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ミネラルウォーターの自販機

作者: 北見晶

『夏のホラー2025』参加作品、二作目です。


 容赦なく照りつける太陽は下界を一気に灼熱地獄に変える。

 そんな中、わたしたちの通う霧雨(きりさめ)高校にミネラルウォーターの自販機が設置されたのはありがたかった。

 理由は単純。タダだったので。

 何でも、ミネラルウォーターを製造している会社が試験的に設置したと担任の水木(みずき)先生が説明したが、こちらとしてはどうでもいい。

 これまで、マイボトルを持ってくるのも授業中に飲むのも許されていたが、正直水筒だけでかさばるわ重いわで参っていた。

「水中毒になるから、むやみに飲むのもやめておきなさい」

 大半のクラスメイト同様に、わたしも水木先生の注意を聞き流していた。


 異変に気づいたのはいつからか。

 それから二週間くらい経ってからだったと思う。

 確かニュースでも「熱中症に注意」なんてテロップが出るくらい、その時期は暑かった。

 でも妙なのは、校舎に入るとより熱気が絡みついてくること。

 通学用リュックに入れておいた水筒の中身を、塩を混ぜた熱いほうじ茶にしておいた自分を呪った。

 だって、冷たい飲み物を飲みすぎるのもよくないって忠告されたし、塩分摂取も重要と聴いていたから。ミネラルウォーターだけに頼るのもどうかと思ったのだ。

 渇いた喉を潤そうと、一口含む。

「……?」

 舌や頬の内側に、違和感が走る。苦味と痺れが。

 いつも通りの配合で注ぎ入れたはずなのに。

 水筒をよく洗ってなかったか、はたまた何かミスをしたか。

 我慢して胃に送る程、わたしは忍耐力はない。廊下にある水飲み場のシンクに流した。

「ひっ……」

 出てきたのはドス黒い液体。

 なんで? なんで? なんで? なんで? 

 頭の中を疑問符が乱舞する。

 それでも水を摂取したい要求は全身を巡り、たまらず蛇口を上げてほとばしる透明の流れを口で受け止めた。

 生臭さが鼻を刺すが、変な意地が五体に作用して水場から離れようとしない。

 やがて、孤独な戦いを終えたわたしは教室に戻る。

 無駄な意地を張らずにミネラルウォーターを買っておけばよかったか……後悔が頭をよぎるが、あのとき、そこに向かう時間も労力も惜しかったのだ。


 次の日、朝の会でアンケートが出された。

“ミネラルウォーターの自販機が設置されて、何かおかしなことが起きませんでしたか?”

 わたしは迷わずほうじ茶の件を書いた。

 さらに-ー家から持ってきたスポーツドリンクと炭酸飲料の状態も。

 父が会社の同僚からもらったという二種類のジュース。教室に入って味見したら、前者はまるでスライムみたいにドロッとしていたし、後者は飲み込んでしばらくしても針で刺された感覚が居座っていた。

 シャーペンを躍らせて、待つ。

 わたしの思いが記されたプリントを、水木先生が回収に来る。

 さて、どうなるか。


 数日後-ー

 臨時休校ののち、ミネラルウォーターの自販機は撤去されていた。

 わたしとしては休みになってラッキーだったが、キナ臭い噂も入ってくる。

 自販機を撤去しようとした業者の人たちが怪我をしたとか、校長先生が高名なお祓い師にお祓いを頼んだとか、ミネラルウォーターを大量に飲んだ生徒は馬鹿になったとか……

 とりあえず事件は解決したのだろう。

 塩入りほうじ茶を飲みながらわたしは結論づけた。


 絶対に気のせいだ。

 流しに処理したほうじ茶が赤く見えたのは。そして、一瞬えずいた風情の音がしたのも。 

 

 

  


 読んでいただきありがとうございました。

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