第13章
ここは…
白き少女
森の静寂を破るように、ひとりの少女が現れた。
血に濡れた戦場には不釣り合いなほど、白いワンピースが眩しく映える。
髪は肩で揺れ、瞳は不思議なほど透明で――だが怯えに濡れていた。
「……みんな、助けて」
その声は震えていた。だがプレイヤーたちの誰もが、ただのNPCではないと直感した。
――存在してはいけない存在。
剣士が低く問う。
「お前……どこから来た?」
少女は首を横に振る。
「……覚えてない。でも、知ってるの。女神を助けなきゃ、全部……消えちゃう」
仲間たちは息を呑んだ。
まるで開発者の言葉をそのままなぞるような口調。
その時、背後で乾いた笑い声が響いた。
「ふふ、面白いわねぇ。――この子を売れば、あたしは確実に助かる」
短剣を舐めるように撫でながら、リリスが一歩前に出た。
裏切りの気配が、再び濃く漂い始める。
少女は怯え、プレイヤーたちは構え、そしてドラゴン騎士団とエルフはまだ周囲を取り囲んでいた。
戦場は次の一手で、一気に瓦解する――。
裏切りの刃
「売る……?」
少女が小さくつぶやいた瞬間、空気が張りつめた。
リリスの笑みは紅い唇の奥で鋭く尖り、短剣の刃が光を返す。
「この子をドラゴン騎士団に差し出せば、あたしだけは助かる。そうでしょ?」
仲間たちの背筋に冷気が走る。
剣士が叫ぶ。
「リリス、正気か! お前も閉じ込められてるんだぞ!」
「だからよ!」
リリスが吠えるように返す。
「誰かが犠牲にならなきゃ、誰も助からない! だったら、あたしが生き残るために選ぶだけ!」
その瞬間、少女の瞳が淡く光を帯びた。
震える声が、戦場全体に響く。
「……だめ……裏切っちゃ……」
空気が震え、地面が淡く揺れ動いた。
エルフたちの槍が一斉に軋み、竜の黒き鱗がきしむ。
まるで世界そのものが彼女の声に反応しているかのようだった。
リリスは刃を握り直し、舌先で唇を舐める。
「へえ……やっぱり、ただのガキじゃないわけね」
プレイヤーたちの間に緊張が走る。
――少女を守るか、リリスを止めるか。
選択の一瞬が、彼らの命運を決するのだった。
裂け目
「邪魔しないで――」
リリスの声と同時に、彼女の姿が煙のように消えた。
「くっ、消えた!?」
剣士が叫ぶが、次の瞬間には背後から短剣の閃き。
タンク役の大盾が火花を散らしてそれを受け止めた。
「リリス! 正気に戻れ!」
大盾の男の叫びに、彼女は冷ややかに嗤う。
「戻る? ふざけないでよ。ここで死ぬか生きるか、選ぶのは自分よ」
再び姿を消し、影のように滑り込むリリス。
狙いは少女。
その瞬間――
少女の瞳が強烈な光を放った。
「来ないで!」
光の奔流がリリスを弾き飛ばす。
木々が揺さぶられ、エルフたちでさえ後退した。
リリスは地に転がりながらも、不気味に笑う。
「……やっぱり、あんたは鍵ね。女神を助けるって話、どうやら本当らしい」
仲間たちは少女を守るように円陣を組む。
だがリリスの瞳には、まだ諦めの色はなかった。
裏切りの刃は、再び彼らに向けられようとしていた。
いつ戻れるんだ




