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第三話 ネオゴーレム

「なん・・・ですか?これ・・・・」



―――――案内された薄暗い倉庫のような所で、2人は唖然として目の前にあるものを見上げていた。


「これが私のとっておきです。」


ノエルが楽しげに言った。

―――――そこにあったのは、ロボットのような巨大な機械だった。

見たこともない金属で作られているそれは、頭、胴体、手足、すべてにおいて巨大である。その足で小さな家が踏み潰せそうだ。

言葉も出ない2人に、ノエルが説明する。


「これはネオゴーレムといって、ゴーレムのオリジンプレートを基に私が作った機械なんです。進化したゴーレム、とでも言っておきましょうか。」

「ゴーレム・・・ってなんです?」

「おや、ゴーレムを知らないんですか?」


ノエルが驚いたような顔をした。


「街で見たでしょう?石でできたロボットのようなもの」


その言葉に、2人は街中で突如2人を襲ってきた巨体のことを思い出す。


「あれがゴーレム?」

「えぇ。そうですよ」


すると、フィラが怪訝な顔をして口を開く。


「ゴーレムって、一体なんなんだ?いきなり俺達に襲い掛かってきて・・・・訳わかんねぇよ」


フィラが言った言葉に、ノエルは目を細めた。


「・・・そうですねぇ。少しゴーレムについて説明しましょうか」


そう言って、ノエルは話を続ける。


「ゴーレムというのは、元々国や街の警備などを目的に作られた機械です。オリジンプレートで動いています。ですが・・・」


ノエルは言い掛けて、視線を2人に移した。


「なぜかそのゴーレムたちが、人間を襲い始めた。」

「・・・どうして?」

「原因は分かりません。学者達の話では、オリジンプレートに異常が発生した、とは言われているんですがね。詳しい所は謎のままです」


すると、彼はポケットから1枚のオリジンプレートを取り出す。


「暴走を続けるゴーレム達に、警察だけでは手に負えなくなった。そこで私達トランセクターと呼ばれる者達が、先ほどのようにゴーレムを破壊し、そのオリジンプレートを回収しているんです。」

「へぇ・・・」


2人は、そのオリジンプレートを見つめる。

彼らの持っていたものと同じように、それは金色に光り輝いていた。

ノエルはオリジンプレートをしまうと、目の前の機械を仰ぐ。


「そして、回収したプレートを元に私が作った機械がこれです」


2人はその機械をもう一度見上げた。

説明されてみると、街で見たゴーレムに、その機械は似ていた。だが大きさが倍近くある。


「ネオゴーレムは、普通のゴーレムと違い、人が操縦することが出来るんです。」

「え?操縦?」


リウが間の抜けた声を出した。


「操縦って・・・・これに乗るんですか?」

「そうですよ。ほら、あそこに操縦席があるでしょう」


ノエルが指差した先、ちょうど頭の部分に、確かに人1人が入れるくらいの操縦席があった。

すると、リウは慌てたように言った。


「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。まさか・・・俺達に、これに乗って移動しろと?」

「えぇ。そうですが」


ノエルが当然だ、という顔をした。


「これだと空が飛べるので、海を越えることが出来ます。」

「空を・・・飛ぶ!?これが?」

「そうですよ。他にも水陸両用ですし、変形させることもできますよ。便利でしょう?」


その言葉に、フィラが声を上げた。


「冗談だろ!?そんなもの俺達に操縦できるわけ・・・」

「大丈夫ですよ。操縦方法は簡単です。」

「そういう問題じゃなくて!」


フィラが困ったような声を上げる。

すると、その時。


「ちょっと、ノエル!」


―――――明朗な声がして、3人は振り返った。

見ると、倉庫の入り口に、1人の女性が立っている。


「おや。これはアンナさん」


ノエルがその女性を見て言った。

アンナと呼ばれた女性は、短い紅い髪が印象的な、若い女性だった。

彼女は3人の下へ歩み寄る。


「研究室にいないと思ったら、こんな所にいたのね。約束の時間はとっくに過ぎてるわよ!」

「おや、そうでしたね。すみません」

「いいから、早くネオゴーレムを貸しなさい」


そう言った彼女は、ふと、目の前のリウとフィラに気づく。

2人をしばし見た後、アンナはノエルを見た。


「・・・・誰よ、この子達」

「ちょっと街で知り合ったんです。少し訳ありでして」

「?どういう意味よ?」

「実はですね。オリジンプレートによって300年前の未来から来てしまったと」

「・・・・はぁ?」


予想通り、アンナは怪訝な顔をした。


「何言ってんのよ。冗談言うならもっと面白いものを言いなさいよ」

「冗談ではありませんよ。」

「・・・私をからかってんの?」

「いえ。私は真面目です」

「・・・・。」


アンナはじっとノエルを見ると、視線を2人に移した。

ほとんど睨むようにリウとフィラを見て、そして口を開く。


「・・・バカけてるわ。信じらんない」

「・・・・。」


彼女の言葉に、フィラがむっとした顔をする。

すると、横で見ていたノエルが突然口を開いた。


「・・・そうですねぇ。アンナさん、ちょっと協力してくれませんか?」

「?」


アンナがノエルを見た。


「これから仕事でルヴェルまで行くんでしたよね?」

「そうだけど?」

「だったら、この2人をウェンイットまで送り届けてもらえませんか?」

「はぁ!?」


アンナが嫌そうな声を出した。

話についていけずに、リウが口を挟む。


「・・・・何の話ですか?」

「ちょうどアンナさんが、ネオゴーレムでウェンイットの隣町のルヴェルまで行く所だったんです。ですから、ついでに君達をウェンイットまで連れて行ってもらおうと思いまして」

「嫌よ、そんなの!あんたが行けばいいじゃない!」

「私は研究所を離れることができないんですよ。あとネオゴーレムの操縦の仕方も教えてやってください」

「どうして私がそんなことしなくちゃならないのよ!」


アンナはノエルの提案を頑なに拒否する。

すると、ノエルは目を細めて意味深に笑った。


「困りましたねぇ。・・・でもどうしても嫌だと言うのなら、ネオゴーレム貸してあげませんよ?」

「なっ、なによそれ!卑怯よ!」

「私は少し協力してもらいたいだけです。いいでしょう?それくらい」

「・・・っていうか、無理矢理協力しろって言ってるようなものじゃない・・・!」


アンナは顔を引きつらせて、ノエルを見た。

しばらく無言で彼を睨む。


「・・・・・。」

「どうします?」


数秒の沈黙があった。

そして、アンナが口を開く。


「・・・・わかったわよ。連れて行けばいいんでしょ!連れて行けば!」


投げやりな口調で彼女が言った。

すると、ノエルはにっこりと笑ってリウとフィラを見た。


「良かったですね。あとは彼女についていけば大丈夫でしょう」

「はぁ・・・。」


いつのまにか当の本人であるリウとフィラをほとんど無視して、話は進んでいた。










『ホントにこれ、操縦するのかよ・・・・』


――――数分後。

リウとフィラ、そしてアンナの3人は、それぞれのネオゴーレムの操縦席に座っていた。

各操縦席は無線でつながっており、途方に暮れたフィラの声がリウの耳に届いた。


『っていうか、誰もまだこんな機械に乗るなんて言ってないし!』

『そう言うなよ。しょうがないだろ、これしか移動手段がないんだし』

『やけに冷静だな、リウ。うらやましい』


2人が無線越しに会話していると、釘を刺す声が聞こえてくる。


『ちょっと。無駄話してないで話を聞きなさい』

『?』


すると、アンナは早口で操縦方法を教え始めた。


『発進の仕方は手前にある赤いボタンを押した後、右上の一番大きなレバーを思いっきり手前に引くこと。いい?わかった?』

『え?何をどうするって?』

『一度しか言わないからよく聞きなさい。加速は手元のレバーを前に倒す。減速は手前に引く。止まる時はレバーをニュートラルに。』

『そんなに一気に言われてもわかんねぇよ!』

『うるさいわねぇ。説明してやってるだけありがたいと思いなさい』


極端に不機嫌な声のアンナの指示に従い、2人は手を動かす。

作業を進めながら、再びフィラが呟いた。


『はぁー、それにしても信じられないよな。罰掃除してたらいきなり300年前の世界でさ・・・。しかもこんな訳のわからないものを操縦しろって言われるし。』

『俺だってまだ信じられない。ここがほんとにアーウェルトだなんてな・・・』

『同感。っていうかお前さぁ、こんなものほんとに操縦できる自信ある?』

『ない』

『言い切るなよ・・・』

『話してないで手を動かしなさいよ。ったく、何で私がこんなこと・・・』


2人の会話にアンナの愚痴が混じった。

一通り操縦方法を教わったあと、アンナが口を開いた。


『・・・・まぁ、こんなものでいいわね。あとは体で覚えなさい』

『はぁ・・・。』


フィラが自信なさげな声を出した。

すると、下にいたノエルが大きな声を出した。


「みなさん。そろそろいいですか?」

「いいわよ」


アンナが答えると、ノエルは手元の機械を動かし始める。

そして、アンナは再び無線で話し掛けた。


『発進するわよ。さっき教えたとおりに動かしなさい』

『・・・・・自信はないけど、頑張ります』

『同じく』


目の前にあった大きな扉が、徐々に開き始める。

暗い倉庫に、日の光が差し込んできた。

そして、フィラがリウに向かって、開き直ったかのように呟く。


『・・・行くしかない、よな』

『・・・・そうだな』


リウもまた、呟くように答えた。

景色が徐々に開けてきたとき、リウは下を見る。


「・・・・あの、ノエルさん」

「はい?なんです?」


ノエルが顔を上げ、リウの方を見た。

リウは敬意を込めて、言う。


「・・・・いろいろと、ありがとうこざいました」


真っ直ぐなリウの視線を、ノエルは穏やかな目で見返す。

そして、笑いながら言った。


「いいんですよ。無事に未来に帰れるといいですね。」

「はい!」


扉が完全に開いた。

前方に広がるのは、蒼い空と、大海原。

リウは、しっかりと操縦桿を握った。


『行くわよ!』


無線から聞こえたアンナの声が、発進の合図。

レバーを思い切り手前に引くと、機体が浮き上がった。


3体の機体が扉をくぐり―――――空へと飛び出す。







「・・・・・幸運を、祈っていますよ」


―――――1人残されたノエルが、飛び立った3体のネオゴーレムを見つめていた。




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