Vorspiel
雪が降っていた。
地方、都市問わずに延々と降り積もる純白。
地球温暖化とは一体何だったのかというほどの極寒と豪雪。
まだ暗い市内の様子をリポートするフードをかぶった女性の頭には、そう長い時間降雪に晒されていたわけではなさそうなのにかなりの量の雪が積もっていた。
「えーこのような大雪は都内では観測史上最大の記録となり・・・・。」
テレビの画面は現地からの中継からスタジオでの解説に移り、評論家を名乗るややハゲたおっさんが小難しい顔をしながら、少し調べればわかるような中身のない解説をしている。
「ふぅ・・・。」
真冬の、それも早朝にも関わらずに暖房の入っていない部屋で両手をこすり合わせ、息を吹きかける。
分厚い雲と延々と降る雪のせいか、いつもならうっすらと夜が明けてくるこの時間になっても外は真っ暗だった。
「・・んっ・・・・。」
テレビの光のみで照らされる薄暗い部屋。
その仄かな灯りと昨夜の自分の記憶を頼りに机の上の煙草に手を伸ばす。
無事にボックス入りの煙草とコンビニの100円ライターを手に取り、寒さで震える指で火を付ける。
薄闇に灯る小さな火。
残り少ないオイルを燃やして光るその火に不思議と温かみは感じなかった。
煙を肺までまわさず、ぼーっとふかしているだけで、モヤがかかっていたような頭の中が少しづつクリアになっていく。
半分ほどふかしたところで灰皿の砂の中に煙草を突っ込む。
そのまま上半身だけを伸ばし、震える指で石油ストーブの電源ボタンを押す。
ピッ・・ガタン・・ピーッピーッピーッ・・・・。
エラー・・・灯油を切らしていたようだ・・・。
「はぁ・・・。」
ため息をついてテレビに向き直るが、朝のニュースは大雪の話題から政治の話へとシフトしていた。
これまた得意顔の評論家様がご高説をたれているニュース番組に辟易して、テレビの電源を落とし、そのまま仰向けに倒れ込み呟いた。
「・・・寒い・・・・。」
長かった夜はようやく白々と明けようとしていた。