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ラスト話

ラストショー

最終章:果てなき牢獄


 夕暮れの光が差し込むはずの空に、太陽はもう昇らなかった。人工の空は赤黒く濁り、街を覆う巨大な天蓋のように重く垂れ下がっている。

 冒険都市クロノスは、活気と笑い声に満ちた都市だった。しかし今は、笑顔を浮かべる者など一人もいない。


 ――ログアウト不能。

 その通知が最後に表示されてから、すでに数週間が経っていた。


 大河内翔は、かつて探偵のように振る舞ったロボット探偵の不在を思い出していた。あの機械仕掛けの友は、何かを知っていたのか。

 答えはもう永遠に得られない。ロボット探偵は、ログからも記憶からも抹消されたかのように消え失せたのだ。


「……美咲、食料は?」

「市場に残ってるのは、ほとんど空っぽ。生産クエストもバグってる……。もう持たないわ」


 桜井美咲は疲れ切った声で答えた。瞳には希望の火がほとんど残っていない。

 木村涼は剣を抱きしめながら沈黙していた。彼は仲間を励ますこともできず、ただ無意味に武器を研ぎ続けている。


 冒険者たちの間では選択が迫られていた。

 一つは、街を出て未知のフィールドに挑み続けること。だが、モンスターは以前よりも凶悪化し、倒しても経験値は増えない。

 もう一つは、街でただ生き延びようとすること。しかし、やがて資源は尽き、互いに奪い合う未来が待っている。


 人々は分裂した。

 秩序を守ろうとするギルドと、暴力で奪うことを選ぶ無法者たち。クロノスは、血と裏切りに染まっていった。


 翔たち三人は、夜の広場で最後の相談をした。

「俺たちは……どうする?」と翔。

 涼は唇を噛みしめて、「俺は外へ出たい。ここで飢えて死ぬくらいなら、剣を振るって散る方がマシだ」

 美咲はかすれた声で、「……でも、外へ出ても何も変わらない。バグだらけの世界よ。進んでも、戻れない」


 三人は互いを見つめ合った。どの選択にも救いはなかった。


 その夜、空が裂けた。

 人工の天蓋に無数の亀裂が走り、漆黒の虚無がのぞいた。都市中に悲鳴が響き渡り、人々は祈るようにログアウトボタンを押した――だが、画面には赤い文字が浮かぶだけ。


 ――接続を終了できません。


 絶望は現実となった。


 翔は、美咲と涼の手を強く握った。

「俺たちは……最後まで一緒だ」

 しかしその誓いも、崩壊する都市の轟音にかき消されていった。


 冒険都市クロノスは、閉じ込められた魂たちの墓標として、終わりなき牢獄へと変貌していく。

 救済は来ない。出口は存在しない。


 ――彼らは永遠に、ゲームの中で生き、そして朽ちていく。



バッドエンド

プレイヤーは誰一人としてログアウトできず、都市クロノスは果てなき牢獄と化した。

bad end

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