一撃
さてと……、まずはどうやって小さな白いモフモフから十眠熊を引き離すかだ。
幸いと言って良いのか、十眠熊はそこまで腹が減っていないのか、いきなり襲い掛かろうとはしていない。
それに加えて小さな白いモフモフが、自棄を起こして十眠熊に攻撃をしていないこともギリギリ場を保たせている。
十眠熊に遭遇して餌認識された時点で運が悪いが、まだ十眠熊が腹ペコじゃなかっただけ運が良い。
だからと言って下手に逃げると追いかけっこになる。
そうなると明らかに体力の無い小さい白いモフモフは、直ぐに捕まり美味しく頂かれてしまうだろう。
だがそんなことは許さん!
あの、ちっこくて白くてフワフワのモフモフのまんまるでモフモフの毛玉ちゃんがこの世界から居なくなるなどと、そんな世界的損失を黙って見過ごす訳にはいかん!!
十眠熊の視界に入ると動けなくなるので、遠くなりすぎない距離で十眠熊の後ろにまわる。
いざとなったら十眠熊に一撃不意打ちをして、小さい白いモフモフを連れて全力離脱を考えなければならない。
今のこの体でどこまでやれるか分からないが、見捨てる選択肢がない以上やるしかない。
無理をすれば平常時と同じくらいに動けるだろうけど、どれほど動けるか分からないから出来るなら逃げるのに力を使いたい。
何か……、何か十眠熊の気を引けることはないかーー
『グギャオォオォォォ!!』
!? ……っなんだ!? 今のは!?
今の叫び声ーーと言うより鳴き声はなんだ? さほど近くなく、かと言ってそれほど遠くもない距離から聞こえてきたが……
『グルアァ!?』
『キュッ!? キュイ!? キュイアァ?!!(なっ!? なに!? なんなの?!!)』
……ハッ! そうだ、小さな白いモフモフを助けなければ!!
今さっき響いたナニモノかの鳴き声で、十眠熊が若干狼狽えている。
チャンスは今しかない。
殺られる前に殺れだ!
そもさん!!
身を隠していた森の茂みから音を発てない様に出て、十眠熊の背後目掛けて全力で走る。
十眠熊はまだ困惑から立ち直っていない、軋む体を無理矢理動かし、十眠熊に走りよる。
…………あと五メートル。
…………四メートル。
…………三メートル。
…………ニメートーー
『グアァ?!』
チッ!? 気付かれた! だがここまで来たら後ろに退けん! やってやる! やってやるぞ!!
十眠熊との距離を一メートル弱まで詰め、勢いをそのままに急ブレーキを掛ける。
全力で走った勢いを利用した反動で体に力をーー主に後ろ足に八、前足に一、全体に一の力を溜め。
十眠熊の顔目掛けて地面を蹴りつけて跳び掛かる。
「クキュッ! クキュキュゥゥゥ!!(とんっ! でけえぇぇぇ!!)」
全力で走った反動で跳び出し、一つの砲弾に為って飛んでいき。
ズチュッ!
『グルアァアアァァァ!?』
十眠熊の顔ーー目に額の角が刺さり、十眠熊に自分が与えうる最大のダメージを与えることに成功する。
「クキュキュクキュキュキュッ! クキュキュクキュキュッ!!(そこの白いの! 早く逃げろ!!)」
次から次に起こる事態に付いて行けていないのか、状況が判らず呆けている白いモフモフに大声で怒鳴りつける。
『キュァッ!? キュッ? キュアァッ?!(ふぇっ!? えっ? はいぃ?!)』
十眠熊の顔に一撃を入れ、地面に落ちるまで小さな白いモフモフが逃げて行くのを見る。
うっし! あとは全力で逃げるだけーー
そう思い、地面に着地した瞬間ーー
片目を潰され激怒した十眠熊が、ふり返り様に右腕による薙ぎ払いを放ってきてーー
その右腕による薙ぎ払いがーー
着地した直後にーー
角兎の体をーー
薙ぎ払った