第2/2章
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再起動
USBを手に取った向井山甲山は、しばし見つめていた。
現実に戻ったはずなのに、胸の奥ではあの王の声や、美咲の瞳の光が消えない。
「……本当に、ただの夢だったのか?」
彼は迷わずUSBを差し込み、モニターに向き直った。
画面が明滅し、黒い背景に一行の文字が浮かぶ。
『扉は、再び開かれる』
次の瞬間、研究室の蛍光灯が一斉に消え、
闇の中からバスのエンジン音が低く響いた。
窓も壁もないはずの研究室に、
ゆっくりと――「エルフ行きバス」が停まった。
ドアが開く。
そこには、夢の中と同じ制服姿の運転手が立っていた。
「お待たせしました。向井山様、こちらへどうぞ」
心臓が高鳴る。
夢で見た景色が現実に侵食してくる。
向井山は一歩踏み出した。
現実か幻かもはやわからない。
ただ、再び始まる旅の予感に全身が震えていた。
異界行き
バスに足を踏み入れた瞬間、向井山甲山は全身を奇妙な浮遊感に包まれた。
車内には見覚えのある顔が並んでいる。
リュウ、ひびき、美咲、そしてエルハルトの姿――夢の中で出会ったはずの仲間たち。
「……やっぱり夢じゃなかったのか」
思わず呟くと、美咲がにやりと笑った。
「夢? 何言ってるのよ。私たち、ちゃんとここにいるじゃない」
運転手が声を上げた。
「発車します。行き先――王都」
バスの窓の外には、もはや研究室も街もなく、
無数の星が瞬く蒼い空間が広がっていた。
まるで宇宙の川を渡るように、バスは滑るように進んでいく。
エルハルトが甲山の肩に手を置いた。
「あなたは“扉を開いた者”。この世界に呼ばれるべくして呼ばれた。
そして……王が待っている」
その言葉に甲山の胸が跳ねる。
夢で見た、威厳ある王の姿が脳裏に蘇る。
バスの車内に、不思議な緊張が走った。
行き先はもう戻れぬ異世界――。
やがて、前方の窓に白亜の城塞が浮かび上がった。
⸻
王との再会
バスが静かに止まった瞬間、扉が自動的に開いた。
眩い光が差し込み、乗客たちは一斉に目を細める。
外には大理石で舗装された広場が広がり、その奥に天空へ伸びるような白亜の城がそびえていた。
「……ここが、王都」
エルハルトが厳かな声で告げる。
リュウたちが一歩外に踏み出すと、鎧に身を包んだ兵士たちが列をなして待っていた。
槍を突き立て、声を揃える。
「勇者の御一行、御到着――!」
その奥、黄金の階段を降りてくる一人の男がいた。
威厳に満ちた姿、王冠に刻まれた古の紋章。
リュウは、夢の中で見た人物を即座に思い出す。
「……やはり、現実に」
甲山が息を呑んだ。
王は近づき、リュウを真っ直ぐ見据えた。
「蒼炎の勇者よ。ようこそ、我らの世界へ」
広場に沈黙が落ちた。
ひびきも美咲も、息を呑んでその場に立ち尽くす。
王は続けた。
「お前が目覚めさせた炎は、この世界を救う光であると同時に、混沌を呼ぶ刃でもある。
選ぶがよい――守るために力を振るうか、それとも……」
言葉を切った瞬間、遠くから轟音が響いた。
空を裂くように、黒き竜の影が舞い降りてくる。
ドラゴン騎士団の紋章が、炎に照らされて揺らめいた。
王が低く命じる。
「勇者よ、見せてもらおう――その力を」
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