表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
因果の不渡り  作者: ヨシ
7/12

第7話:強制執行


 地下空間を震わせる咆哮と共に、廃棄局長ガロウ・モートラックの肉体が醜悪に膨れ上がった。

 彼は施設内の培養槽から「他人の生命力」をチューブ経由で自身に過剰供給し、理性を手放した殺戮マシーンへと変貌していた。


「力が……力が溢れてくるぞ! これがこの施設の真価だ! 貴様ら如きゴミに、この『肉の銀行』は止められん!!」


 ガロウが丸太のような腕を振り回すたび、鉄の足場が飴細工のようにひしゃげる。

 アリシアの銀糸による切断も、過剰な再生能力の前では決定打にならない。


「シルス! キリがないわ! こいつ、傷が塞がる速度が異常よ!」


「ああ。奴は今、ここの数千人分の命を『燃料』にして無敵モード...管理者権限を維持している。……まずはその供給源を断つ」


 シルスは、ガロウの振るう拳を紙一重で回避すると、戦いの中心から離脱する動きを見せた。

 目指すのは、施設の最奥に鎮座する巨大なメインコンソールだ。


「逃がすかぁぁぁ!!」


  ガロウが咆哮と共に、丸太のような腕を振り回した。

 鉄の足場が飴細工のようにひしゃげ、アリシアが放った銀糸も、膨れ上がった筋肉の鎧に弾かれる。


「無駄だ無駄ぁ! 俺にはこの施設にある数千人分の『命』が繋がっている! 貴様ら如きが、この無限の在庫を削りきれると思うか!!」


 ガロウの背中には、太い魔導チューブが醜く脈打っていた。

 培養槽で眠る子供たちの生命力をリアルタイムで吸収し、自身の傷を即座に修復しているのだ。

 圧倒的な暴力と再生能力。通常の勇者パーティなら、ここで聖剣や極大魔法を持ち出し、力押しで対抗する場面だろう。


 だが、シルスは冷ややかに鼻を鳴らし、戦闘の只中で懐中時計を確認した。


「……やれやれ。在庫管理が杜撰だな。これでは棚卸しに骨が折れる」


 シルスはガロウの振るう拳を紙一重で回避すると、流れるような動作で施設の奥――巨大なメインコンソールへと飛び降りた。


 カシャンッ!!


 硬質な**「ドッキング」**音が響く。

 その瞬間、シルスの石版から伸びた赤い光のラインが、幾何学模様となって施設の神経系へと侵食を開始した。

 それは、個人の端末が巨大なメインフレームを乗っ取るための、強制同期の合図だった。


「……認証コード、バイパス。これより、特別監査権限を行使する」


 シルスが石版と一体化したコンソールを操作すると、施設中の培養槽が一斉に警告音を上げ、照明が「緑」から「赤」へと切り替わっていく。


「ば、馬鹿な!? 私の施設が……操作を受け付けないだと!?」


 ガロウが叫び、コンソールへ突進しようとする。

 だが、シルスは顔も上げず、石版の画面上にある『供給ライン』の項目を指先で弾いた。


「――貴様の口座は、たった今凍結された」


 **ピ。**

 戦場には不釣り合いな、間の抜けた電子音が響く。


「……あ?」


 ガロウの動きが止まった。

 いや、止められたのではない。燃料切れを起こした機械のように、その巨体がガクガクと痙攣を始めたのだ。

 背中のチューブから、バシュッ! と音を立てて魔力が逆流する。


「な、なんだ!? 力が……俺の魔力が、戻っていく!?」


「不正な利益供与を検出したため、差し止めただけだ。……さあ、アリシア。債権回収の時間だ」


「はい!」


 シルスの合図と同時に、アリシアが跳んだ。

 彼女の十指から放たれた銀糸が、束となってガロウの巨体を捉える。今度は再生しない。防御する魔力もない。


「あ、が……待て、待ってくれ! 金ならある! 上層区のパスもやる! だから……!」


「お断りよ。……その薄汚い命で、未払いのツケを払ってもらうわ!」


 アリシアが両手を交差させ、一気に引き絞る。

 銀閃が走り、下層区を支配していた暴君の体は、物言わぬ肉塊となって崩れ落ちた。


 静寂が戻った地下施設で、シルスはコンソールから石版を引き抜いた。

 画面には「施設制御権:掌握完了」の文字が静かに明滅している。


「……終わったな」


 シルスは、主を失った広大な施設を見渡した。

 ここはもう、人を食い物にする銀行ではない。

 王都へ逆襲するための、我々の「城」だ。


「シルス、これからどうするの?」


 返り血を拭ったアリシアが問う。シルスは左目を細め、天井の遥か上、上層区の方角を見上げた。


「……まずは『掃除』だ。そして準備ができ次第、上の連中に特大の請求書を送りつけてやる」


 下層区の闇の中で、反逆の狼煙が上がった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ