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第一話 タイムスリップ

朝の早い時間だった。


彼はバロック建築の街並みをくぐり抜けるようにして走っていた。

赤みがかった茶髪に、首都で一番有名なアカデミーの黒い制服。

朝日を浴びた横顔はまだ若い。10代中頃だろう。


少年は大通りを避け、入り組んだ裏路地へ入った。

狭い壁と壁の隙間を器用に通り抜けると、3つ目の角を曲がる。

すると、目の前はフェンスでふさがれていた。


彼は迷いなくフェンスに足をかけると、軽々と上る。

反対側へ飛び降りると、足元で丸々と太った白い猫が驚いたように鳴いた。


「おはよ、ブタ猫」


少年はその猫の頭を軽くなでると、また走り出す。


――――彼の名前は、リウ。

この国の首都に住む、ごく普通の15歳。

彼はいつも通り、アカデミーへと向かう近道を走っていた。


これから起こる事態など、知りもせずに。








「リウ!」



大通りに出た時、聞き慣れた声がして彼は振り返った。

少し後ろから、登校する大勢の生徒に紛れて1人の少年が走ってくる。


「おはよっ」


その少年は明るい金髪に、リウが着ているのと同じアカデミーの黒い制服を着ている。

彼はフィラ。リウの同級生で、親友である。


「おはよ、フィラ。今日はめずらしく早起きだな」

「なんだよ、めずらしくって」


フィラが顔をしかめた。

リウはからかうように笑う。


「いつも遅刻ギリギリで登校するのどこの誰だよ」

「うるせー。それよりさ、リウ。頼みがあるんだけど」

「?なんだよ?」


リウが聞くと、フィラは両手を合わせた。


「歴史のレポートやるの忘れてたんだけど、見せてくれね?」

「嫌だ」


リウが即答した。


「えーっ、なんでだよ!」

「お前宿題忘れるといつも俺に頼るだろ。たまには自分でやれ」

「それが嫌だからお前に頼んでるんだろ!」

「却下」

「なんだよ、ケチ!」


フィラは口を尖らせたが、リウが首を縦に振る様子はなさそうだ。

ため息をつくと、フィラはリウの肩に腕を回した。


「お前はいいよなぁ。成績優秀の上に運動神経抜群でさ。さすが優等生〜」

「・・・・お前、それ嫌味で言ってるだろ」

「あ、バレた?」


そんな会話をしながら、2人は校門をくぐった。








―――――時は過ぎ、放課後。


夕日がほとんど誰もいなくなった校舎に差し込む。

そんな中、今は使われていない古い教室の中に、彼はいた。


「あぁ・・・めんどくせぇ・・・・」


箒を片手に持ちながら、フィラが全くやる気のない声で呟いた。

すると、教室のドアが開く。


「なんだ、こんな所にいたのか」


顔を出したのはリウだった。


「こんな所で何やってるんだよ」


リウが聞くと、フィラが不満げ声を出した。


「レポート忘れた罰として1人で掃除」

「罰掃除かよ」


うんざりしたような声で言ったフィラに対して、リウが笑った。

掃除をする気配すらないまま、フィラが喋り続ける。


「明日までにレポートでかしてこいって言われるし・・・。なー、リウ。レポートって何について書くんだっけ?」

「古代の魔科学の発展とオリジンプレートの関係について、だよ」

「オリジンプレート、ねぇ・・・・」


興味なさげに言うフィラは、乱雑に物が積み上げられ倉庫状態となった教室を見渡す。

リウは教室の中に入ると、古い本が積み上げられた本棚に手を伸ばした。


「・・・・オリジンプレートって、今でも発掘が続けられてるよな」

「そうだな」


フィラの声に、リウが本から目を離さずに答える。


「でもさ。魔科学研究なんてとっくに衰退してるし、そんなもん今更発掘して何の役に立つんだろうな」

「オリジンプレートはそれ自体を使うわけじゃなくて、それをもとに古代の発展を研究するために発掘されているんだよ。」

「ふーん」


気のない返事をするフィラを背中に、リウは手にしていた本を本棚に戻す。

すると、その拍子に本の間に挟まっていた何かが床に落ちた。


「?」


リウはかがんでそれを拾い上げる。


「なんだ・・・これ?」


それは、四角いディスクのようなもの。

手のひらにすっぽり入るほどの大きさのそれはだいぶ古いようで、もとは金色だったものが錆びて黒っぽくなっている。

よく見ると、表面には文字がびっしりと刻まれていた。


「なに?なんだよ、それ」

「さぁ・・・」


興味を持ったフィラが、リウの傍らに近づく。

リウはフィラにそれを見せた。


「うわ、なんだこれ。何か書いてあるけど・・・・・・・これ、何語?」

「・・・・・多分、古代語だな。アーウェルト語。」

「読めそう?」

「うーん、どうだろう・・・」


リウは目を凝らしてその文字を見る。

所々消えかかっていて、読むのは容易ではなさそうだ。


「駄目だ、読めない。でもなんでこんな所にこんな物が・・・・」


そうリウが言いかけた、刹那。


『!』


2人は目を見開く。

刻まれていた文字が、金色に光り輝いた。


「わっ!」


驚いて、リウがそれから手を離す。

するとそれは床に落ちもせずに、そこに浮かんだ。

瞬間、窓も開けていないのに強い風が巻き起こる。


「な・・・・んだ・・・・!?」


机に積まれていた本のページが勢いよく捲れる。

間もなく、辺りが眩い光に包まれた。

そして――――――――














―――――・・・・・風が、止んだ。



何事も無かったかのように、辺りは静かになる。

だがそこには――――――2人の姿は無かった。





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