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☆第十三話 離乳食

 すべてに初期、中期、後期とかがある。じいちゃんは恐れ多くも後期高齢者である。…とは、テレビで流れていた偉いお方の言葉だが…。愛奈まなも母乳一辺倒から、今や固めの離乳食を食べられるまでになった。大したものだ。…まあ、僕を含む誰もがその道を辿ってきた訳だが…。

 雪がすっかり消え、そろそろ春が…と思っていたら、また寒波が来襲し、気温は観測史上、最低を記録した。父さんは、ガタガタ震えながら仕方なく出勤していった。哀れな後ろ姿は、見る者をして涙させずにはおかないだろう…と僕には思えた。

「あいつは、まあ、アレだけのものだ…」

 あきらめともつかぬ言葉をじいちゃんが僕の横でらした。後期か…と思った。愛奈の場合は同じ後期でも皆の仲間入りをして食べられるという初期へ変わるんだからいい。時折り、生えた歯が気持悪いのか、ぺチャぺチャと口を動かして笑う。美人だし可愛い。母さん似でよかったよかった…と僕も笑い返すと、母さんが呼んだ。

「正也! 何してるの? 遅刻するわよ!」

 しまった! もうそんな時間か…と、急いで家を出た。つい先ほどまで横にいたじいちゃんが、もう庭掃除をしている。頭は相変わらずの照かりようで結構なことだ。

 その夜は久しぶりに全員の大笑いとなった。もちろん愛奈は特別ゲスト程度だったが…。

「もう、固めのものもモグモグやりますのよ。まだ、ミルクも飲ませてますが…」

「ほう、そうですか。それはそれは…」

 どうも、じいちゃんと母さんの会話は他所よそ行きだ。

「もう、母乳はいらないですしね」

「お前が言うな!」

 父さんは黙ってりゃよかったと小さくなった。救いは、そう言ったじいちゃんが笑顔だったことくらいだろう。

「この前まで重湯おもゆみたいだったのにね」

「そうそう、そうらしいな…」

 僕が言うと一も二もない。よく知らないくせに、じいちゃんが合いの手を入れる。貴重な、ただ一人の弟子だから、可愛く、大事にしたいのだろうか…と思えた。そんなことも知らぬげに、母さんに抱かれて今し方まで笑っていた愛奈は、もうスヤスヤと深い眠りについていた。これだけにぎやかなのに…と思えば、なかなかあなどれない。

                   第十三話 完

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