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翌朝から、クレインの村での生活が始まった。
アストの家で朝食をとり、村人たちの仕事を手伝い、夕方には皆と談笑する。
クレインが荷運びや畑仕事を手伝うと、村人たちは驚きながらも喜んだ。
「クレイン、こっちを持ってくれ!」
ルークに呼ばれ、倉庫で荷物の運搬を手伝うと、思っていたより軽々と持てた。
「意外と力あるんだな。助かるよ」
「……自分でも驚いてます」
他の村人も笑って声をかけてくる。
「若いっていいねぇ」
「動きが素直でいい。教え甲斐があるよ」
クレインは決して饒舌ではないが、指示されたことを黙々とこなした。
その姿勢が好感を持たれ、あっという間に村に馴染んでいく。
(体はしっかり動くんだな……)
村での生活が五日ほど経った夕方。
倉庫の整理を終え、広場に腰を下ろしたところで、ルークがクレインに声をかけた。
「クレイン。お前、魔法って使えるか?」
「……魔法?」
クレインは首をかしげた。
その反応を見たルークは少し驚いたように瞬きをした。
「えっ……もしかして魔法そのものを知らないのか?」
「いえ、言葉は分かるんですが……実際に何をするのか、よく分からなくて」
「……まじか」
ルークは苦笑しつつ、腰の袋から透明な石を取り出した。
ビー玉ほどの大きさで、陽光を受けて淡く光る。
「これが護石。魔法を使うときに対価を肩代わりしてくれる石だ。
魔物の心臓部から採れる魔石を加工したもので、こうやって身につけて使う」
「対価……?」
「魔法を使うと、人は代償を払わなきゃいけないんだ。
体力でも、寿命でも、精神でも、何かしらの負担がくる。
これがあると、その負担を石が引き受けてくれる」
クレインは目を見開いた。
「そんな危険なものなんですか、魔法って……」
「まあな。でも護石が普及してるから、村の一般人でも簡単な魔法を使えるんだ。
火を起こしたり、風を送ったり、ちょっとした力技を補助したりな」
ルークは護石を指先で軽く弾いた。
「護石は使うとだんだん濁っていく。
濁り切って割れたら終わりだ。
普通の人だと、毎日、火付けや風送りをして、ようやく濁るくらいだな」
「なるほど……」
クレインはその石を手に取ってみた。
冷たく、透明で、しかし触れていると脈のように微かな温度を感じる。
「お前、本当に魔法のこと覚えてないんだな……」
「はい。魔法が何か、よく……」
ルークは顎に手を当て、少し考えてから言った。
「なら、一度試してみるか。
護石を通して魔力を流せば、簡単な風魔法くらい出るはずだ。
魔法を使ってみれば、何か思い出すかもな」
「魔力……。僕に、そんなものがあるのでしょうか」
「あるさ。魔力のないやつなんていない。
まあ、試してみれば分かるだろ。明日の朝、広場でやってみよう。簡単なやつを教えてやるからよ」
「はい」
クレインは護石をそっと握りしめた。
その冷たさが、不思議と心を落ち着かせてくれる。
村の子どもたちが夕暮れの道を駆け抜ける中、
クレインは透明な石を見つめながら思う。
(魔法が使えるかどうかなんて……想像もつかないけれど)
もし――ほんの少しでも、過去の自分を知る手がかりになるのなら。
明日が怖くもあり、少しだけ楽しみでもあった。




