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☆第十二話 かまくら

「こりゃ無理だっ! 正也、今朝の稽古は雪掻きだな、ははは…」

 じいちゃんは窓ガラスから庭を見回して僕に言った。近年にはないドカ雪で、約40㎝は積もったろう…と思えた。当然、外での早朝寒稽古は無理で、じいちゃんの離れにある道場で竹刀の素振りを軽くして身を温めた。さて! とばかりに意気込んで、剣道を雪掻き作業へと切り変えた。しばらく雪を掻いていると、じいちゃんが手を止めた。

「どうだ、正也…かまくら、でも作らんか。めしのあとでな」

「うん!」 

 学校へ行くならともかく、冬休みでは師匠に断る正当な理由が見つからない。まあ、少々のことなら、どちらにしても、じいちゃんの威厳の前にひれ伏すしかなかったのだが…。そんなことで、朝ご飯のあと、かまくらを作る話がまとまった。とはいえ、かまくら作りのイメージが僕には全然、浮かばなかったのである。

「ああ、かまくらですか…。懐かしいですね。私も作った記憶があります」

「そうか? お前は本ばかり読んどったぞ…」

「ははは…学校の話ですよ。確か、小学校五、六年でしたね」

「確かにしては曖昧あいまいだな」

「はあ、なにせ子供の頃の話ですから」

「それは、まあな…」

 父さんとじいちゃんの食後の話である。愛奈まなも雪明りのためか、いつもよりテンション高めで、バブバブとやっている。母さんは、「買物に出られやしない…」と幾らか不満げに愚痴る。それを聞かぬ耳で、父さんは新聞を手にし、茶を啜る。で、その三人を横目に、じいちゃんと僕は勇ましく出陣した。

 通り道は雪が掻いてあるから、スンナリと移動でき、庭へと回る。新雪を丸めて次第に大きくしていくじいちゃんに続き、僕も真似まねて大きくする。ほどよいところで固め、それを内側へ少しずつ傾けながら曲線状に積み上げていく。ついに最上部をじいちゃんがせばめ、屋根がふさがった。大きさは、じいちゃんには少し小さめだったが、僕には、ちょうどいい具合だった。かまくらの中は薄暗かったが、嘘のように暖かかった。

「北国では、夜に灯りをつけて神様を祭るそうだ…」

「そうなの?」

 真っ白の自然の中で、しばし、じいちゃんと俗界を離れた。その夜、タマとポチを中へ招待した。寒がりのタマは迷惑顔だったが、ポチは、なんか嬉しそうだった。

                   第十二話 完

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