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日課となっているルークとの魔法の練習は、ティルナ村の住人に知れ渡っていた。
遠くから眺めたり、直接魔法のコツを教えてくれる者もいた。
そしていつものように作業を終えたクレインが村長の家に戻ると、アストに呼び出される。
「クレイン、そこに座りなさい」
促されて向かいに座る。
「魔法の具合はどうじゃ?」
「はい……ルークや村の皆さんのおかげで、少しずつですが調整できるようになってきました」
「うむ。おぬしの魔力は……静かにしておれば気にならぬが、いざ流せば大きな力を持つ。
そのような者は珍しい」
クレインは困惑したように眉をひそめる。
「そんなに……ですか?」
「うむ。しかし、それ自体は決して悪いことではない」
アストは湯呑を置き、静かに続けた。
「クレイン。おぬしは記憶を失っておる。
どこから来て、どんな暮らしをしていたのかも分からん」
「……はい」
「この村で生きることはできる。
だが――思い出すことを望んでいるのであろう?」
クレインはしばらく黙り、その後、素直に頷いた。
「はい。村の皆さんにはよくしていただいています。
でも、自分のことを知らないままでは……いつか迷惑をかける気がして」
アストの表情は穏やかだった。
「それなら、旅に出るのはどうじゃ、クレイン。
自分で世界を見て回り、人と関わり、土地を巡れば――
思い出せることもあるかもしれん」
「旅……」
想像したことのない言葉だったが、胸の奥で何かが静かに反応した。
「おぬしほどの魔力があるならば、
ハンターになるのもいいかもしれんの」
「ハンター?」
「世界各地にいる魔物を討伐し、国や人々を助ける者たちだ。
アークハント連盟という組織が管理しておる」
その名前に聞き覚えはないが、不思議と心を引かれた。
「おぬしの腕なら、ランクなんぞすぐに上がるじゃろう。
そして各地を巡り、いろんな人と出会う。
記憶を取り戻す旅としては、これ以上なかろう」
「……確かに。村の中だけでは知れることも限られますし……」
「うむ」
アストは柔らかく微笑んだ。
「村の皆も、おぬしの門出を喜んでくれよう。
己の足で歩き世界を見てくるといい」
その言葉は、背中をそっと支えてくれるような優しさに満ちていた。




