第二話 オリジンプレート<前編>
「・・・・・?」
―――――ぼんやりとした深い霧の中で、リウは目を覚ました。
起き上がると、周りは濃い霧に包まれていて、何も見えない。
「なんだ・・・?どこだ、ここ・・・・?」
リウが辺りを見回していると、隣で横立っていたフィラが起き上がった。
「フィラ・・・」
フィラは霧で塞がれた周りを見、そして呆然とした様子でリウを見た。
「おい・・・何がどうなってるんだよ・・・・・?」
リウが首を横に振る。
「わからない。でも・・・、海の近くなのかもな。潮の香りがする」
2人は立ち上がったが、どうしようもなく立ち尽くす。
すると、リウは足元に何かが落ちているのを見つけた。
「?」
それは、あの教室で見つけた、プレートのようなもの。
「あれ・・・?」
リウは目を見張って、それを拾い上げた。
そのプレートのようなものは、教室で見たときは古びていたはずだった。
だが、今見てみると、それは真新しく金色に光り輝いていたのである。
「どうなってる・・?」
「俺に聞くなよ・・・」
2人は途方に暮れて顔を見合わせた。
すると―――――
「・・・・あ・・・・」
―――――霧が、晴れてきた。
目の前の景色が徐々に鮮明になってくる。
2人は目を凝らして、前を見た。
・・・霧が消え、視界が開ける。
前方に見えてきた景色を見て、2人は思わず言葉を失った。
そこには―――――見たこともない世界が広がっていた。
「な・・・んだよ、ここ・・・・・」
―――――2人がいたのは、明らかに今までいた世界とは違っていた。
天まで届くような、背の高い建物の群れ。
その間を無数に通るレールの上を走る、モノレールに似た機械。
空を自在に飛ぶバイクのようなものに乗っている人の姿もあった。
何もかもが、見たことのないようなもので埋め尽くされていた。
「!おいっ、足元見てみろよ!」
フィラが驚いたような声を上げた。
その声にリウが視線を下げる。
「わ・・・!」
足元にはタイルのようなものが敷き詰められていたが、一部分だけ透明になっていて、下が見えるようになっていた。
そこから下を覗き込むと――――足元は、海だった。
「海に・・・・浮かんでる・・・?」
リウが唖然として呟いた。
しばらく、2人は沈黙する。
そしてフィラが顔を上げると、リウを見た。
「なぁ・・・、リウ・・・・」
「なんだよ・・・?」
「これって・・・・・夢じゃないよな?」
「・・・・多分・・・・」
困惑しきった2人がそんな会話をする。
どうしていいか分からず、途方に暮れていた、その時。
「!リウ!!」
フィラが突然声を上げ、リウの腕を引っ張った。
「うわっ!」
引きずられるまま、2人のそのまま体制を崩した。
そして―――――すぐ後ろで、爆発音に似た、轟音。
「え・・・・?」
――――たった今リウが立っていた場所に、何かが突き刺さっていた。
そして、2人の上から、影が落ちる。
顔を上げると――――――巨大な物体が、2人を見下ろしていた。
あまりの驚きの声を上げる事が出来なかった。
黙って2人を見下ろしていたのは、2メートル以上はあるであろう巨大なロボットのようなもの。
石で出来た頭と、巨大な胴体。腕と足は長く、異様だった。
そして、手に握られていたのは、巨大な短剣。
「!!」
手に握られていた短剣が高く振りかざされた時、2人はとっさにその場を避けた。
次の瞬間地面に短剣が突き刺さり、大きな音を立てる。
巨体が、ゆっくりとこちらを見た。
人間でいうと目の位置にある2つのライトが、赤色に光る。
『ニンゲン、ニンゲン、2タイ、カクニン。ハイジョシマス』
その刹那、巨体はもう一度短剣を持ち上げた。
2人はちらりと目を合わせ、そして、それから逃げるように一気に駆け出した。
「なんなんだよっ、あれ!!」
「だから俺に聞くなよ!!」
巨体を振り切るように、2人は複雑で迷路のような街の中を走った。
だがそれは巨体の割に思ったより足が速く、すぐ追いつきそうな位置にいる。
「!」
2人は急に足を止める。
偶然入った路地の先は、行き止まりだった。
「やべぇ・・・っ!」
振り返ると、巨体はすぐそこまで迫っていた。
『ニンゲン。ハイジョ、シマス』
巨体が短剣を持った腕を上げた。
2人が息を飲んだ―――――――刹那。
「気高き炎よ、我に示せ。灯るは魂の火――――その力で、彼の者を焼き尽くせ」
後方で声がした。
途端、目の前で爆発が起こる。
「!!」
2人は思わず顔を覆った。
目も眩むような閃光と、衝撃音。
周りに煙が立ちこめる。
「・・・・・?」
辺りが静かになる。
2人が前方を見ると、巨体は爆発を直撃して粉々に破壊されていた。
そして、煙の向こうから、人影が現れる。
「・・・大丈夫ですか?こんな所で、何してるんです?坊やたち」
―――――声の主は、バラバラに壊れた巨体の隣に立った。
その人物は、20代後半ほどの男性。
眼鏡をかけていて、銀色の髪を持っていた。
2人は驚いてその人物を見ていると、彼は破壊された巨体を調べ始めた。
「けっこう派手にやっちゃいましたねぇ。・・・・・プレートは無事かな?」
彼はちょうど巨体の背中部分にあたる箇所を調べていた。
面食らった2人が無言でその様子を見る。
「・・・・あの・・・」
「ん?なんです?」
「今、のは・・・・・なんですか?」
突然目の前で起こった事態についていけずに、リウが聞いた。
すると、彼は不思議そうに2人を見る。
「なにって、魔術に決まってるじゃないですか。君達だって使えるでしょう?」
2人は顔を見合わせた。
少しの沈黙があって、リウは口を開く。
「僕達は魔術なんて使えません。魔科学研究はずいぶん前に衰退してますから」
「ほーう。面白いこと言いますねぇ、君。魔科学研究は衰退どころか今が最盛期じゃないですか。」
「はぁ?」
フィラが怪訝な顔をした。
「そっちこそ何言ってるんだよ?魔科学研究か最盛期だった時代なんて、300年も前の話だろ?」
「300年前?」
今度は男性が驚いたような顔をした。
すると、彼はリウが持っていたプレートらしきものに目を留める。
「・・・・それは?」
「えっ?」
男性はリウに近づくと、それを真剣な表情で見た。
―――――彼の切れ長の目が、すっと細められる。
「・・・・なぁっ、そんなことより、一体ここはどこなんだよ?」
痺れを切らしたようにフィラが口を開いた。
男性はゆっくりと顔を上げると、2人を見る。
「ここはアーウェルト国の西に位置する、海上都市セルティですよ。」
「アー・・・・ウェルト!?」
フィラが驚いて声を上げた。
アーウェルト。それはこの世界の中で一番の歴史を持つ、300年前に存在した国。
「嘘だろ?ここが、あのアーウェルトな訳・・・」
「本当ですよ。どうやら君達・・・・こことは違うどこかから来たようですね?」
信じられない気持ちで、2人は顔を見合わせた。
リウが戸惑いながら口を開く。
「まさか・・・・」
見慣れない景色。
現実離れした建物や、機械。
そして―――――歴史の授業で何度も聞いた、その国名。
「ここは、300年前の世界・・・・?」