序章
「団長、行ってきます」
「行ってきます」
クロの後を追いかけるオクトを見送って、俺は少し感慨深くなった。
ついこの間まで喋る事も歩く事もままならなかったのに、子供の成長は早いものだ。オクトはいくつもの種族の血が混じった、混ぜモノという存在だからか不思議な成長の仕方をしている。しかし俺にとって可愛い子供には変わらない。
「この間生まれたばかりだと思ってたのになぁ」
オクトがこの一座で生まれてからおおよそ5年の歳月が流れているが、もうそんなに経ったのかという気持ちだ。もう少ししたら、俺の子供もこの一座に加わって旅を始める事になるので、さらに賑やかになるだろう。
それにしてもオクトは父親似なのか、日に日にしっかりしていく。いつまでも子供っぽかった、オクトの母親とは大違いだ。もしかしたら反面教師になったのかもしれないが、オクトがどれぐらい母親の事を覚えているのかは分からない。
オクトの母親――ノエルは、ある日突然消えてしまったのだ。まさに煙のようにと唐突に。ノエルが消えるところを見ていたのは、オクトだけなので実際そこで何が起こったのかは分からない。もしかしたら、ある日突然ひょっこり戻ってくるかもしれない。
でもノエルの消えた日のオクトの泣き方は尋常ではなかったし、俺も心のどこかで、ノエルは世界に溶けてしまったのだろうと思っている。そうでなければ、ノエルがオクトを1人残して行くはずがない。
「ノエルか……」
もしも生きていたら、ノエルはきっとオクトの成長を喜んだだろう。まだ子供なのに、すでにノエルより器用だという事は判明している。娘に追い越されてギャーギャー騒ぎながら、それでも笑っている少女のような女が思い浮かび俺はふっと笑った。
生きている間に墓を作られるわ、聖女としてあがめられるわ、でも中身はてんで子供だわ、それなのに混ぜモノの子供を産むわと波乱万丈な人生だった女。世間一般では、きっと可哀そうにと憐れまれるような人生な気がする。
それでも、きっと彼女は後悔はしていないだろうと俺はなんとなく思った。




