☆第十五話 カルタ大会
我が家で恒例の百人一首カルタ大会が開かれたのは正月二日の午前十時~だった。これは誰が言って決めたという行事ではなく、遥か昔のlong,long time ago、じいちゃんが若かった時代から湧水家に受け継がれてきた伝統行事である。だから、体育会系で肉食男子のじいちゃんも事、カルタに関しては熟知していた。文科系で草食男子の父さんは当然、得意とするところで、我が意を得たりとばかりにガッツをだした。僕も知らぬ間に奮起するようになり、百枚の札のうち、ほとんどを詠めるまでになっていた。ただ、叔母さんが従兄弟と来たときは絵札のみの坊主めくりへと変化した。もちろん、従兄弟と二人きりのときだけだったが…。
好きな札は、むらさめのぉ~~の寂蓮法師さんの作だ。じいちゃんが同じ坊主頭だから好きだ、ということではない。霧たちのぼるぅ~秋の夕暮れぇ~…この下の句のなんと雅な自然描写なことか。言っておくが、じいちゃんの場合は坊主頭なのではなく丸禿頭なのである。年季が入った照かる頭で、違いは歴然としたものだ。
大会には母さんも加わったが、詠み人役で、選手は三代の男子三名だった。佳境に入ったところで愛奈が泣き始め、大会は一端、順延となった。詠み人がいなければ札の取りようがなく、お手上げだ。ちょっと疲れたところだったので、三人には、いい頃合いの休憩となった。
「なかなか、やるな…」
「いや、父さんも…」
じいちゃんと父さんは互いの健闘を称え合ったが、取り札は僕が一番、多かった。学校で選手に選ばれた僕だから、当然といえば当然だった。これは決して自慢などではなく、クラスは二位だったのだからなるほどだ。賢明な母さんの優性遺伝子を引き継いだからに違いなかった。父さんの…まあ、それは言うまい。
三人で餅を焼いて食べているところへ愛奈をあやし終えた母さんが戻ってきた。しばらくは母さんも寛ぎ、ふたたび大会は再開されたが、すでに勝負あり! で、二位を父さんとじいちゃんが競うという構図だった。
昼を少し回った頃、大会は無事、閉幕した。
「正也は、さすがだな。わしの孫だけのことはある!」
「そうですね…」
お二人にお褒めの言葉を頂戴し、悪い気分はしなかったが、その実、どうでもよかった。気分はタマやポチと一緒で、寝ていた。
第十五話 完




