僕はリア充
僕はリア充だ。
髪の毛も茶色く染めたし、メガネからコンタクトレンズに変えた。
部屋にアロマセットも置いてあるし、ベッドはセミダブルだ。
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僕はその人と、最寄り駅で出会った。
大学の講義を終えて、帰宅する途中だった。
僕が休憩室で電車が来るのを待っていると、綺麗な黒い長髪が印象的な女性が僕の隣に座った。
その人がとても美人だったので、僕はいつ話しかけようかとずっと考えていた。
僕はリア充だから、いろいろな女性に声をかける。
「学生さんですか?」
女の人が、話しかけてきた。
リア充の僕にはよくあることだ。
やはり、いい男のオーラがにじみ出てしまっているんだろう。
僕はリア充だから。
「は、はい」
僕はあえて、返事をどもらせた。
このリア充っぽい容姿なのに、内気な少年、という印象を与えたかったからだ。
「お勉強、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
完璧なやりとりだったと思った。
特に最後にお礼を言ったあとの陽気そうな笑顔は最高だったはずだ。
『まもなく、2番のりばに、列車が参ります。危ないですから……』
僕が乗るべき電車が来たようだったが、気分が乗ってきた僕は、会話を続行することにした。
「あなたも学生さんですか?」
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「へぇ、そうなんですか。だったらぜひ今度、僕と一緒に行きましょうよ」
結局終電も逃してしまった。
女性との会話に夢中で終電に乗り損ねることはよくある。
「お客さん、そろそろ駅を閉めますので、そろそろお引取りをお願いします」
「あ、すみません。すぐ出ます」
駅員さんは、駅員室へ帰っていった。
僕は椅子から立ち上がった。
「それじゃ、また会えるといいですね」
僕は誰もいない休憩室の中にそう言った。
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僕はリア充。
周りの人には見えないみたいだけど、彼女がたくさんいる。