視界
短編です
目の角膜を移植した。
医者から説明をされたけど、よくわからない、カタカナの名前の病気になって、すでに7年が経っていた。発覚してすぐは、難病だから治りようがないと言われていたし、だんだん狭まる視界に、もう半分諦めていたのだけれど、どうやら海外での研究が進んで、角膜を移植すれば、治すことが出来ると言う。その話を聞いて、不安にはなったけど、また外の世界を見ることが出来るなら、と誓約書にサインした。
手術は無事成功して、家に帰ることが出来た。
「お母さん良かったね」
「えぇ、これで転ばずに済むわ」
娘が心配して付き添ってくれたけど、視界は良好。体だって、今のところどこにもガタはきていない。だからまだ、一人でこの家に住み続けられそうだ。
「じゃぁ、何かあったら連絡してね」
「うん、ありがとう」
娘が帰って、ひと段落。安心できる我が家に帰ってこられてホッとした。
病院はやってはいけないことが多くて窮屈だったけど、まぁ、おかげで目を治してもらえたんだ、文句は言えない。
冷蔵庫を開くと娘が作り置きを数種類、置いて行ってくれていた。旦那がいた時はすぐ食べきってしまったけど、一人だとどうにも量が食べられない。悪くしないうちに食べきれるかしら。
サラダと青魚の南蛮漬け、ご飯をよそって軽く食べて、今日は早めに就寝した。
気が付くと私は、暗い路地裏をさまよっていた。誰かが追いかけてくる。ドキドキと心臓が高鳴る。懸命に足を動かして逃げるけど、足音が近づく方が早い。怖い、こっちに来る・・・。
「はっ・・・」
目が覚めた。嫌な夢。疲れたのかしら。
次の日の昼、娘の作り置きを食べて、椅子に座ったままウトウトとしてしまった。思ったより体力は削られていたのかも。
また同じ路地裏。ここは、海外?見慣れない風景。よく見ると私、裸足のままだわ。それでも構わず息を殺しながら走る。路地を曲がって、次の角を曲がって、ゴミ箱の裏に身をひそめる。また足音が近づいてくる。怖い、助けて。
そう思ったら目が覚めた。あの足、私の足じゃなかったわ。若い男の人の足の様だった。
同じような夢を続けてみるなんて初めて。なんだか嫌な夢。
気晴らしに散歩にでも出かけようかしら。幸いうちは海辺の町だから、散歩コースは豊富にある。
海風に吹かれながら歩くと、ちょっとだけ気持ちは晴れてくる。
歳をとるとちょっと入院するだけで体力を消耗するわねぇ。
いつもよりも短いコースで帰ってきたけど、やっぱり疲れた。夕飯を食べる前に、少し仮眠を取ろう。
ベッドにもぐりこんでほどなくして、私はまたあの夢をみた。
懸命に走って、逃げて、でも結局誰かに捕まって、殴られて、気を失った。そのあとは、今日私が見た海辺の風景に、夢の情景が変わっていた。何とも穏やかで、清々しい気持ちで目が覚めた。
——変な夢ねぇ——
そう、変な夢。




