刷新する国家
放送が終了してから
国民は突然の出来事に戸惑い、もしや突如として現れたテロリストによる報道かと思い、事態をうまく呑み込めずに、混乱してパニックとなっていた。
すると
すぐさま各テレビ局の放送している番組が、一斉に臨時ニュースへと切り替わり
先程の放送は、紛れもなく『【新首相の就任演説】である。』と報道して
政府も速やかに、正式な記者会見を開き、報道した。
政府の報道官は
「先程の報道の内容は、全てが事実であり、国家の名の下に正式な発表である。」との見解を示して
「国民の皆様は、どうか慌てる事無く、今後政府から発表がありますので、指示に従って頂き、落ち着いた行動を願います。」と、粛々とした面持ちで話していた。
暫くの間
国は混乱し一時的に荒れはしたが、思っているよりも早く混乱の事態は収集した。
それは
彼の演説を聞き終えた国民の中に、今の絶望的な社会から脱却する為の足掛かりと彼へ何かしら期待をし、彼の次なる動向や発言を期待していた。
彼には
世界をアッと驚かせるような期待感があった事もあった。
そもそも
この国がどう変わろうとも、世界は前と変わらずに、回り続けている。
この国が
世界の荒波にどのようにもまれても、世界がどのように変化していこうとも
時の流れと共に、国民は自分達の置かれている現状を理解し、ありのままの世界や環境に慣れていく。
このように彼は
人間は生まれながらにして、自ら身を置く環境に、順応し適応していくと考えて、人間は頭で考えてどうしようもなければ、自らが環境に順応し、生きていく為の、適応が高いと信じて、国民は、得体の知れない彼を、恐れる者や何かが変わるのを期待する者と、様々な考え方の者が居た。
彼が国民を信じていたのと
国民が、理由はどうあれ彼の治める国を受け入れた事。その他の大きな要因として彼が裏で手引きをし、着々とこの日の為に準備を整え、多くの人が彼の事を事前に知っていたからであろう。
首相就任の演説に関して
『才覚新首相』は、『BK』商品化の目途が立ち始めると
何年も前からずっと水面下で動き出し、各国の首脳達や自国政府の偉い方々に加え政府関係・各所全てと、報道関係者やこの国の経済を支える経営者達とも、内々に会談の場を設けて話を済ませており、裏から働きかけていた。
こうした事前準備のおかげで、国の、世界の、混乱を最小限に抑えようとした。
これは
才覚新首相の意向で、計画的な行動の一部であった。
彼曰く
「新たな時代の幕開けとなる為には、それなりの事前準備と、尚且つ鮮烈で強烈な印象とインパクトを国民に与える必要がある。」と周りには常々話していたらしく
まさしく彼の言葉通り、裏できちんと順を追って段取りを踏みつつ、就任演説は紆余曲折あったが、新しい時代の幕開けとなる、国民と世界に対してサプライズとなっていた。
『才覚』と名乗るその男は
その名が表す通りに、突如として現れはしたが、才覚のある人であり手腕家であり圧倒的な求心力を発揮し国を束ねていき、首相としての存在感を示しつつ、周りを巻き込み、あらゆる分野の人を惹きつけながら、次々と新しい何かを生み出して、この国を「変革」していった。
だがしかし
新しい首相となってから暫く、この国に不安を感じ国外へ出て行く国民も居た。
瞬く間に人口が減少し、国民の2割近くは国外へと流出し、国は更なるピンチを迎えはしたが、日に日に国民は、新しい首相となる【その男】の、不思議な魅力に惹きつけられていき
国内中が混乱し国民全てが騒然としたのは、次第に収まり、事態収集を速やかに済ませると、国民生活は、元通りの日常を取り戻し、確かに以前とは国の在り方が徐々に変わっていき
彼が口にした通りの『変革と結果』を国民生活に反映し、結果を出し始めてきた。
そうする事で、就任の時に宣言した。
『この国は、今から新しい時代の幕開けを迎える。』との言葉が、段々と現実味を帯びてきた。
次第にこの国の技術は
驚異的な速度で近年稀に見る程の目を見張る著しい独自の発展を遂げていき
技術の開発・進歩・向上は留まる事を知らず、形るモノだけに限らず
コウギョウ・農業・情報・医療・電子・芸術と世界のあらゆる分野で研究を進めて技術革新を果たし出して、世界へ【技術力】を証明し、台頭し始めた。
こうして
世界一の技術大国を目指す為に、日々研究と開発や、技術の習得と鍛練に、時間と費用を費やし、国内外へと、技術を用いた商品や人材など、放出し売り出し輸出し始めると、国家繁栄の礎になる国益となり、国の経済は回復の兆しが見えてきた。
この国の支えとなるのは、この国の【国民】である、優秀な人材だった。
これは、国家プロジェクトとして
世界に通用する優秀な人材を育成し、いずれは世界各国へと、人材を輸出し派遣し各国を内側から侵食しようという魂胆で、侵略の要となる、その人物が居なければ国家が立ち行かなくなる程、唯一無二で必要不可欠な存在となる事を目指した。
国民生活が、少しずつ上向き加減となり、以前よりも、豊かになった国の変化を実感し始めると
国民は
『生きる目的』『働く意義』を自覚し、身を持って労働の意味を、知る事となる。
誰もが、生き生きとした表情で、真剣な表情で、必死な表情で、働いていた。
そして
国家主導の下、国内にいるモノ全てに番号が割り振られ、国が統括管理していた。
国の重要な機関には、自国民しか雇用せず、【研究場所】は極秘とされていた。
【登龍治 才覚】は、元々
政治家でもなく、学者でもなく、元々が根っからの研究者であって
この国始まって以来の技術畑出身であった。
その為
政治に関する知識や経験が、多少足りない部分はあったが、それを補い余りある程非常に理解力に優れ、またバイタリティーに溢れて、就任後はメディアに出る事は少なかったが、彼は国政・国益の為に日々尽力していた。
しかし
そんな彼の内心を誰も気付く事はなく、この【国の変革】も彼にとっては
『世界最大規模となる、永い終わりの見えない生涯を賭けた研究』であった。
この国丸々全てが、彼にとっての実験施設であった。
【登龍治 才覚】を、首相として選任したのは、国家として苦渋の決断だった。
彼は
周りの研究者から、変わり者でマッドサイエンティストだと、囁かれてはいたが、彼の研究熱心な姿、そして非常に理解力が優れている上、語学が堪能で幾つもの言語を話せて、更に話術にも秀でていたので、彼自身の【研究と開発した商品】を、世の中へ送り出す事で、何かしら化学反応が起き、形勢逆転の一手となる事を願い彼にこの国の命運を賭けた。
だが、何はともあれ
就任後は結果として、彼を選任した事が功を奏したか、国家再建のキッカケとなりこの国はまだ世界に存続し、国も国民も経済も、何とか持ち直し始めていた。
彼が首相となってからは
国の統治や行政の大半を自らが委任した大臣に一任しており
彼の存在は
『この国の代表として』、『国民の代表として』
国民生活に根差した研究・開発に尽力する事にあり、政治と環境整備を学び考え、国の地固めを徹底し始めていた。
国民全体へと普及できるように
安定した生産ができる量産工場も建設し、『BK』に関わる法的整備も推し進めた。
海外の国々において、大半の国は
『日本の今後の経過を暫くの間見守る事』に決めていた。
数年は様子見として、彼が開発した商品についても
今は未知の部分がまだ多く、商品の性能や安全性に対しては大いに疑問があった為暫くの間は、国内が落ち着くまで、動静を探る事に決めていた。
しかし中には、水面下で『才覚新首相』との会談の場を設けて
何とか取引をしようと、交渉を求める国があったけれど
『才覚新首相』はキッパリと
「今はまだ国内整備に尽力する時期にあり、全てが手探り状態の若輩であるが故に何か起こった際の責任が取れないので、国外との交渉は考えておらず、国内外が、安定してからでしか、我々は交渉のテーブルに就けない。」との判断して、方々へ理解を求めるように、話して伝えた。
『才覚首相』は
周囲の政府関係者へも
「『BK』に関しては、国内だけに限った販売として、国外との取引はせず、厳しい制限を設けて、国外への一切『BK』の情報が漏れる事がないよう、徹底的な管理を指示し、これは国家共通の方針・見解である。」周知の事実とするよう徹底させて
国外への輸出は
慎重にタイミングを見計らい、国家間の交渉材料としても、最適な判断で世界中へ投入する事を、常に検討していた。
『才覚首相』は就任後、暫くしてから国内外に向け
「我々の『BK』技術を、まだ世界に広めるつもりはない。」と意志表示を明確にしこれを、国の正式な見解とする報道声明をした。
その声明は
世界を騒然とさせ、様々な物議を醸しだした。
「我が国の技術は、全てが国の国益である。
故に、国益に反するモノに対しては、国として断固とした裁きを下す。
これは事前通告である。
これを犯したモノとは、一切の交渉をせず、どんな理由があろうと即座に裁く。
犯すモノは、その命を賭ける覚悟を持って事に臨むべし。」と国内外に対して、強気の姿勢を示した。
首相は敢えて
自らこの国を、過酷な環境に置いた事で、強制的な進歩や変革を促した。
『出来なければやられる。』
常に時代の最先端の技術に囲まれ、周りから技術や命を狙われる場所で過ごし
国民の人間力や人間性を試しながら、根本から底上げし鍛え上げていこうとした。
教育改革のイッカンとして、我々がこの世界で生き残る為
国民に自ら率先して技術を学ばせて、日々技術を磨いていける適切な環境を用意し徹底的な英才教育を施してきた。
「私の好きな四字熟語に、『知略縦横』『機略縦横』という言葉がある。
この世で生き残る為に、常日頃から知略を、機略を、めぐらさないといけない。
考える人類しか生きられないと、私は考えている。
考えなければ、この世の中では生き残れないだろう。」
『自らの価値を、自らの力で見出させ、その手に掴ませる。』
それが
『才覚首相』の教育に対する考え方で、完全なる能力至上主義者であった。
首相は国家予算から
とにかく最先端の技術と環境を、可能性の在るモノへと注ぎ込み
「能ある鷹を見つけ出すか、能ある鷹へ育てる事で
個々の潜在的・先天的な能力や資質又は後天的な能力や資質を伸ばし
育っていく能力を活かし発揮していける場を設けるのが国としての役割である。と周りに常々話していたらしく
更には
「能あるモノが、能力を活かすのは『世界の理』であり、能ある鷹は爪を隠す必要はない。存分に自分が持つ能力を発揮し、能あるモノが国を支えるべきである。
さぁ私と共に、この世の事をこの国の事を、これから考えていこうではないか。
優れた人材と優れた技術、そしてソウゾウこそが
我が国のザイであり、国益となる至宝だ。」と語っていたらしい。
後の成果として
様々な分野で時代の遥か先を行く『革新者』が何人か現れ出した。
そして
彼らもまた、『才覚首相』の思想を受け継ぎ、同じように国を少しずつ変え始める
就任演説後、暫くはやはり
この怪しげで、得体の知れない商品を装着しようとするモノは中々現れず
『首相自身』が、常に人前で『BK』を装着して、政府関係者や公務員から希望者を募り装着させる事で、身を持って安全性を証明していき、少しずつ国民への理解と認知を深めていた。