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2話

前回の記事は?

鋼鉄探偵と三人の生徒


実技試験の教室に、緊張の空気が張りつめていた。

炎を纏った狼の幻影――それを見事に仕掛けから暴き、消し去ったのは、銀の装甲に赤いレンズを光らせるロボット探偵R-01。


「生徒R-01、+50ポイント」

教師の声に、生徒たちはどよめいた。


その光景を、三人の新入生が食い入るように見つめていた。


――大河内翔。

冷静沈着な彼は、腕を組み、淡々と呟いた。

「……なるほど。仕掛けを突き止める。効率的だな」

彼の瞳には、羨望よりも計算が宿っていた。最短ルートを求める彼には、R-01のやり方がしっくりきたのだ。


――桜井美咲。

赤髪を揺らし、召喚獣の黒豹を従える彼女は、口を尖らせた。

「ずるい! これは魔法の実技試験でしょ? 機械仕掛けの探偵が出しゃばるなんて!」

黒豹がうなり、爪を立てて床をかく。彼女の正義は、あくまで“力でねじ伏せる”ことだった。


――木村涼。

教室の隅で縮こまっていた彼は、額の汗を拭きながら小さく呟いた。

「……すごい……。僕じゃ、あんな方法……絶対思いつかない……」

引きこもり気味の少年にとって、R-01は畏怖と憧れの象徴だった。


教師が杖を振り上げ、三人を指名する。

「さあ、君たちの番だ。幻影を打ち破り、己の力を示してみせろ!」


狼の幻影が再び姿を現す。


翔は即座に魔法陣を展開。詠唱は簡潔、動きに無駄がない。

「《氷結槍アイスランス》!」

氷の槍が一直線に走り、狼の胸を貫く。幻影は悲鳴を上げて霧散。

「大河内翔、+30ポイント」


美咲は黒豹に命令を飛ばし、前に出た。

「行け! 《ファング・クラッシュ》!」

黒豹が咆哮し、幻影を噛み砕く。狼は抵抗したが、力強い連携に押し負ける。

「桜井美咲、+40ポイント」

彼女は得意げに胸を張った。


最後に涼の番が来た。

手が震え、詠唱がつかえる。

「……ひ、《火球ファイアボール》!」

放たれた火球は小さく、幻影に弾かれて消えてしまった。

「木村涼、-5ポイント」

教室に失笑が漏れる。涼はうつむき、声を失った。


だが、その時。

幻影の狼が再び立ち上がり、涼に飛びかかった。


「――危ない!」

思わず翔と美咲が声を上げる。


だが赤い閃光が走った。

R-01のレンズが光り、右腕の銃口から放たれた光弾が狼を粉砕する。


「幻影の残滓、排除完了」

冷たい声でそう告げたR-01の姿に、涼は顔を上げた。


「……助けてくれた……」


教師は一瞬ためらったが、静かに告げる。

「木村涼、挑戦の姿勢を認め、+10ポイント」


涼の胸に、小さな光がともった。


こうして三人と一体のロボット探偵は、同じ教室で運命を交錯させることになる――。



揺れる評価


授業が終わると、教室は再びざわめきに包まれた。

黒板に浮かび上がるのは、全員のポイントランキング。


1位 桜井美咲 40P

2位 大河内翔 30P

3位 木村涼 10P

特別枠 R-01 50P


「……やっぱり、あたしがトップね」

美咲は胸を張り、黒豹の頭を撫でる。だが目は明らかにR-01に向けられていた。

「ただの鉄くずのくせに……。どうして魔法学校に紛れ込んでるのよ」


翔は椅子に腰を下ろしたまま淡々と答える。

「合理的な戦法を取っただけだ。嫉妬するのは君らしくない」


「嫉妬? 違う! あんなのは魔法じゃない、卑怯なのよ!」

美咲は苛立ちを隠そうともしなかった。


一方で、涼は違う思いを抱いていた。

(僕は……やっぱり、弱い。でも……R-01が助けてくれた。あの赤い光、すごかった……)

劣等感と憧れが胸の奥で渦を巻く。


その時、R-01が無機質な声で告げた。

「観察結果。三名の生徒の関係性に摩擦が発生中。将来的に衝突の可能性――80%」


「……お前、そんなことまで予測できるのか?」

翔が眉をひそめると、R-01のレンズがわずかに光った。


「私は探偵だ。事件を解くには、人の心の動きも記録対象となる」


その言葉に、美咲はますます警戒心を強めた。

「……気持ち悪い。そんな機械に、あたしたちのこと見られてるなんて」


だが、教師が次の課題を告げた瞬間、教室の空気が一変する。


「次の授業は――チーム戦だ。君たちは三人一組で幻影ダンジョンに挑んでもらう」


全員が息を呑む。

そして、教師の指名が下る。


「大河内翔、桜井美咲、木村涼……そしてR-01。君たち四人で組め」


教室にざわめきが広がった。


翔は静かに頷いた。

美咲は「はぁ!?」と叫んだ。

涼は心臓が跳ね上がった。

R-01はただ一言。


「了解。共同捜査を開始する」


こうして、摩擦を抱えたままのチームが結成された――。



ロボット探偵と魔法学校の謎


魔法学校の教室には、奇妙な沈黙が広がっていた。

 先ほどの実技試験で、翔と美咲、涼の三人は無事に初めての魔法を成功させ、ポイントを獲得したはずだった。

 だが、集計板に表示された数字はどこか不自然だったのだ。


「……おかしいわ」

 桜井美咲が小声で呟く。

「私たち三人とも成功したのに、翔のポイントが減ってる」


 確かに、翔の名前の横には《-5》と赤字で表示されている。

 一方、美咲と涼はきちんと《+10》と緑色の数字が並んでいた。


「……バグか? それとも誰かの仕業か」

 翔は眉をひそめる。


 そのとき、扉が開いて、銀色のコートをまとった人物が入ってきた。

 機械仕掛けの瞳を持つロボット――この学園に唯一の“ロボット探偵”、クロノ=ディアスである。


「君たちの困惑は理解した」

 無機質な声が教室に響く。

「今の減点はシステム上の不具合ではない。誰かが意図的にポイントを操作した痕跡がある」


 三人は息を呑んだ。


「……まさか、最初の授業から誰かが妨害してるってこと?」

 木村涼が声を震わせる。


「その通りだ」

 クロノの瞳が赤く光る。

「そして犯人は、この教室にいる」


 教室全体がざわめいた。

 生徒たちの間に、疑念と不安が広がっていく。


「大河内翔、桜井美咲、木村涼。君たち三人は、特に狙われている可能性が高い」

 ロボット探偵は続ける。

「私と共に、この事件の真相を追う覚悟はあるか?」


 三人は顔を見合わせた。

 魔法学校の始まりは、ただの授業ではなかった。

 陰謀と謎に満ちた、危険なゲームの幕開けだったのだ。


授業が終わった後も、生徒たちはざわめきながら教室を出ていった。

 翔、美咲、涼の三人はクロノと共に残り、掲示板の前に立っていた。


「罠を仕掛けたやつ……必ず教室にいたはずだよな」

 翔が腕を組んで言う。


「はい。でも、どうやって?」

 美咲は首をかしげる。

「魔法で数字をいじれるなんて、普通はありえないはず……」


 クロノは無機質な動きで掲示板を調べる。

「解析の結果――不正アクセスの痕跡を発見した」

 赤い光が掲示板の表面を走り、やがて一点で止まった。


「ここだ。**“幻影符”**という禁じられた魔導具が使われている」


「幻影符?」

 涼が聞き返す。


「本来の表示を偽装する道具だ。使用が禁じられているが、裏市場では高値で取引されている」

 クロノの声に冷たい響きが混じる。

「つまり――この学校に、裏市場と繋がる生徒が紛れ込んでいるということだ」


 三人の表情が強張った。


「でも、誰が……?」

 美咲が口を開きかけたとき、廊下から笑い声が響いた。


 ひときわ大きな影が、教室の入口に立っていた。

 大柄で威圧感のある男子生徒――黒田隼人だ。

 彼は腕を組み、にやりと笑っていた。


「へえ……ロボット探偵さんも噂通りだな。俺の仕掛けにすぐ気づくなんてよ」


「……隼人、お前が!」

 翔が思わず前に出た。


 クロノの瞳が隼人を射抜くように光る。

「では、君が幻影符を仕掛けたというのか?」


 隼人はゆっくりと笑みを深め、ポケットから札のようなものを取り出して見せた。

 それは黒く光る、不気味な魔符だった。


「そうだ。だが俺は遊んでやっただけだ。本気じゃない。――お前ら三人が特別扱いされてるみたいだから、ちょっと減点してやったんだよ」


 挑発的な言葉に、翔たちの怒りが高まる。

 だがクロノは一歩前に進み、冷たい声で告げた。


「黒田隼人。君の行為は校則違反であり、重罪に値する。だが――ここで退くなら、正式な処罰は免れる可能性もある」


 隼人は札を指で弾き、笑った。

「ふざけんな。俺は退かねえ。――だったら勝負だ。次の授業でな!」


 そう言い残し、隼人は教室を去っていった。


 残された翔たちは言葉を失い、ただクロノの言葉を待った。


「……次の授業が、試練となるだろう。準備を怠るな」


 こうして三人は、最初の敵――黒田隼人との対決に巻き込まれるのだった。


翌日――魔法学校の実技訓練場は、まるで闘技場のようにざわめきに包まれていた。

 石造りの広場の中央には、魔法障壁で囲まれた特設ステージが設けられている。観客席には多くの生徒が集まり、今日の「ポイント勝負」を見届けようと身を乗り出していた。


「いよいよだな……」

 木村涼は緊張の面持ちで立ち上がる。


「ここで勝たなきゃ、俺たちが標的にされ続ける」

 翔は腕を組み、冷静さを装っていたが、内心の焦りは隠せなかった。


「……絶対に負けない」

 桜井美咲の瞳には、炎のような決意が宿っていた。彼女の背後では、獣魔の影がうねるように揺れている。


 そこに現れたのは、黒田隼人。

 堂々とステージに上がり、幻影符を指先で弄びながら観客に見せつけるように笑った。


「さあ、ヴァルキュリアの連中よ……俺に勝てるか?」


 司会役の教師がルールを告げる。

「実技対決――テーマは“幻影迷路の突破”。ポイントは技術・協調・戦闘力に応じて加算される。――それでは開始!」


 合図と同時に、ステージ全体が淡い光に包まれ、複雑な迷路が浮かび上がった。

 透明な壁が幾重にも立ち塞がり、出口はどこにあるのかすら分からない。


「ククッ……幻影迷路は俺の得意分野だ。お前ら、せいぜい足掻けよ!」

 隼人が走り出すと、壁の一部がまるで生き物のように形を変え、彼の進路を守るように開いていった。


「幻影符で迷路そのものを操ってる……ずるい!」

 美咲が叫ぶ。


 だが、その瞬間――クロノが冷静に告げた。

「解析開始。幻影符の干渉パターンを検出……。」

 ロボット探偵の目が光り、迷路の構造が立体映像となって三人に投影される。


「……これなら行ける!」

 翔が声を上げる。

「涼、美咲、俺について来い!」


 三人は息を合わせ、迷路の奥へと進み始めた。

 しかしその行く手に、隼人が呼び出した影の獣が立ちはだかる――牙を剥く黒い狼だ。


「俺の相棒だ! 食い殺されろ!」


 観客席からどよめきが上がる。

 翔が前に出ようとした瞬間、美咲が強く叫んだ。


「ここは私に任せて!」


 彼女の獣魔が姿を現し、黒い狼と激しくぶつかり合う。火花のような魔力が弾け、闘技場は熱気で揺れた。


 ――だが、その背後では隼人がすでに次の罠を仕掛けていた。


獣魔同士の咆哮が轟き、迷路の空気が震える。

 黒田隼人の黒狼が牙を剥けば、桜井美咲の獣魔――白銀の獅子がそれを押し返す。

 激突するたびに、幻影の壁がひび割れて光を散らした。


「ほぉ……やるじゃねえか、美咲。だが!」

 隼人は懐から新たな幻影符を抜き放ち、地面に叩きつける。

 瞬間、黒狼の身体が二体、三体と分裂し、涼たちを包囲した。


「分身……!」

 翔が舌打ちをする。

「これじゃ前に進めない!」


「――いいえ、進めます」

 冷静な声で応じたのはクロノだった。

 ロボット探偵の両眼が赤く点滅し、分身の動きを精密に解析する。


「幻影の揺らぎを検出……本体は――あそこです」


 クロノの指し示した方向へ、美咲の獅子が突進する。

 白銀の爪が一閃し、分身の一体が砕け散った。

 同時に隼人の表情がわずかに歪む。


「なに……!? 見破られただと」


「隼人……あんたの幻影は強い。でも、私には負けない!」

 美咲の声が闘技場に響く。


 リュウはその姿に息を呑んだ。

 獣魔と心を一つにして戦う美咲の姿は、まるで伝承の戦姫のようだった。


「……すごい」

 思わずこぼした言葉に、翔が小さく笑った。

「気を取られるなよ、涼。俺たちも動くぞ」


 三人とクロノは連携し、残る幻影の狼を片づけながら迷路を突破していく。

 だが隼人はなおも執念深く、出口の前に立ちはだかった。


「ここで終わらせてやる……!」


 隼人の全身を黒い魔力が包み、背後に巨大な影が立ち上がる。

 まるで闇の竜のような幻影が、涼たちに牙を向けた。

よいかな

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