ラスト話 番外編
この物語は、かつて人々が夢見たオンラインゲームの理想郷を舞台に始まりました。
剣と魔法の都市、冒険者たちの笑いと挑戦、友情と謎。
しかし、その楽園はやがて牢獄へと変わり、プレイヤーたちは出口のない仮想世界に閉じ込められていきます。
本章は、その結末――希望が届かず、絶望だけが残る物語の終着点です。
「救いは必ずある」と信じた者たちが、それでも抗えなかった運命の行き着く先を、静かに見届けてください。
最終章:選ばれし道
夜空を覆い尽くす竜群の影。
赤い炎が都市の防壁を舐め、爆ぜる瓦礫と悲鳴が響き渡る。
冒険都市クロノスは、まるで終焉の鐘を打ち鳴らすかのように揺れていた。
「くそっ……! 持ちこたえろ!」
大河内翔の号令が飛び、安住を選んだ仲間たちが必死に槍と弓を構える。
だが竜の炎は圧倒的だった。
一方、城門の影で木村涼と桜井美咲は立っていた。
涼の胸の奥に、かつて灯った蒼炎が再び燃え始めている。
「リュウ……あなたの力を、今こそ!」
美咲が黒豹を呼び出しながら叫ぶ。
涼はうなずき、炎に包まれた剣を握った。
「俺たちは帰る。そのために、この戦いを越える!」
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決戦
炎と影の渦の中、涼は竜の巨体に飛び込む。
蒼炎が竜の炎を飲み込み、青と赤の光が夜空を裂いた。
翔もまた背後から声を張り上げる。
「全員、力を貸せ! 安住だろうが帰還だろうが、生き延びるには今しかない!」
分裂していた二つの旗が、この瞬間だけは並び立った。
冒険者たちの槍と魔法が竜を貫き、空に爆炎が咲く。
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終幕の選択
竜の群れが消え去った後、広場の中央に一つの扉が現れた。
古代の石造りの門。そこには淡い文字が刻まれている。
「帰還を望む者、この扉を開け」
沈黙が広がる。
翔が苦笑しながら言った。
「……やはりあったか。出口が」
安住を望む者たちは泣き、笑い、首を振った。
「俺は残る。この世界で仲間と生きる」
「ここでやっと強くなれたんだ。現実に戻る必要はない」
一方で涼の仲間たちは、震える手で門を見つめる。
美咲が涼に問いかける。
「もし帰ったら……また、ただの高校生だよ。どうするの?」
涼は静かに答えた。
「それでも……帰るよ。俺は、俺の現実を生き直したい」
美咲は少し涙ぐみ、笑った。
「なら……一緒に帰ろう」
⸻
帰還と残留
扉の前で、冒険者たちは二つに分かれた。
現実に戻る者と、この世界を新しい故郷にする者。
最後に翔が涼の肩を叩いた。
「お前の信念は立派だ。……だが俺はここに残る。この都市を導くのが俺の役目だ」
涼は強く頷いた。
「ありがとう、翔。……また会おう、どこかで」
そして扉が光を放ち、涼と美咲は飲み込まれた。
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エピローグ
目を開けると、そこは病院の白い天井だった。
涼の手を握る美咲の目から、大粒の涙が零れていた。
「帰って……これたね」
「ああ。俺たちは帰ってきた」
二人は互いに微笑み合う。
だがその胸の奥には、蒼炎の熱がまだ残っていた。
クロノスの都市で生き続ける仲間たちの声と共に。
――そして物語は終わらない。
現実と幻想の境界で、冒険者たちの選択はこれからも未来を形作っていく。
《冒険都市クロノス》 完
冒険都市クロノスは、プレイヤーたちにとって夢の舞台であると同時に、最悪の監獄でもありました。
出口を閉ざされた彼らに残されたのは、選択肢ではなく「どのように終わるか」という覚悟だけでした。
ロボット探偵が消えたのは、真実を告げるためではなく、むしろ「希望」という幻想を奪うためだったのかもしれません。
開発者は死に、運営も滅び、残された世界は自律的に崩壊していく。
そこにプレイヤーの意思は介在せず、ただ無力さだけが浮き彫りとなります。
バッドエンド――それは読者にとっても苦い結末ですが、同時に「絶望の中でなお抗い続けた人々がいた」という証にもなります。
翔、美咲、涼。そして名もなき冒険者たち。
彼らは生き続けます。出口なき牢獄の中で。
どうか彼らの物語が、現実に生きる私たちに「自由の重み」を思い起こさせることを願っています。




