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Reinen weißen Schnee  作者:
2/2

Freundliche Eis

「秋穂、これA検に持って行って。」


白衣を着た女性が培養液の入ったシャーレを二つ渡してくる。


「わかりました理子さん。」


白衣の女性、もとい理子さんは俺を軽く一瞥するとまた別の作業に移った。


白衣のよく似合うスレンダーな体型と端正な顔立ちで大変魅力的な女性だと思

うのだが、人を突き放したような態度を誰にでも取るのでこれといって浮いた話は聞いたことがない。


告白はよくされているようなのだが。


松阪理子(21)


このラボ唯一の同居人である。


細菌培養のためのシャーレを『A検』と書かれた紙を貼り付けてあるだけの保温器に放り込む。


「…寒ぅ……。」


白衣の下にかなりの厚着をしてきたにも関わらず、薄着で外の放り出されたような寒さに襲われる。


それもそのはず。細菌が増えると実験結果に支障が出るためこのラボには万年クーラーがかかっているのだ。


真夏ならともかく真冬の今現在、ふと温度計を見てみると室温は氷点下10度を示している。


「そりゃあ寒いわけだよなぁ…。」


「秋穂、おわった?」


廃液の処理をしていた理子さんが顔を上げる。


「はい、無事に終わりましたよ。まぁ保温器に入れるだけなので無事もへったくれもないですけどね。」


「そう……秋穂。」


いつもどおりに返事をするだけかと思いきや理子さんは俺を見たまま首をかしげた。


「?どうしたんですか?」


「冬休みなのになんで大学来てるの。教授からの課題終わってたでしょ。」


珍しく理子さんから話をしてくる。


「理子さんだって課題終わってるのに来てるじゃないですか。」


「私は教授に忙しいから手伝ってくれって頼まれた。」


そういえば近所に新しくスーパー銭湯ができるとかで水質調査の依頼が来てるとかなんとか言ってたような。


「それで、秋穂は?」


「式が夏休みの課題を教授に出しに行くからって連れてこられたんですよ。」


はたして半年遅れの課題を受け取ってもらえるのだろうか…。


「それでなんでここに。」


若干理子さんの声に苛立ちの色が混じってくる。


…今日の理子さんは少しレアかも知れない。


「折角大学まで来たんですし少し覗いてみたら理子さんがいたんで手伝ったんですよ。」


今日の作業はもう終わったのか、部屋のロッカーに向かう理子さんを目で追いながら答える。


「そう。」


興味が無くなったのか元からないのか短く返すと、理子さんはそこでこの話は終わりとばかりに白衣を脱いだ。


そのまま二人でラボを出ると理子さんが再び口を開いた。


…明日は雹が降る降るかもしれない。


「明日からは教授がいるから来なくていい。…私も来ないから。」


それだけ言い残し一人で歩き出した。


俺はそのまま理子さんが廊下の向こうへ消えるまでそのピンと伸びた背を見つめていた。


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