☆第十四話 明るい
愛奈が迎える初めてのお正月が巡ってきた。例年になく皆、ルンルン気分で、動きも、どことなく華やいでいるように僕には見えた。こう言う僕自身がルンルン! なのだから、余計にそう見えたのかも知れないのだが…。
お正月の準備は、とり分けて外見上の変化があった訳でもなく、愛奈が生まれていなかった去年と気分以外は同じだった。
「正也、その裏白をこっちへ!」
数日前、僕が山で採ってきた裏白は約30枚ばかりだったが、洗い場の湧き水に浸けてあった。それを水切りして拭き、じいちゃんに渡した。じいちゃんは手馴れた仕草で注連縄に付けて飾った。愛奈独特の△※?◎□…という乳幼児語が、母さんのあやし言葉に混ざって時折り聞こえた。聞こえるだけで、なぜか場が和み、明るくなる。それがじいちゃんの手元にも伝わって楽しげだ。彼女の声には我が家を明るくする目に見えない癒し効果があるようだ。
「ごくろうさまです…」
しばらくして、母さんがお茶を淹れて持ってきた。僕は目敏くお茶菓子を窺った。
「今年は愛奈がいますから、賑やかな正月でしょうな」
「そうですわね、ほほほ…」
今年ではなく正確には来年の…だが、じいちゃんの威厳の前には、そういう細々(こまごま)とした誤りは影を潜め、どこかへ吹き飛ぶ。母さんの、ほほほ…はPTA副会長に就任されてから多用される節がなくもない…と思いながら僕は聞いていた。今や、偉いお人なのだ。
「私に出来ることがあれば…」
父さんが大かた出来上ったのを見計らったように書斎から現れた。じいちゃんはチラッ! と父さんを一瞥した。
「もう、終わったわい…」
愛奈効果のせいか、いつもより声が小さい。遠雷だな…と僕はニタリとした。とすれば、落雷の避雷針効果も愛奈にはあることになり、益々、明るい日常が期待される。
ひと通りの飾りつけが終わると、家の中は俄かに正月気分が溢れてきた。母さんの手料理も整い、いよいよお正月を待つだけとなった。美味しい料理に諸収入による財源の増加、独楽回しなど…の楽しみで心がうち震える。…とは、少し言い過ぎだが…。まったく他人事のようにタマは毛並みを動かして眠り、ポチは欠伸をして眺めていた。
第十四話 完




