茶色いのと、白いの
「クッキュ~……(いてて……)」
ゴブリン共を殺った後、本来の目的であるモフモフを探す為に、当初予定していた方向に向かって旅を続ける。
あ~……しんどい、体のあちこちがピシピシする……。
動けん程じゃないが、どっかで一度休憩をとっときたいな。
もし今、肉食系の動物や魔物に出会したら、かなりヤバイ、高確率で死ねるな。
しばらく森の中を一定方向に歩いていると、水の匂いがしてきた。
近くに水場があるらしい、そこで一休みするか。
水の匂いが強い方に向かって進む。
十分ほどーーこの世界に時計が在るかは分からないが、前世の体感的なもので大体ーー匂いのする方に進むと、地面が水分の多い湿った地面になってきた。
そこから更に十分ほど進むと、生い茂る木々のすき間から森の切れ間が見える。
目の前の森が十数メートル先で木が無くなり、森の中に開けた場所が出来ている様だ。
水の流れる音が聴こえないことから、水場は川ではないのかもしれない。
「クッキュキュキュキュキュ~(やっと休める)」
軋む体を動かして、十数メートル先の水場を目指す。
木々を避けながら進んでいくと、木々の間から泉があるのが見えた。
「クキューッ、クキュキュッ(おぉー、水や)」
木々避けて進む。
「クキュキュッキュッ(あとちょっと)」
木々避けて進み。
水場に出た。
「クッキュ~ッ!(みっず~!)」
気分は上々、エンジン全開!
『ググルルル!!』
息が止まった。
目の前二十メートルほど先に、唸る茶色い大きなモフモフの塊があった。
全力後退!!
茶色いモフモフの塊はまだこっちに気付いてない。ゆっくり、でも全力で後ろ向きに(でも心はモフモフに夢中)森の中に戻る。
音を発てないように森の中に戻ると、木の陰に隠れる。
呼吸を再開する。
…………っふーーーっ、……っ……ふぅ~……!やっべーよ!危うく死ぬとこだったよ!(前世の二の舞的な意味で)
木の陰で冷や汗を流して心の中で叫ぶ。
なんだってこんな時に、こんな場所にアレが居るんだよ!
水場に居た茶色いモフモフの塊。
アレーー体長二メートルくらいの四足歩行で、胴まわりが大人の人間二人でようやく抱えられるくらいの大きさ。体毛は茶色のフサフサでモフモフ、大きい体の割りに握り拳だいのフワフワの小さな尻尾、肉食獣の牙に爪、つぶらな瞳にモコモコの耳、そしてフサフサモフモフの毛(重要だから二回言った!)。
そう、所謂熊である。種族名は十眠熊と言うらしく、聞いた話じゃ一年の内十ヶ月近く(この世界で一年が何ヵ月かは知らんが)巣穴の中で眠っている熊である。
性格は基本穏やか、睡眠時や空腹時、食事時(食事中)にちょっかいを掛けると怒りをかう。
平時にもし十眠熊に目を付けられたら(食料的な意味で)、全力で逃走する。
それがこの森の生き物ーー食物連鎖の下位に位置するモノ達の共通認識だ。
今の俺じゃ、全力を出しても逃げられん。
十眠熊に気付かれる前に、出来るだけ早くここから離れなければ。
木の陰から体を離し、音を発てずにその場を後にするーーーーーーはずだった。
『グルルルルゥゥ!』
十眠熊が低く唸り。
『キュアァッ!?(ひやぁっ!?)』
十眠熊のそれとは明らかに異なる、小さな悲鳴が聴こえた。
木の陰から声のした方を覗くと、茶色いモフモフの塊の陰に隠れて見辛いが、茶色いモフモフの数メートル先に、小さい白くてプルプル震えているモフモフが居た。
な……に……っ?!モフモフが二匹……だと……っ!!
どうやら小さく白いモフモフは、大きい茶色いモフモフに怯えて動けないようだ。
くっ……!?ここからじゃ小さく白いモフモフがよく見えないじゃないか!?
小さく白いモフモフをよく見るために、動かない二匹を横目に、水場を迂回する形で木々の間を通り抜け、音を発てない様に二匹の横まで回り込む。
二匹に気付かれない様に、木々のすき間から小さく白いモフモフを覗き見る。
……!?なっ……、なっ!なんじゃありゃあぁああぁーー!!モッフモフやないかあぁああぁあぁぁーーーーーー!!!!!!
小さく白いモフモフを見た瞬間、体に電撃が走り心の中で叫んだ。
しっ……白いモフモフ、白いモフモフが!?モフモフが!?
そう、小さく白いモフモフは、正真正銘、見まごうことなきモッフモフのモフモフだった。
どうモフモフなのかと言うと、毛玉。
この一言に尽きる。
真っ白い毛が、頭から足が全部隠れるほど長い。
そして外見がメッチャまんまる。
バスケットボール大のモッフモフの毛玉。
まるで特大の雪〇大福。
『グルルゥ』
『キュイァ!?(いやぁ!?)』
真っ白いモフモフの毛玉がプルプル震えてる。
おぉ!まさしくアレが、探し求めていたモフモフに違いないモフ!
モフモフよ、今助けるぞ!
戦闘開始だ!