2
森を抜けた先、丘の中腹に、小さな村が広がっていた。
木造の家々から灯りが漏れ、煙突からは薪の煙が立ちのぼっている。
雨に濡れた石畳の道には、家族連れの笑い声が微かに響いていた。
その様子は、クレインの胸に妙な不思議さを感じさせた。
懐かしいような、しかし触れたことのない温もり。
「ここがティルナ村だ。小さな村だが、悪い人間はいない」
ルークの言葉どおり、すれ違う村人たちは皆、好奇と心配の入り交じった目を向けてきた。
「その人、旅の方かい?」
「雨の中大変だったでしょう」
声をかけられるたび、クレインは戸惑いながらも頭を下げた。
見知らぬはずなのに、敵意はひとつもなく、むしろ優しさが満ちている。
ルークに案内された家は、村の中では大きめで、木造の温かな作りをしていた。
扉が開き、白髪まじりの老人が顔を出す。
「どうした、ルーク。こんな時間に」
「森で倒れてたんです。記憶もあやふやらしくて……」
老人はクレインをしばらく見つめ、ふっと頬を緩めた。
「名は?」
「……クレイン。それだけは、覚えていて……」
「そうか。わしはこの村の村長のアストじゃ。しばらくはここに滞在するとよい」
あまりにも自然な口調で、クレインは思わず言葉を詰まらせた。
「ですが……ご迷惑でしょう」
「困っている若者を助けることに、迷惑などないよ。人は支え合って生きるものだ」
その言葉は、記憶の空白に沁み込むように優しかった。
客間を案内され、温かいスープを出され、ふかふかのベッドに身を沈める。
クレインはその夜、初めて深く息をつき、わずかに肩の力を抜くことができた。
だが――眠りについたあと、奇妙な光景が脳裏をよぎる。
黒い影。
轟音。
焼け焦げる匂い。
誰かの叫び声。
夜中に目が覚めたクレインは、胸に手を当てた。
(……これは、何なんだ……?)
その疑問は、翌朝になっても晴れなかった。




