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ドラゴン未発見事件

作者: 灰梅澄人

 我が校は最強の中学校の汚名に恥じないだけの力を持つ学校だ。とはいえ、最強とは何かという部分をまず整理していないと、話は進まない。この場合の最強と言うのは、当然様々な面でだ。武道系部活動は言うに及ばず、スポーツ系も最強と謳われるし、文化系ですら最強の二文字を持って語られる。更に勉学の面でも最強だ。志望校に受かる率は常に100%に近い。魔法教育も徹底していて、その点でも最強の冠を頂いている。そういう学校だ。

 その中にあっての異端は、当然我らが帰宅部だ。帰宅するのに強い弱いは関係ないし、そもそも正式な部活動ですらない。ただ速攻で帰るだけの我々が、部活に必ず入らないといけないという縛りの中で生み出した、名ばかりの組織だ。だから勉強を家に帰ってするというのでもない。我が校の進学率が100%にならない理由の第一位に上げられるのも、我々帰宅部の面々のせいだ。魔法教育の方は帰宅部内でも好き嫌いで語られるが、勉強をまともにしない我々が魔法教育だけまともに受けるかと言うとそれはないのは、たぶんすぐにお分かりになるだろう。だから、我々帰宅部は学校の鼻つまみ者だ。公然とは非難されないが、それでも影では色々言われている。そんな組織が、帰宅部だ。

 そんな帰宅部の一員であるワタシ、エリージア・パターソンは今日も学校生活を終えて帰宅部活動、つまり帰宅の途に就こうとした矢先、ワタシの友達でクラスメートで、そして同じ帰宅部のマリネス・パツアックがやってきた。

「エリ、今日暇?」

 茶色のくせっ毛を惜しみなく伸ばしっ放しのせいで乱雑といえる髪型で、前髪だけは切り揃えている独特のヘアスタイルで有名のマリネス。こいつは厄介だ。友達をしてそう思わせるのだから大したものである。こいつが「今日暇?」と言う時は大体面倒なことを考えて、ワタシを巻き込もうとしている時だ。

「そういう発言をする時の君とは付き合わない方がいいというのが、最近の事実の蓄積で分かってきた所だから、端的に言うと暇じゃない」

「実はね。最近うちの裏山にドラゴンが居るんじゃないかって噂があってね。咆哮を聞いたとか、飛んでるのを見たとか」

「話聞けよ」

「それでね、それをちょっと確かめてみないといけないな、って思ったんだよ」

「何を思ってるんだよ、君は。というか、そんなのには付き合わないよ。危なっかしい」

「でもさ、おかしいと思わない? うちの裏山みたいに何もないところでにドラゴンなんて」

「そりゃあ……」

 ドラゴンが居る場所というのは古来より深き洞穴の奥や高き山の頂と相場が決まっているが、あの裏山はそれに該当するものではない。小山と言った方がいいレベルであるし浅い洞穴すらも無い。それにドラゴンとは甚だ豪勢な話だ。

「マリネス、君は、それが騙りだと思うのかい?」

 ワタシは問う。マリネスは首を横に振る。

「違うよ。本当だったら面白いなって思うんだよ」

「裏山にドラゴンが居たら、面白いじゃなくて国家的大事件なんだけど」

「はっはっは」

 マリネスは闊達に笑う。「笑顔が魅力的」という評も付く彼女だが、それを言う人の全員が「なんだけどそれ以外は」と言うのだから問題児っぷりが明らかであろう。だから、彼女が闊達に笑う時は大体碌でもない状態なのだ。この時のワタシのように。

「国家的大事件だからこそ、私たちで暴くのが楽しいんじゃないか」

「……」

 ワタシは悩んだ。この話にはビタイチ絡みたくない。のだが、このままではマリネスは一人で行くのも辞さないだろう。そうなって、実際に彼女に何かあったら、どうするのか。それは彼女の責任ではあるのだが、他方でワタシが何もしなかったことを、ワタシはその時どう思うだろうか。この話はこちらにふられた時点で負けなのだと、ワタシは感じる。それが分かっていてふってくる相手ではないのだが、それゆえに彼女は大変迷惑な人なのだ。

「で、どうするの」

「お、乗ってくれるの?」

「乗るというより、君を放っておく方がワタシにはデメリットなんだ。それだけだよ」

 その言葉で、マリネスは大いに喜んだ。それを見て和めるのだから、ワタシはお人好しである。

 

 場面は一転して、件の裏山。

「で、裏山まで来た訳だけど、どうするんだい?」

「ちょっと待って」

 そう言って、マリネスは呪言を唱え始める。そして、すぐに光る魂が生まれる。

「呪力探査の魂だね」

 この世には呪力がある。あまねくそれらを集め、行使することで、我々は呪言魔法を使えるのだ。その呪力の強い所を捜し出すのが、呪力探査の魂である。その力が強ければ強い程、魂は光り輝くと言う寸法だ。ワタシの言葉に、マリネスは首肯。

「ドラゴンは宝物を貯め込むものだけど、その中に呪力のものも含まれていやすいそうだよ。だから、これでそれらしい所を探せば、いるか、あるいは居た痕跡が見つかる可能性が高い、ってわけ」

「成程」

 そこまで聞いて、ワタシは思っていたことを聞くことにした。

「ところで」

「何?」

「なんでエニクルエの奴が一緒に居るわけかな?」

 ワタシが問うと、マリネスの代わりにエニクルエ=ドドが答える。

「なんだよ、面白そうなことに俺が関わるのがそんなにおかしいことかよ。そもそもお前みたいなうらなり眼鏡が、何かあった時にマリネスさんを護れるのかよ」

「うるせえよこのミカン野郎。てめえみたいな猪突猛進馬鹿の方がむしろ危険を呼ぶってのが分からねえのか? 今回のは突っかかるだけ突っかかって逃げるってわけにはいかねえかもしれねえんだぞ?」

「誰が、いつ逃げたんだよ」

「んだと」

 と凄みあっているワタシ達に平等に脇チョップが襲った。

「ぐっ」

「げほ」

 したのは当然。マリネスだ。

「落ち着いてよな、エリもエニも。もしかすると本当に危ないことかもしれないんだから、ここでいがみ合ってたら始まらないよ?」

「「そもそもこいつを連れてくるのが反対だ」」

「相性はいいと思うんだけどなあ」

「「んなわけあるか」」

「まあ、否定するならしてもいいけど。とりあえず、先に向かわないと。いい加減、魂が動きたくてうずうずしてるからね」

「お前が動きたくてうずうず、だろ、マリネスさん」

 エニクルエの言葉にマリネスははっはっはと闊達に笑う。周りの少しうらぶれた山の雰囲気を吹き飛ばすかのようだった。

「さあ、行こう」

 マリネスは歩き出す。ワタシとエニクルエも付き従う。裏山は道なりに進めばわりとすぐに山頂に到達できる。道の別れもない一本道だ。木はうっそうと生え揃っているが、だからと言って爽やかな気を発しているかというとそういうのでもない。この裏山のようにどこか打ち捨てられたものが持つ、侘しい雰囲気を放っている。そんな中を、エニクルエと一緒というのは大変いら立つことだった。彼が来るのであれば、ワタシがここに来る必要はなかったんじゃないか、とすら。

 エニクルエも同じようなことを考えているのかいないのか、ワタシと一瞬目が交錯する。エニクルエの体躯はワタシより遥かに厚みも高さもある。そして基本的に筋肉馬鹿なのを隠すこともしない服装だ。頭髪も真ん中一列だけ残して後は剃っている。見た目が完全にアウトローのそれだ。だから、こいつも帰宅部で、そしてワタシとはそりが合わない。だというのに、たびたびマリネスはワタシとエニクルエを引き合わせる。どういう意図があるのか、そもそも意図があるのかすらいまいち分からない。

 エニクルエについて他に知っていることがあるとすると、それはマリネスに懸想していることだろう。本人は隠しているつもりのようだが、そのマリネスに対する一挙手一投足からバレバレであった。マリネスは知っているのか知らないのかよく分からない。この辺が読めないのも彼女のパーソナリティだ。迷惑だけど。

 それはいい。道を行く。

 道なりに進む、と思った矢先、呪力探査の魂が森の方へと移動方向を変えた。マリネスがそちらにほいほい付いて行く。ワタシ達も付いていく。道が無いかと思ったが、獣道のようなものがそこにはあり、進むのに難儀するとはいえ切り開く必要はなかった。

「獣道があると助かるね」

「獣道にしては広いけどね」

 それはつまり、大きな獣が頻繁に通った後ということにもなりえる。その道を伝って、魂が行く。にわかにドラゴンの居る可能性が高まっているように感じられた。

「ドラゴンか。へへへ」

「なんだ、ミカン野郎。とうとう脳が沸騰したか」

「沸騰ってほどじゃねえが、温まってきたんだよ。頭じゃなく体がな。やる気が入ってきたっていうかな」

「今までやる気なかったのかお前」

「あるなしが二の八って所だったからな。それなりにしか温まってなかったんだが。へへへ、匂うぜ」

 エニクルエには犬人の血が流れている。それが何かを捉えてもおかしくはない。だから聞く。

「何が?」

「うーん、こまっしゃくれた土嚢のような匂いだ」

 そうだった。鼻は効くが頭の配線がおかしかったのだ。聞いただけ無駄だったな。

「マリネス。方向は合ってるんだろうね?」

「合ってるはずだよー。私の探知の精度は良く知ってると思うんだけど?」

「おい、聞いておいて無視するなよこのうらなり眼鏡」

「答えて欲しいなら意味不明の単語で返すの止めろよな、ミカン野郎。なんだこまっしゃくれた土嚢の匂いって」

「そうとしか感じられねえんだからしょうがないだろ。こまっしゃくれた土嚢の匂いったらそうなんだよ」

「まあ、二人ともお熱いじゃれあいはそれくらいにしてね」

「「熱くねえし」」

「はいはい……、おや?」

 突然、マリネスが止まる。見てみると、魂がくるくると前方で旋回している。停滞しているというべきか?

「どうしたんだい?」

「うーん、どうにもここで終点みたいだよ」

「ここで?」

 ワタシは周りを見る。いつの間にか。獣道がかなり開けた所にいた。獣道、というには少し不自然な広さがある。しゃがんで見ればこの空間の端の草や木は焦げている。何かが炎で広げた空間のようだ。とはいえ、それ程大きくは無いし、ここら一帯全部が燃えて火事になるようなことになっている訳でもない。そして、呪力探査の魂がぐるぐるふわふわとしている。

「誰かがここで呪力を使った、という風に見るべきだね」

 そういう僕の結論に、エニクルエがつっけんどんに言ってくる。

「誰がって誰が」

「これだけの情報でそこまで分かる訳ねえだろ、そんなことも気付かんかミカン野郎」

「ああん?」

「喧嘩は無し!」マリネスが僕達を押しとどめながら言う。「誰が、はともかく、ここには何かあると言う風に見るのが妥当だね。わざわざこんな空間を作ってるんだから」

「でも何があるんだ?」

「それは調べてみないと。エリ」

「分かってるよ。土塊人形だろう? ちょっと待ってくれ」

 ワタシは手持ちの鞄から芯を一つ取り出し、詔を唱え、土に埋めた。

「ちょっと下がってて」

 言いながら下がると、ワタシが居た部分が盛り上がり始め、周りの土を巻き込み、そして一つの土塊人形が生まれた。その頭に、マリネスの魂が移動し、張り付く。

「命ず 反応を 掘れ」

 ワタシのコマンドワードに、土塊人形は反応をした。地面を掘り返し始めたのだ。掘り、掘り、掘る。人ならすぐに嫌になる作業も、土塊人形なら文句なくやってくれる。

「相変わらず優秀だね、君の土塊人形は。もうちょっと勉強に身を入れれば、もっとよくなると思うんだけど」

「やめてくれよマリネス。ワタシは誇り高い帰宅部だぞ? それが学校の勉学にいそしむなんて」

「それもそうだね。おっと、どうやら反応してたの掘り起こしたみたいだよ」

 言われて見れば、土塊人形は動きを止めている。その足下に、木箱だ。

「木箱だね」

「木箱だね」

「木箱だ」

 ワタシ達はバカみたいな復唱をする。それだけ違和感があるのだ。それの回答を、マリネスがする。

「……ドラゴンが木箱を埋めるかな?」

「それだね。どう考えてもドラゴンのすることじゃない。誰か、それも人間類の仕業だ」

「……やっぱり、ここじゃねえな」

 エニクルエが突如そんなことを呟く。

「何がここじゃないんだよ、ミカン野郎」

「匂いの元。こまっしゃくれた土嚢の匂いは、もっと先からするんだよ。ここもそれなりに強くはあるがな、どうにもそれだけじゃねえみたいだ。この土との混ざった匂いからすると、まだこういう埋めたのがあるって感じだな」

「でも、呪力反応はここで止まってるよ?」

「つまり、呪力と関係ない物が埋められてることじゃねえかな。何が埋まってるかは分かんねえけど」

 そう言うと、エニクルエは木箱を見る。マリネスも見る。ワタシも見る。

「開けようか。土塊人形で出来る?」

「多分。命ず 四角 開けろ」

 土塊人形が命令に従い、木箱の一面を持ち、引き上げた。

 ワタシ達は中を見る。

 それは一冊の本だった。その意匠からすると、値が張るだろうことはすぐ見てとれる。呪力探査の魂はその周りをくるくると回っていた。ということは、呪力も持っているということだ。そうなれば、値打ちは大変なものになる可能性がある。

「どう思う、マリネス」

 ワタシは、そう問いかける。個人的には、嫌な予感が倍増しているが、マリネスの目はキラキラと輝いているように見える。こういう面倒事に絡むことに関しては天才的なセンスのあるマリネスである。更に嫌な予感が増した。

「これは、案外単純なことかもしれないよ」

「と言うと?」

「私は、この本について知っているんだ」と、マリネス。「これは盗品だね」

「盗品?」

「ああ、もしかして、あれか!」

「エニはちゃんと知っているみたいだね」

「というか、知らない方がどうかって思うぞ。この駄目眼鏡が」

「……」

 知らないのは事実なので、黙してしまうしかない。それに増長してエニクルエのやつが偉そうに言ってくる。

「これはミツトルテン商会から盗まれた、竜吠の書だよ。この間、ニマの遺跡で発掘されたやつだぞ? それは覚えてねえのか?」

「え、あれなの。というか盗まれてたのか!」

「情報に疎いねえ」

「全く。マリネスさんの言う通り」

「待って、ミツトルテン商会はマリネスの家の御用商人だし、エニクルエの親父さんの働いてる所じゃないか。情報の出所に近い人が先に知ってるのは当然じゃないの?」

「で、これどうする?」

「確か盗品は他にも何点かあったよな。同じように埋められてると見て間違いなさそうだな」

「話を聞け」

 ワタシが詰め寄る。マリネスもエニクルエも何でそんなに怒ってるの? という顔つきでムカつく。ワタシはもう一段怒りの度合いを上げて、口を開こうとした、その時。

「あ、お前ら何してる!」

 視界の中に、男が四人現れる。風体は如何にもどこにでもいそうなそれだが、はっきり言って醸し出す雰囲気は裏の世界で生きている者のそれだった。明らかに殺意を感じる。

 その男達に向いて、エニクルエは鼻をくんくんと。

「こまっしゃくれた土嚢の匂い。こいつらだな」

「偶には便利だな、ミカン野郎。もうちょっと早く気付いてくれたらもっと良かったんだが」

「うっせえ。風とかあるんだよ」

「てめえら、無視してんじゃねえよ!」

 雑魚は放っておいてざっと戦力を見る。相手四人の中でヤバそうなのは、地味に影に隠れている一人くらいだ。後は三下。となると。

「どっちがいい?」

「雑魚はお前用だろ、うらなり眼鏡」

「せいぜい負けて泣きべそ噛め」

「じゃあ、私は危なくないように下がってるね」

 マリネスが、じりじりと下がっていく。それに呼応するように、男達三人がじりじりと迫ってくる。距離が詰まる。それを待っていた。

 ワタシは芯を三つ、地面に打ち込む。いつもの土塊人形だ。盛り上がるそれにコマンドワード。

「命ず 前 足 掴め」

 すかさず土の手が男達の足目がけて伸びる。

「うわっ」一人。

「ぐわっ」二人。

「っと、危ねえ!」三人目は回避された。

 それに気を良くした三人目が、目の前の土塊人形を蹴り倒して、ワタシに迫る。

「痛い目見せてやるぜ!」

「そういうのが三下なんだよ」

 ワタシは後ろに下がりながら芯を地面に打つ。土塊人形が生まれ。そこに男の蹴りが当たり、土塊人形は土に戻る。

「やらせねえんだよ!」

「いや、やるね」

 ワタシは既に、男が蹴りを入れる隙に芯を横の木に打ち込んである。コマンドワード。

「命ず 横 薙げ」

 樹木の根が、生き物のように動き、横薙ぎ。ワタシはしゃがんで回避するが、男は予想外の横薙ぎにぶち当たる。

「ぐわあ!」

 加減の無い一撃で、男は沈黙する。こっちはどうにかなったか。エニクルエのミカン野郎は、と思ったら、悲鳴が聞こえた。

「マリネスさん!」

 エニクルエが叫ぶ。どうした、と見れば、あの影に隠れていた男が、マリネスを捕えていた。

「……マリネス」

「ごめーん」

「その本を渡せ。出して、俺に渡すんだ。早くした方がいいぞ。俺はせっかちだからな。この娘に無用な怪我をさせてしまうかもしれないぞ?」

「……」

 言われるままに、ワタシは木箱から本を取りだす。見た目より重い本だった。特殊な技術や呪言が使われているからだろうか。

「早くしろ」

「……」

 エニクルエの顔を見る。悔しそうにしている。それもそうか。いいトコ取られたようなものだものな。

「早くしろ」

 急かす男に向かって、ワタシは本を投げる。

「っと」

 男はその軌道を見て、取ろうと動く。それはつまり、マリネスへの注意が散漫になるということだ。

 それは致命的である。

 マリネスは拘束されていた格好から回転、拘束を弾き、その回転力を生かしてショートフックを男の横っ腹にぶちかました。

「ごっ」

 男は、それだけ言うと轟沈した。あれはあばらが何本かいったな……。

「マリネスさん、いいとこ持ってくないでよー」

「私の所に来る隙を作った君が悪いよ、エニ」

 マリネスはそう言ってはっはっはと笑った。何気に格闘の技術はワタシ達帰宅部の中でも突出しているのが、マリネスなのだ。そのマリネスを捕まえるなんて馬鹿な男だ。ワタシは一人憐れんでいた。


「結局、ドラゴンの噂ってなんだったんだろうね」

 警察に男達と盗品を引き渡した後、ワタシは思い出したように言ってみる。

「あの本の試しでもしたんでしょ」

「竜吠の書の?」

「そうだよ」とマリネス。

「あれは竜の見本が出るって物なんだよ。姿が浮かんだり、鳴き声が出たりするって話だよ。だから、それを見たり聞いたりでドラゴンが出ているのでは、って話になったんじゃないかな。うちの裏山みたいな辺鄙なとこなら、見られないと思って油断があったんだろうね」

「成程ね」

「あー、ちょっと欲求不満だぞ俺」

 エニクルエが、なにやら言っている。

「暴力沙汰大好き人間だもんな、ミカン野郎は」

「持ってる力を正しく使いたい欲求って言え」

「どっちにしろろくでもねえよ」

「喧嘩はやめなよ。それより、礼金を使って何か食べに行かない?」

「いいな、それは。行こうぜ、マリネスさん」

「エリはどう?」

 どうしたものか。このまま帰ってもいいが、タダ飯というのはそれだけで心が躍るものがある。一食浮くのは大きい。芯も大分使ったから、それ用にお金回したいし。

「じゃあ、行くよ」

「決まり! タナアチのとこでいいよね」

「やっぱり定番だよな、こういう場合は」

「タダ飯ならなんでもいい」

 ワタシ達はガツガツ食欲を発露しながら、食堂へと向かって行った。

久しぶりの投稿です。三題噺メーカーのお題に答えようシリーズですな。今回は「本」「ミカン」「最強の中学校」で、ジャンルは「王道ファンタジー」。ファンタジーって感じじゃないですな!

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