凡な顔で、こんな平凡な体つきで
「あぁっやっ!待って、見ないで!」
とっさに顔を隠してアリアの方を向く。
「お嬢様?」
「ムツキ様?あっそうか、お兄ちゃん、エミール、申し訳ないけどムツキ様は恩人だから、ムツキ様が優先!お外に出てて!」
そう言ってなにか納得したらしいジュリエッタが声をかけるとジャンさんはあぁ、と納得した声を出して、馭者席近くに居たルイーズさんを避けさせると、自分から馭者席に出ていく。
「あ?えっ?なんで出なきゃいけないんだよ?」
と、エミールさんは納得がいっていない様だったけれど
「いいから!本当は外を歩かせたいところだけど、兄さんの隣で勘弁しといてあげる。聞き耳立てたら次の町でお別れだから!」
と、ジュリエッタさんはエミールさんを馭者席に追い立てた。
そして、ルイーズさんが馭者席との間にある幌を広げると、一応二人の姿は見えなくなり、少しするとゆっくりと馬車は進み始めた。
正直なにがしたいのかは私にもわからない。
膝の上にリュシーちゃんとリュリュちゃんが寝ていなければ、今すぐお別れしてアリアと一緒に道を逆走して筐体まで引き返したいくらい恥ずかしいのに、二人を遠ざけた位では私の恥ずかしさは打ち消せない。
「ごめんなさいムツキ様、すぐに思い至らなくて、そうですよねぇ、水や食料がある程度どうにかなっても、女の子ですもの気になりますよね?」
と、ジュリエッタさんは私の手を握る。
えっ?何?何を言ってるの?
「でも大丈夫、大丈夫ですよ、匂いなんて全然気にならないですよ、むしろなんか花みたいな甘い匂いがします」
途中から小声になりながらジュリエッタさんが耳打ちする。
「そうですよ、何よりもリュシーとリュリュが顔を押し付けて寝てるのが証拠です」
と、ルイーズさんも私を囲む様に移動しながら言う。
言われてみれば、長い間遭難して海にも投げ出された設定だ。
その上走ってロードランドッグを倒しに来た。
普通は汗の匂いとか、体臭を気にするよね。
でも、私が気にしてるのは容姿なんだ。
「本当、遭難したって言うのにそうとは思えないくらい、匂いもそうですけど、髪もサラサラでさすし、肌も不健康には見えないくらいの絶妙な白さですし、顔も少し幼く見えますけど悪い貴族なら裏に手を回して妾にしようとする素材ですよね、羨ましいです。あぁ貴族の妾になりたい訳じゃあないですよ?単に憧れるくらい可愛い人だなってことです」
「それにお二人だけにするのが心配ですね、アリアさんも美しい方ですし、ムツキ様は可愛らしい方なので、お強いのはわかるのですが、良からぬ輩が寄って来ないと良いのですが」
ジュリエッタさんとルイーズさんは、多分馭者の二人に聞こえない様に耳元で小さな声でささやく。
距離が近いし、耳に吐息が当たってくすぐったくてゾワゾワする。
あとルイーズさんの匂いと雰囲気がなんか大人っぽくてやらしいことしてるみたいで・・・
「ひぅっ!ち、近いです。もうちょっと離れて・・・」
「だから、匂いなんて気にならないですよぅ」
「そんなに気になるなら次の町に行ったら、先に宿に入りましょうか?助けて頂いたお礼に、滞在中の宿代はこちらで持ちますから、お風呂入りましょう、それからその、船のお仲間を探されるでしょう?」
ジュリエッタさんは私の手をつかんで力説する。
そしてルイーズさんに言われて気付いたけれど、アリアの作った設定ならどこかに仲間が流れ着いていても不思議じゃない、召喚で仲間を増やしても船の仲間だったといえば言い訳が立つね。
アリアってもしかして頭も良いの?
美人で腕が立ってその上賢いなんて、私一応主人なのに・・・
また脇役根性というか、折角主人公らしくこの世界を楽しんでやろうと決めたのに、顔貌が名前以外平凡な睦月そのものだったから、いつものマイナス思考。
よく見たらジュリエッタさんだって、大人びて見えるの胸のせいかなって思ってたけれど、ソバカスが少しあるけれどそれ以外に目立って悪いところのない美人さんだし、そもそも13才なのに結婚を考えてる恋人がいる時点でリア充じゃん・・・。
ルイーズさんも、おっぱい大きいし、雰囲気が昼ドラで人妻役が似合いそうな、なんかえっちいフェロモン出てるし、21才ですでに2児の母、充実しすぎでしょう!?
私だけ普通、特徴も胸もないし、家がちょっと裕福めなこと以外なにもないつまらない子だったのに、今やその家にも帰れない。
「うぅ、見ないで・・・私、ジュリエッタさんより、年上なのになんでこんな、子どもっぽいの、見ないで、恥ずかしいから」
私の手を引くジュリエッタさんの手から逃れる様に体をよじる。
だけど、ジュリエッタさんは手を放さない。
「もしかして匂いじゃなくて、お化粧とかの話をしていたんですか?普段がどんな大人っぽい化粧してるか知らないですけど、ムツキ様可愛い顔してるんですから、お化粧なんてしない方が魅力的じゃないんですか?現に今私、ムツキ様のこと抱き締めたいくらいですよ!」
ジュリエッタが私の肩を引き寄せて力説する。
でもそんな気遣いは要らないの、私は地味子の睦月なんだから、それが命の恩人を気遣ったお世辞だってことくらいわかるのよ?
「あぁうこれ信じてくれてない目だ。どうしよう義姉さん、ムツキ様なんでこんなに自己評価低いの?」
そりゃ、周りの皆が主人公見たいにぴかぴか輝いてるから、皆充実して気力に満ち満ちてるから。
その時、私が身をよじったのが悪かったのか、それともジュリエッタさんの声が大きかったからか、折角お眠になっていたリュシーちゃんとリュリュちゃんがおっきした。
「んゅー?まちまだー?」
「・・・・・ァ・・・マァ・・・」
起きてすぐに目をこすりあたりをキョロキョロ見渡すリュシーちゃんに、体を起こした後そのまましばらくぼんやりした後ルイーズさんの太ももに顔を押し付けるリュリュちゃん、対照的な姉妹の姿につい見惚れてしまう。
やさぐれた私の心にもすんなり入ってくるかわいさ。
二人から解放されたら逃げようと思ってたのに逃げ忘れちゃった。
「あぁそうだリュシー、リュリュ、ママちょっと聞きたいんだけどね?」
その時なにかを思い付いたみたいにルイーズさんがリュリュちゃんの脇に手をさし込み立たせながら二人の娘に話しかける。
なんだろう?
「なーに?」
「・・ん?んぅ?」
揺れる馬車の中、ルイーズさんは二人の愛娘を膝に座らせると、二人に指で示しながら一人一人名前を教えていく。
「マーマ」
「マァマ」
「マァ・・・マ」
儚げなリュリュちゃんの声がまた可愛い、こんな妹が私にも欲しがった。
「エッタお姉ちゃん」
「エッタおねえちゃ!」
「ねーぇゃ」
「ムツキお姉さん」
「むちゅきおねえさ!」
「ムー、キねーぇしゃ」
「アリアお姉さん」
「アリアおねえさ!」
「あーちゃ」
ママに言われるままに教えられた名前を呼んでいく二人だけど、リュリュちゃんは全然言えてない可愛い。
逃げたいのに、こんな可愛いの見せられたら離れられない。
「義姉さん?何を言ってるの?」
ジュリエッタさんも意味が解らずその行動を問い質す。
しかしルイーズさんはにやりと笑って
「二人とも、誰が一番好き?」
と尋ねた。
すると二人は元気に手を挙げて
「マァマ!」
「マァ、マ!」
と、ルイーズさんの膝に飛び付く。
リュリュちゃんはリュシーちゃんにワンテンポ遅れている。
そのどんくささにもまたなんとも言えない可愛さがある。
「ありがとー、ママも二人のこと大好きよー」
と、ルイーズさんも膝に飛び付いた二人に覆い被さる様にして背中をかきなでる。
「キャッキャッ!!」
と二人は声をあげてよろこぶ。
ひとしきりなで回した後で、ルイーズさんは体を起こすと、再度二人に向き直って
「じゃあ、誰が一番美人さん?」
と尋ねた。
すると二人は一瞬考えて
「アリアおねえさ!」
「マァ、ーちゃ」
リュシーちゃんはアリアの膝に、リュリュちゃんは一度ママに行こうとしたけれど、隣に居たリュシーちゃんがアリアに飛び付いたのが見えたからか向きを変えて、アリアの方へ、飛び込もうとしたけれど距離が足りずにリュシーちゃんのおしりに飛び付く姿になった。
「おしり!おしり、あははははは!」
「おちり、ククク・・・」
よくわからないツボにはまった二人をアリアも優しい微笑みを浮かべて撫でる。
アリアも子どもは好きみたいで、特にまだ赤ちゃん顔のリュリュちゃんよりも、しっかり女の子顔になっているリュシーちゃんがお気に入りの様に見える。
それを見て満足そうに笑うルイーズさんは続けて尋ねる。
「じゃあ、一番可愛いお姉ちゃんは?」
「むちゅきおねえさ!」
「ムーキちゃ」
今度は私の方にがばっと二人が覆い被さる。
やさぐれていた心なんてどっかいっちゃうね。
「もぅ、二人の方がかぁいいよう。町に着くまでお姉ちゃんと遊ぼうねー!」
もう、二人の可愛さにメロメロです。
これ、商売にできると思う。
メイド喫茶ならぬ、赤ちゃん喫茶的なの
私は断然リュリュちゃん推しだけど、リュシーちゃんもむっちりしてて可愛いよ!
「ほら、子どもは素直でしょう?ムツキ様はすごく可愛い方です。お化粧なんかに頼らなくたって、おモテになると思いますよ?」
未だに何か勘違いさせてしまっているみたいだけれど、少しだけ自分の容姿に対して自信を回復する。
私は地味子だと思うけれど、愛嬌はある顔立ちなのかな?
妖精みたいなヤヨや、小学生の頃から高校生?とナンパされていたカンナみたいな目立つ顔じゃあないけれど、少なくともこの二人の可愛い生き物が、私のことを可愛いお姉さんだって選んでくれたから、少しだけ自信がついた。
「義姉さん、なんか一回も選ばれないで終わるのすっごい寂しい、なんか私が選んでもらえる様なのないの?」
代わりに、ジュリエッタさんがほんの少し自信を喪失した。
その後、ジュリエッタさんは『一番仲良しのお姉さん』で無事選ばれた。
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幾ばくか自信を取り戻したところで
気を取り直していくつか理解できたと思うシステムについて考えをノートにまとめる。
まずは人に対して浮かぶ窓について
これはどうやらレベル差によって見える見えないがあるのではないかとおもう。
根拠としては、今接している6人の中で見えるのがリュシーちゃん、リュリュちゃん、それにジュリエッタさんだけだとわかったからだ。
ジュリエッタさんは馬車の中に入っていて、落ち込んでるのを慰める時に窓が見えたのだけれど
ジュリエッタ Lv2 HP72/77
というステータスが表示されていた。
そこで仮説を立てたのはレベルの所が自分と同じか下のレベルの人のステータスが見える可能性。
後は年齢とかもありそう、さすがに見えない他人のステータスが関係してるなら考察しようもないけれど、恐らくはこの二つのどちらかではないかとおもう。
いかにもゲームならあり得そうな仕様だ。
後は動物相手に見えるかとか、町中に入ってから見えるかどうかでもう少し判明するかな?
次にステータス、先程のロードランドッグとの戦闘を経ての変化がある。
アリアのレベルは変化していない、命名した時とステータスも変化なし、しかしガーネットのレベルが4に上がっている。
ガーネットlv4
HP1091/1092 MP34/34 STR15 INT26 VIT14 AGI18 DEX16
と装備のところに
ATK33DEF57MATK56MDEF50となっていた
そして、装備は変わっていないはずなのに、合計装備値のDEFは25となっているので、素のDEFは32ということだろう。
レベル2つでステータスの実値が
HP250 MP12 STR4 INT6 VIT2 AGI4 DEX4 ATK10 DEF6 MATK14 MDEF8上昇していることになる。
すべて2で割りきれる数だから一定ずつ上がるのかも知れないけれど、たまたまの可能性もあるからまだデータがほしい。
防具の合計値が変化したのだからもしかして、と、賢者の短剣を握ってみるとこちらも7から21に変化している。
レベル2の時は防具と同じ7だったのに、これは私のステータスが上がったから攻撃や防御の発揮値に影響したのかなと思って、アリアのアンシーリーコートを握らせてもらったけれど、こちらは攻撃力に変化なし。
もしかすると、この短剣と、ムツキセットのいずれかが成長する装備なのかもしれない。
だけど服のどれがそうなのかを確かめるのは宿に入った後にしたほうが良さそうなので考察は一旦ここまでにしよう。
ステータスをメモしていたノートを閉じると
グゥ
考えを事をしていたからか、私のお腹が唐突に悲鳴をあげた。
恥ずかしいけれど隣にいるアリアとちびっこ二人にしか聞こえてないからセーフ!とか思っていたら。
「むちゅきおねえちゃおなかなった!あははは!」
リュシーちゃんが笑ってあっさりとばらす。
そうすると、リンクするみたいにリュリュちゃんもケラケラと笑う。
恥ずかしいけれど、リュシーちゃんもリュリュちゃんも純粋なだけだから叱る訳にもいかない。
羞恥に耐えていると、ルイーズさんが幌をずらしてその向こうのジャンさんと何やら話している。
それから、こちらに向き直ると
「粗末なものしかなくて申し訳ないんですけれど」
と、荷物のひとつを漁ると、中から掌大の乾パンみたいなのをを2つひっぱりだして、私とアリアとに1つずつ手渡した。
「フランステルプレで、よく食べられてる携行食なんです。よろしければどうぞ」
考えてみれば私は昨日の昼・・・昨日でいいんだよね?
洋食の方の学食で食べたホットプレスサンド以来何も食べてない、だからすごくお腹は減っていたんだ。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
「ありがとうございます」
ちょっと堅いビスケットみたいな歯ごたえ、甘さ控え目だけれど、メープルシロップみたいな風味と舌にざらつく様な感覚が残る。
「甘い・・・ですね」
「初めて頂く味です」
アリアも少し感動しているみたい、初めて食べる味どころかアリアは食べ物自体初めてな様な気がするけれど
私もそれどころじゃない。
「あー、リュシーもたべたい」
「リューも・・」
と膝の上にじゃれつく二人のおねだり攻勢、目線でルイーズさんにちょっとあげてもいいか尋ねると、少しだけ、とジェスチャーで返す。
私はアリアと目を合わせて、うなずき合うと、それぞれ一欠片折って、私はリュリュちゃん、アリアはリュシーちゃんに手渡すと、二人は私たちの膝に載ってカリカリと小さな歯でかじり始めた。
そして背中で寄りかかりながら
「おいちぃねぇ」
とこちらを見上げる姿は、一度は挫けかけた私の心を満足させ、頑張ろうと再起させるのに十分な攻撃力を持っていた。
睦月は目立つ友人に挟まれてきたため自己評価が低くなりやすいですが、同時に周りの人の長短に良く気付き、長所の方に目が留まりやすい傾向があります。
今後はウジウジは頻度低めにする予定です。