表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

01ー01)統合失調症

 人は生きている限り、何かを持っている。

 夢や希望。自信や【スキル】。それが他人とは違うほど、強い意味を持つのだろう。

(かく言う(フレニア)も、自慢じゃないが100人に1人という珍しいものを持っている。それはーー)

「ふざけんな! 誰が精神障害者(できそこない)の持ってきたアイテムなんぞ買い取れるか!!」

「ぶへらっーー!!」

 薬屋の店主から店の外に蹴り出され、フレニアは朝日が昇る青空を仰ぐこととなった。

(そう。本当になんの自慢にもならない、"統合失調症"という精神疾患だーー)


「痛ぇ〜。あの店主、思いっきり蹴り飛ばしやがって……」井戸水で後頭部を冷やしながら、フレニアはケガの具合を【診断】する。

 幸い瞳には"コブ"の文字が見えるだけ。重症には至らなかったことに安堵して、フレニアは日雇い仕事に向かう。

 今日の仕事は村の周辺に現れる野犬や小鬼(ゴブリン)の退治だった。モンスターを退治するなら本来冒険者(プロ)に任せるべきだが、ギルドも無いこうした田舎では日雇いにお鉢が回ってくるのだ。

 他の作業者が知り合い同士でチームを組む中、フレニアに声をかけるものはいない。

 いつものことと小さくため息を吐いてから自前の銅剣を手に取ると、彼は単独で作業を始める。今朝の騒動のように、フレニアが"統合失調症"と知った途端に周りの人間が距離を取ることは珍しく無かった。

 しかし森の中で、フレニアは多対一でも問題なくゴブリンを切り伏せていく。なぜなら彼には【抜刀術】という戦闘系スキルがあるからだーー。


 魔力が満ち溢れるこの世界には、魔力を源にして超常的な力を使用できる【スキル】という能力が存在している。スキルは多種多様であり、高ランクスキルを上手く活かせば立身出世も夢では無い。

 フレニアもいくつかのスキルを有しており、その中には希少性の高いAランクに属する【診断】というスキルも含まれる。これは調べた対象のケガや病気の有無などが瞳に映るという、非戦闘系ではあるものの汎用性の高いスキルである。過去にはこのスキルによって平民から王宮の専属医にまでのし上がった者もいたそうだ。


(しかし【診断(このスキル)】を得て最初に診えたのが自分の精神疾患だなんて、とんだ皮肉だな)

 フレニアは返り血を拭う最中に独り自虐して笑う。

 精神障害者と判明して以降、彼は周囲から敬遠されるようになった。そして今では日雇いの仕事でなんとか生活費を稼ぐ日々というわけである。


「おい兄ちゃん、せっかく仕事仲間になったんだし今夜どうだい?」休憩中、他の労働者が酒を煽る仕草をこちらに見せる。

 しかしフレニアは「結構だ」とそっけなく返して作業を続ける。

 男たちはそうした態度に気を悪くしたのか、「空気が読めない奴」「せっかくおごらせてやろうと思ったのによ」と悪態をついて離れていく。どうやらこちらに酒をたかる気だったようだ。

 そんな男たちの態度に、フレニアは怒りも呆れも無かった。それは、彼の病気に起因する。フレニアの持つ統合失調症には様々な症状があるが、その中には感情の波が無い、人間関係に無関心なども含まれる。

 それからもフレニアは孤独なまま、午後の仕事に戻るのだったーー。


 日が暮れる頃、フレニアはようやく帰途に着く。

 自身を診ると"疲労"の文字がすぐに浮かび、幼馴染の待つ宿へ向かう足は鉛のように重い。

 1日働いても銅貨十数枚。その僅かな賃金にフレニアは気が滅入ってしまう。なにせ彼よりも成果の少ない男たちの方が給金が多いのだから無理もない。

 ただでさえ少ない稼ぎなのに、精神障害者という理由でさらにピンハネされてしまうのだ。

(それでも仕事があるだけマシだってんだから酷い話だよな。かといってどこの店も俺が精神疾患だって分かると雇ってくれないし)

 これまでの涙ぐましい就職活動を一瞬思い出すも、フレニアは頭を振って忌々しい記憶を払い飛ばす。

(いかんイカン! 病気のせいかどうも悪い考えばっかり頭に浮かんじまう。もっと前向きなことをかんがえよう。そうだ! 少ないが少し金は余るし、明日はルキミアに何か土産でも買ってやるか)


 ところが宿の前で予想外の光景に遭遇する。部屋の中で待っている筈の幼馴染が、宿()()()()両膝を抱えていたのだーー!

「ルキミア!? なんでこんなとこにいるんだ?」

 慌てて駆け寄ったフレニアが少女を【診断】すると、"低体温症(軽度)"や"空腹"と判明した。

「ルキミア、お前いつからここにいたんだ?」

 診断結果から急いで外套(コート)を掛けたフレニアに、少女は力無い笑顔を見せる。

「お昼くらいから、かな。ごめん、()()バレちゃった……」

 そう告げる幼馴染の背後には、宿に預けていた2人の荷物が無造作に置かれていた。その状況に、フレニアは成り行きを理解する。つまり、宿屋の主人は()()を病人という理由で追い出したのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ