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父が母を殺した日、僕は外科医になった  作者: そっと外科医
白衣への憧れと、「呪い」
9/9

過去との再会

それでも、僕は立ち止まることができなかった。


いつしか「ぼくも医者になりたい」と言い始めてくれた息子にとっても、明るい未来の手本を示したい。


そして僕が折れてしまったら、両親が確かに、まっすぐに生きてきた証を、全て否定するような気がしていた。


自分を奮い立たせて走り続けた。

誰かの評価が欲しかったわけではない。

とにかく自分に負けたくなかった。


いくら結果を出しても、満たされることはなかった。


何年経っても完璧を演じ切れない僕。

それでも患者さんは「ありがとう」と言ってくれる。


その言葉に時折申し訳なさを感じながらも、

その瞬間が僕の存在を優しく、かすかに肯定してくれるかけがえのないものだった。


病院と家を往復するだけの毎日が続く。

三日三晩、病院から出ないこともあった。


けれど相手はいのち。


手を尽くしても、何一つ落ち度がなくても…

それでも失ってしまうことはあった。


ありがとうよりも、失った顔ばかりが心に綴じられていった。


気付けば、一番近くにあって一番尊い小さないのち。

幼い我が子が彩る何気ない日常を見つめる時間も、数えるほどしかなくなっていた。


「今しかない時間」のほとんどを捧げて、

僕は一体どこへ向かっているのだろう。


そんな違和感が、ぼんやりと心に浮かびはじめた。


けれどそんな疑問には蓋をしなくてはいけないと思い込んでいた。


今思えば、もう限界に近かったのかもしれない。


そうして働きながら10年も経たない頃、また一つの小さな試練が訪れた。


父が「おつとめ」を終えて家に戻ってきたのだ。


あの日について、それからについて、聞きたい事は、山ほどあった。


けれど、触れてしまえばこちらまで引きずり込まれそうな闇が、その背後に見えた。


とめどなく浮かんでくる


「どうして?」


誰よりも辛かったはずの父にそんな疑問をぶつける気にもなれず、あえて普通に接した。


まるで、あの夜の続きのように。


弟もまた、働き始めてまもなく結婚し、子供がいた。


「急におじいちゃんだね」


そう言いながら笑う僕たち兄弟は、父の目にはどう映っていたのだろう。

あの朝の警察官のような、白々しい明るさが透けてみえていたかもしれない。


それでも、あの日のまま止まってしまった関係を築き直そうと、必死だった。


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