☆特別編(2の2) クリスマス・イヴ
まあ、どこのご家庭でも クリスマス・イヴとかは知っておられるだろうし、やられる行事であろう。父さんや母さんにすれば、正月へと続く臨時出費の嫌な季節の始まりなのかも知れない。じいちゃんには余り関係ないようだが、僕、いや僕と愛奈にとっては絶好のシーズンが到来したと言えよう。で、今年の我が家がどんな クリスマス・イヴ模様だったか…について、少し語りたいと思う。えっ?! 語って貰いたくないって? そこはそれ、我慢してお聞き願いたいと思う。
「ほら愛奈! おじいちゃまからよ」
母さんが、照れて差し出したじいちゃんの縫いぐるみ人形を愛奈に手渡した。愛奈は手にしたが、微笑むだけで、バブバブだ。詳しく言えば、気にいったのか、そうでないのかが、まったく判明しないのである。愛奈語で何やら訴えておられるが、聞く者をして理解させるまでには至らない。それでも、家中を和ませる不思議な光を放っておられ、僕はお見事! と思った。じいちゃんの照かる丸禿げ頭は目に見える光線を放出するが、愛奈の場合はオーラなのである。
ワイワイガヤガヤ[愛奈の場合はバブバブ]とケーキ、母さんの手料理で家族五人が浮かれ、一時間半ばかりでお開き[散会]となった。タマやポチも特別食で満足だったろう。じいちゃん、父さんの二人は、すっかり出来上り、酔いの回った赤ら顔でフラフラと縁側廊下に座り込んだ。この先の展開がどうなるか…は、愛読者の皆さんなら、よくご存じだろう。事実、二人は会話することなく、決められた作業のように将棋盤へ駒を並べ始めたのである。
「正也! すまんが、音楽を止めてくれ」
父さんがお酒の勢いを借り、彼にしては幾らか偉そうに僕に命じた。 クリスマスの雰囲気を盛り上げるため、彼はCDレコーダーでクリスマス・ソングの軽音楽を流していたのだ。こういう細かな演出は、さすが宴会部長だけのことはある…と思えた。
「うんっ!」
可愛い返事を一つして、僕は椅子を立つとCDレコーダーをオフにした。母さんは愛奈を乳幼児ベッドへ入れ、後片づけを始めた。
「正也! 愛奈を頼むわ」
「うんっ!」
また可愛く返したがどう頼まれていいのかが分からない。しかし、見張り番は、すでにやっていたから、見張ってりゃいいんだろう…とは思えた。ところが、そんな僕の思惑は徒労に帰し、彼女はもう、スヤスヤと寝息を立てているのだった。和みのオーラを放ち過ぎ、彼女は彼女なりに疲れたのだろう…と僕には思えた。タマとポチは満腹感で同じくスヤスヤだ。じいちゃんと父さんは将棋の駒をパチパチで、母さんはキッチンでカチャカチャと片づけている。僕もムニャムニャと眠くなり、子供部屋へ引き上げようとした。
「正也! 歯を磨くのよっ!」
やはり、来たか…と思えたが、「は~い!」と、母さんが投げた小柄を無刀取りで払い落とし、僕は子供部屋へと撤収した。いい クリスマス・イヴだ…と、また思えた。欲しかったラジコンが入手できたからだ。僕も現金なもんだ…とまた思え、反省した。




