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森を抜けた先、丘の中腹に、小さな村が広がっていた。

木造の家々から灯りが漏れ、煙突からは薪の煙が立ちのぼっている。

雨に濡れた石畳の道には、家族連れの笑い声が微かに響いていた。


その様子は、クレインの胸に妙な不思議さを感じさせた。

懐かしいような、しかし触れたことのない温もり。


「ここがティルナ村だ。小さな村だが、悪い人間はいない」


ルークの言葉どおり、すれ違う村人たちは皆、好奇と心配の入り交じった目を向けてきた。


「その人、旅の方かい?」

「雨の中大変だったでしょう」


声をかけられるたび、クレインは戸惑いながらも頭を下げた。

見知らぬはずなのに、敵意はひとつもなく、むしろ優しさが満ちている。


ルークに案内された家は、村の中では大きめで、木造の温かな作りをしていた。

扉が開き、白髪まじりの老人が顔を出す。


「どうした、ルーク。こんな時間に」


「森で倒れてたんです。記憶もあやふやらしくて……」


老人はクレインをしばらく見つめ、ふっと頬を緩めた。


「名は?」


「……クレイン。それだけは、覚えていて……」


「そうか。わしはこの村の村長のアストじゃ。しばらくはここに滞在するとよい」


あまりにも自然な口調で、クレインは思わず言葉を詰まらせた。


「ですが……ご迷惑でしょう」


「困っている若者を助けることに、迷惑などないよ。人は支え合って生きるものだ」


その言葉は、記憶の空白に沁み込むように優しかった。


客間を案内され、温かいスープを出され、ふかふかのベッドに身を沈める。

クレインはその夜、初めて深く息をつき、わずかに肩の力を抜くことができた。


だが――眠りについたあと、奇妙な光景が脳裏をよぎる。


黒い影。

轟音。

焼け焦げる匂い。

誰かの叫び声。


夜中に目が覚めたクレインは、胸に手を当てた。


(……これは、何なんだ……?)


 その疑問は、翌朝になっても晴れなかった。


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