第21章
オーディション?
メンバーオーディション
迷宮への挑戦を前に、エルフ王ヴァルディリオンは言った。
「影の迷宮は容易くはない。汝らだけでは死地に赴くようなものだ。
よって――この都より、助力を選ぶがよい」
そう告げると、広間の扉が開き、数人の戦士や術士が入ってきた。
みな王直属の精鋭。
だがその中には、涼たちの目を引く個性豊かな者たちがいた。
1.弓の名手・セレナ
しなやかな体躯に金の長髪。冷静沈着だが、自分の矢の腕に絶対の自信を持つ。
2.格闘僧兵・バルド
筋骨隆々の巨漢。素手で獣を倒すと豪語するが、性格は子どものように無邪気。
3.影の魔導士・リスフェル
黒衣の青年。表情は読めず、どこかリリスを思わせる雰囲気を纏っている。
4.踊り子戦士・ミレイユ
双剣を操る軽やかな戦士。華やかな動きで敵を翻弄するが、どこか謎めいた笑みを浮かべる。
王は告げる。
「さあ選べ。共に死地へ赴く者を。だが、選んだ者次第で未来も変わろう」
仲間たちは顔を見合わせる。
オーディションのように、一人ひとりが自らの力を披露し始める――。
セレナの矢は空中のリンゴを百発百中で射抜き、
バルドは拳で石柱を粉砕し、
リスフェルは一言の呪文で広間の光を闇に変え、
ミレイユは舞うように剣を振るい、火花を散らした。
観衆は息を呑み、涼は拳を握る。
――誰を仲間に迎えるべきか。
選択の時が迫っていた。
選択の刃
沈黙が広間を満たす。
涼はそれぞれの候補の力を見ながら、胸の内で自問していた。
――自分の炎だけじゃ、この迷宮は越えられない。
――誰を選べば、みんなを守れる?
先に口を開いたのは翔だった。
「俺はリスフェルだな。影の魔導士……危険だが、魔獣相手には必ず役に立つ」
だが、美咲が鋭く言い返す。
「信用できないでしょ。あの雰囲気、リリスに似てる。裏切られるに決まってるわ。
私ならセレナ。冷静だし、弓の援護は絶対に必要よ」
「お、俺は……バルドさんがいいと思う」ひびきが小さな声で言った。
「すごく強いし、あの人、嘘をつくような人じゃない」
候補は三者三様。
涼に視線が集まる。
「……俺が決めるのか」
蒼炎がわずかに揺らぎ、胸の奥が熱くなる。
涼は一歩前に出て、候補者たちを見渡した。
セレナの冷たい瞳、バルドの人懐こい笑顔、リスフェルの闇に沈む微笑、ミレイユの妖艶な舞。
「……一人じゃない。誰を選んでも、きっと俺たちの未来は変わる。
けど――」
その瞬間、広間の扉が音を立てて開いた。
新たな影が歩み出る。
「待ちなさい」
現れたのは、深紅のローブを纏った女魔導士だった。
漆黒の髪を背まで流し、その瞳は赤い宝石のように光っている。
「この試練に、私も参加させてもらうわ」
場がざわめく。
エルフ王ヴァルディリオンが眉をひそめる。
「……リュシア、お前まで出てくるとは」
女魔導士リュシア――その名を知る者は皆、驚愕していた。
彼女はかつて森都を救ったとされる伝説の弟子。だが、長らく姿を消していたはずだった。
「さあ、選ぶのはあなただけ。蒼炎の子」
リュシアは微笑み、涼の目を射抜くように見つめた。
オーディションは思わぬ方向へと転がり始めた。
夢の果てに
エルフ行きのバスも、王の宮殿も、獣魔を操る桜井美咲の姿も。
すべてが鮮やかに存在し、彼の目の前で動いていたはずだった。
しかし、耳の奥に聞こえてきたのは、バスの停留所のアナウンスではなく、
ただの目覚まし時計の電子音。
「……はっ」
向井山甲山はデスクに突っ伏したまま、汗をにじませながら目を覚ました。
机の上にはコードの書かれたモニター、積み上がった資料、
そしてプロジェクト名 「異世界転送シミュレーター」 の文字。
そう――彼が開発を進めていたのは、夢のような異世界を再現する仮想世界システムだった。
自分が見た数々の冒険は、AIによって生成された世界の断片。
だが、それを体験した本人にとっては、まぎれもない現実だった。
彼は椅子にもたれ、深く息をついた。
「……夢、なのか。いや、もしかすると……」
ふと、デスクの端に置かれた小さなUSBメモリが目に入った。
そこにはラベルが貼られている。
《エルフ行きバス・完全版》
向井山甲山は思わず笑った。
夢か現か、その境界はあまりに曖昧で――
だが確かに、あの世界は存在していたと、彼の胸が告げていた。
オーディション?




