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純・愛 〜pure love〜  作者: 黒羽 星
2/2

》睦月《

 輝やく(じゅん)

 淡き光に導かる

 運命の人

 今何処(いづこ)



京の都、八条殿(はちじょうでん)に、一人の若き男子(おのこ)

名を『源純(みなもとのあや)』といい、皆、純君(あやぎみ)とお呼びします。


左大臣の祖父、大納言の父を持ち、見目麗しく、聡明で…。

そして何と言ってもその名のとおり、純心で優しい若君でございます。

この純君、現在、頭中将(とうのちゅうじょう)として宮仕えしておられます。

つまり、蔵人所(天皇の勅旨や上奏を伝達する)の責任者であり、近衛府(天皇や皇太子の警備をする)の中将をも兼任されているのでございます。


そして純君の隣におられるのは、真空君(みそらぎみ)紫苑君(しおんぎみ)でございます。


真空君は、先の右大臣菅原道真公の孫にあたられます。無鉄砲であどけなさの残る方。

純君と同じ近衛府で少将として宮仕えしておられます。


そして、もうお一人。

物静かで、純君と真空君にとっては兄のような存在の紫苑君でございます。

橘家の御子息で、参議として宮仕えしておられます。三位宰相(さんみのさいしょう)とも呼ばれ、太政官での政治に参加されております。


今日、ここ内裏の紫宸殿(ししんでん)では“元日節会《がんじつのせちえ》”が行われております。

           *元日節会:元日を祝い、天皇が紫宸殿におでましになり群臣に宴を賜う儀式

お三人もこの元日節会に招かれご出席なさっております。


「皆、良い顔をしているね。年が明けただけで、心が晴れやかになるのは何故だろう…」

と純君。すかさず真空君が、

「何て呑気なことを!何故、我々は元日から内裏に来ているんだ!今日ばかりはゆるりと過ごしたいじゃないか!」

と純君に苛立ちをぶつけておられます。

すると紫苑君、

「そう言うな、真空。我々も身分ある身なのだから。それに、ほら、あれを見てごらん」

と。

この会話でも皆様おわかりいただけましたでしょう?このお三方、本にご兄弟のようでございます。

その長男、紫苑君の指さす先には内裏の女房達が、三人の参内の噂を聞き付け、集まり騒いでおります。

そう、この三人、都で評判の美男子なのでございます。家柄も良いですしね…。


「あぁ、そうだな…。う~ん、今日はどこの女房に(ふみ)を送ろうか…?」

とウインクを飛ばす真空君。女房達の黄色い悲鳴が聞こえて参ります。もちろん真空君の『文』と言えば、『恋文(こいぶみ)』でございますので、恋多き男君なのでございます。


「おいおいおい、真空は相変わらずだな〜。この前の女房はどうした?」

「…決めた!今日は藤壷の女房に文を送ろう!あそこの女房はいい、後味すっきり!じゃ、お先に〜、お二人さんはつつがなく職務を遂行されますように!」

「ちょっと、真空!人の話は全く聞いてないな…」

「純、諦めなさい。真空が人の話を聞いたところなんて見た事が無いよ。もう、仕様がないのさ」

「紫苑は、いつも母上の様だ。わかってるよ、真空が人の話を聞かないのは。だからだよ!この前、真空のやつ、私の名前を使って桐壺の女房に文を送ったんだ。その後の、宮中での私の立場は…、私の…」

「落ち着け純、あの女房は最悪だったな。なぜ口の軽い桐壺の女房なんかに惹かれるのか、私にもわからないけど……。それにしても、お前も、女遊びの一つや二つしてみたらどうなんだ?」

「ななな、何を言ってるんだ。そんなの簡単にできるわけないだろう。この世には、『運命』というものがあって、…」

「はいはい出ました、純の『運命』の人!そんな人が世の中にいるのなら、出会ってみたいものだな」

「いるさ!必ずいる!美しくて、綺麗で、お淑やかで、可愛らしくて、素直で、純真で…」

「はははは、そんな女子がいたら紹介してもらいたいもんだ。現実を見ろよ。近くに女遊びしてる真空の周りに集まる女に、そんな女いないだろ?」

「それは、真空のは遊びで…、だから…」

「遊びにしても、女子との付き合い方を知らなければ、『運命』の人と出会った時どうするんだ?」

「その時はその時だよ。もう、私は行く!真空に言われたとおり職務を遂行してくる!じゃあ!」

「おっと、また怒らせてしまったな…」

「紫苑君、また純君を怒らせてしまったのですね。まあ、いつものことですが」

紫苑君が振り返られると、そこには下鴨神社の宮司が立っておられました。


「これは、宮司様。恥ずかしいところを見られてしまいました。」

「いやいや、相も変わらず仲の良いことで、なによりなにより。それにしても、純君は一度は恋愛して色恋沙汰を学んでもよさそうですな」

「おっしゃるとおり。あの初心な純が、初めて床を交わすのが正妻になることを考えると、先が思いやられます。少しでも男女の生業を知っておいてもよいと思うのですが…」

「そうかもしれませんな。あの、純君なら。まあ、常々純君がおっしゃってる『運命』の人が早く現れるとよろしいですな」

「そうですね。その人が、良い人であればいいのですが…」

「まあまあ、ここで何を言っても、神のみぞ知ることですからな。その時を待つしかありませんな」

「その時を待つ…」

「はい、その時がきたら、紫苑君、貴方様がお助けしてあげなさいまし」

「わかりました。そう致します」


清々しい空の気配は、時が移り変わるにつれ、あっと言う間に禍々しき風にのまれております。

何が、この先に待っているのか…


》如月《 へ続く



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