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G5話:丘の上から

 前回のあらすじ

 くよくよしているよりこの魔法の世界を楽しもうと決めた。

 まずは少し離れたところにある丘の上を目指すよ!

---


 一晩お世話になったEoSの筐体に別れを告げて、私ことムツキはこの名前もわからない世界に解き放たれた。

 アリアが召喚出来たということは、ここはEoSの世界なのかも知れないけれど、少なくともOPイベントから違うし、私はガーネットというキャラ名なのに自分がムツキだという認識が強い、それに装備もムツキとして覚えている母校の、これからあと2年半通う予定だった高等部の制服だし・・・


 腑に落ちないことはかなり多いけれど、とりあえずは町か人を見つけてみないことには始まらない。

「ねぇアリア、ちょっと思ったんだけど」

 しばらく経って丘の中程まで来た辺りでふと思い付いて、前を歩くアリアに声をかける

「はい、いかがなさいましたか?お嬢様」

 周辺を警戒したまま、アリアは私の声に反応して足を止め振り返る。

 そんな所作も彼女はとても綺麗で、洋風のメイドさんも実家に一人くらい居れば良かったのにと私に思わせた。

 でも今はそういう話ではなくて


「これ、丘の上に行ってその向こうに獣の群とかいたらピンチかな?」

 私の問いかけにアリアは既に見慣れてきた微笑みを浮かべて、穏やかな声で答える。

「ただのけだもの程度に遅れをとるつもりはありませんが、もし不利だと感じた時は私を囮にしてお逃げください」

 と、俄には承服し難いことを言う。


「アリア、それは・・・」

 やっぱり彼女は使い魔でしかないのだろうか?

 しかし彼女はすぐにそれを否定する。

「お嬢様、なにも私は死んでも良いと言っているわけではございません、二人とも生き残る手段として提案しているのです」

「どういうこと?」

 二人とも生き残るなら、一緒に残って戦った方が良いのではないの?


「お嬢様が逃げきれれば私を緊急召喚できます。そうすれば私もすぐにお嬢様のそばに参れますから」

 そっか、アリアが食い止めて私が逃げきれるなら早めにそうした方が、アリアが大ケガする前に逃げられる可能性も生まれるんだ。

「わかった。でもそれも最後の手段だから、なるべく二人で切り抜けようね?」

 それでも、今や人格をもった一個人となった彼女を獣の群の中に置いて逃げるなんてやりたくない。

 ところでどうしてそんなことを言い出したかと言うと


 歩きながらコンフィグでミニマップや索敵範囲を弄っていたところ。

 アリアが緑色の○で中心のすぐとなりに表現されているとわかった。

 緑色の○は味方か使い魔といったところなのだと思う。


 それに対して

「多分400メートル位向こうなのかな?丘の向こう側にいくつか気配があって、穏やかじゃないの」

 ミニマップは行ったことがある場所と、自分の周辺が把握できるみたいで、索敵の範囲と組合わせたところ右下に表示されるミニマップの最大は1000メートル位、索敵の最大半径は500メートルだとわかった。

 ある程度歩いたところでコンフィグのミニマップの設定の項目に履歴の確認が追加されていて、さっきまでいた筐体のところの周辺から今いるところの周辺までがみられる様になっているけれど、道の確認位にしか使えないかな?

 同じ場所をグルグル廻る様な迷い児にはならなくてすみそう。


 そして現在丘の向こうにの辺りには、黄色の○が6個と黄色の◇が15個あって、◇二つを戦闘に?○の集団がこちらとすれ違う様な位置に向かって移動していて、囲む様に他の◇が移動している。

 他にもいくつか白い◇が私の近くにあって、そのひとつがウサギであることは視認している。


 推定できることは○は意思疏通が可能とか、人型、二足歩行とかなのかな?◇形は動物?大きさによる区別もあり得るかも知れない、まだハッキリとしたことはわからないけれど、とにかく物騒な状態なのはわかる。

 何度も◇が○集団に接近を繰り返している。

 先頭の二つの◇が気になる所だけれど、群れて狩りを行う生き物には心当たりもある。


「さすがはお嬢様、魔法の残滓だけではなく争いの気配も察知可能なのですね、素晴らしいお嬢様にお仕えできてアリアは果報者にございます」

 私の技能というよりはゲームシステムのアシストなのだけれど、頬を赤らめて私を誉めちぎるアリアに水を差す様なことは言えなかった。


「とりあえずは上まで登ろう、どうするかはそこから決めよう」

 なだらかな斜面、背の低い木と草が生えている。

 私はコントローラー改め賢者の短剣を、アリアはグルカナイフ風に見える幅広で短い刃物、固有名「アンシーリーコート」を持っている。

 アリアの武器も私が手に持つと装備として認識されることがわかり、私の短剣の攻撃力7に対して、アンシーリーコートは75もの攻撃力があることがわかった。

 つまりアリアの攻撃力は名付けによるステータス上昇分も合わせて120に迫っている。

 短剣を合わせて30の私の約4倍だね。


 丘の一番上にたどり着くと、とたんに視野が開ける。

「わぁ・・・」

 言葉を失う、日本で15年生きてきてこんな景色を見たことはない。

 辺りの平原と比べて40メートル弱程高くなっただけの場所、後ろをみればさっきまでいた筐体のある丘も見える。

 黒い筐体が小さな碁石みたいに見える。

 さらにいくつかの小さな丘を越えたそのずっと向こうには海と思われる水平線が見えた。

 そして海岸線と思われる場所の少し左側に目をやるとどうやら漁村か港町というべきだろう背の低い建物の集まっている場所が見える。


 なだらかな斜面であったこともあって、低いと思っていたけれど以外と遠くまで見える。

 あの町まで12~15キロメートル位あるのだろうか?

 さらに左側に視線を移すと港町(仮)から伸びる道・・・というよりは人がよく歩くから踏み固められて、馬車が走るから轍が出来ただけなのだろう土肌の見える細長い道がこの丘の麓を掠める位置にまで伸びている。

 そしてその延長に・・・。


「お嬢様、アレの様でございますね」

「うん」

 解像度を高くしてるからか既にハッキリと顔まで見える距離、ミニマップと示し会わせると220メートル位だろうか?

 2頭立ての幌馬車を戦闘に、二人の軽装鎧の男が柄の短い槍を持って馬車の横をかためながら走っている。

 その周囲では昨夜私が相手したのと似た。

 そして明るい所でよくよく見ればハスキーよりもモフモフドッグだっけ?なんかハスキーのミックス犬のやつに似てる気がするあのワンちゃんっぽい動物が幌馬車の馬や外を走る男たちにちょっかいをかけている。


「どう、しようか?あれ、襲われてるよね?」

「そうですね、数が不利で、戦えないのでしょう」

 ○の数は変わらない、ということは○が人の数なら馬車の御者をしている女性以外に3人馬車に乗っているはずだけれど、出てこないと言うことは多分戦えない子どもかお年寄り、それか病人が3人乗っているんだろう。

 軽装鎧の男たちもよく捌いているけれど、走って逃げながら13頭もの肉食獣の相手は厳しい物があるだろう。

「おや」

「あっ!」

 様子を見ているとついに男の一人の槍が獣の首の後ろを捉えて刺さった。

 しかし・・・同時に槍が刺さったことで走っていた彼はよろけ、速度が僅かに落ちる。

 その瞬間獣たちの大半は馬車から男の方へと目標を代えた。


 すぐに男はまた元の通りに走ろうとするけれど馬車とは4~5メートル離れてしまった。

 結果として先程までは右側と後ろ方向を中心に槍で牽制していたのが前以外すべての方向から獣に狙われる状態となってしまい、明らかに遅れだした。

 馬車の方も一度速度を落とせば獣たちの餌食になる以上万事休すと言うものだ。

 私たちというイレギュラーを考えなければ。


「見て見ぬふりは出来ない、威嚇して、あの人を逃がしたいと思う」

 これは私のワガママ、だけどあの獣たちを残せば次は私たちが道をたどるときに襲われるかもしれない。

 だからこれはおせっかいとか徒労だけの話ではない、そう自分を言い聞かせる。

「では、私が行って参りますのでお嬢様はここでお待ちを・・・」

「二人で!!・・・・二人で切り抜けるって言ったでしょ、アリア一人より二人で行った方があの人たちを確実に逃がせるはずよ」


 アリアの言葉を遮って私は提案する。

 時間はない。

 アリアはそれ以上問答することなく、深呼吸をするとアンシーリーコートを構え直して、麓に向かって走り出した。


「お嬢様は馬車側の4頭に牽制をお願いします。私は男の方を、無理はなさらないで下さい!」

「わかった!アリアもケガしないでね!」

 途中までアリアを追いかけて、20メートルを切った辺りで別れる。

 私は少し右側

 大丈夫やれる。

 あれは、私の好きなワンちゃんじゃない!


「ハアァァァァァ!!」

 行き足の落ちた男の存在にも、そちらに狙いを代えた仲間にも気付かずに未だ馬車と男の方を追いかけていた獣たちは、馬車馬に狙いを定めて飛び掛かる為にタイミングを合わせようとしていた。

 そして無論のこと突如右後ろから追従してきた私にも気付かなかった。


「ギャイン!」

 昨夜と違って迎え討った訳ではない。

 走って追い付きながら、不恰好に切りつけた。

 武器も昨夜と一緒、だというのに。


 私の賢者の短剣の一撃を受けた獣は、もんどりうって倒れた。

 それなりに勢いもあるのでそのまま転がるのが見える。

 でも気にしているわけにもいかない、そのままもう一頭近くにいる獣と並走する。

 するとこちらに顔を向けた獣に赤のサークルゲージが出現した。

 でもそのスピードは驚く程遅い。


「ごめん!」

「ガァン」

 胴体に向けて縦に切りつけると、先程のものより幾分か太い声をあげて獣は転がって倒れ、後ろに流れていく。

 馬車の女性と目が合う。

 20台後半くらいかな?派手さを全く感じない地味な女性。

 けれど判断力は高いらしい。

「ジャン!今2頭しか着いてきていないわ!その2頭を倒して」


 私と馬車の逆側の男性にだろう、声をかけて戦略の変更を促す。

 そうだね、私のことは後でいい、今は簡潔に伝達するべき事を伝えよう。

 速度を緩めちらりと後ろを見ると、私が切りつけたであろう2頭は横たわったままだ。

 思ったよりも弱い?

 そして大分距離が開いたアリアたちの方も既に2頭が倒れ槍の男とアリアは獣たちと対峙している。


 馬車は速度を緩め逆側の男性も反転して一頭に対して槍を振って牽制を始めた。

「アリアー!作戦変更!!全部倒すわ!!」

 私も簡潔に、アリアに伝えるべき事を伝えると、近くの方の男性と対峙していた獣の片方にまた背後から賢者の短剣で切りつけ、さらに靴の裏で蹴り、もう一頭にぶつける。


 よく考えたら走りにくいはずのローファーで、それも私はそう運動も得意じゃないはずなのに、なんでこんなに動けるんだろう?

 と、疑問が浮かぶ。

 でも

「すまない、助かった!」

 礼を言いながら獣に止めを刺し、後方の救援に向かおうとするジャンさん(多分)の姿を見ると、それよりも早く残りを片付けようと言う気になる。


「ジャンさん槍であの2頭に止めを、私はコレなので」

 短剣だと、横たわった獣に止めを刺すのにかなり近づく必要がある。

 それは咬まれたり引っ掛かれる可能性もあるので少し怖い。

「わかりました!」


 私は急いでアリアたちの方に駆けつけたけれど、すでに手遅れだった。

 手遅れと言うか、もうやることがないと言うか。

「アリアやっぱり強いのね」

 アリアは返り血を浴びることもなくしかしアンシーリーコートにはベッタリと血糊が付着していた。

 その回りには16・・個の獣の死体が転がっていた。


 8頭の獣はすべて腰や首の辺りで両断されていて、綺麗に倍の部品に別れている。

 コレが攻撃力4倍かぁ・・・

 アリアが守った方の男性はその場にorzくずれこんで、大きく息をしている。

 やがて後ろ、私が割ってはいった方からジャンさん(多分)と、転回して戻って来た馬車とが合流する。

「エミール!!」

「ジュリエッタ!」

 馬車の、御者の人とは別の女性が荷台から飛び出してきて、崩れている男性のほうに駆け寄っていき、それに気付いたエミールさんの方も立ち上り抱き合って無事を喜び合う。


「二人とも無事を喜ぶのはいいけれど先にお礼を言いなさい!助けていただきありがとうございました。先程は頭も下げずに申し訳ございません」

 馬車の御者をしていた方の女性が私とアリアの前に跪いて礼を述べる。

 悪い気はしない、やったのはほとんどアリアだけれど。


 エミールとジュリエッタはすぐにその場で土下座で平伏して礼を言い

 やがてジャンさんが馬車の中から見るからに1桁の2人の童女を連れ出してきて子どもたちにも頭を下げさせながら

「本当に助かりました!ご助力に感謝致します」

 深々と頭を下げた。 

丘に登ってみた所、近くの町だけでなく第一異世界人一行も発見しました。

それから一応設定上でムツキは攻撃力で前回戦闘時より9上がっています。

心構えも変わっているのでハスキーもどきも昨夜より弱く感じています。


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