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「父上、これは生肉ではありませんか?」

 能天気な乃蒼も流石に引いたのか、迦允に尋ねる。

 迦允はにこやかに「そうとも」と頷いて箸を取ると、なんのソースもつけずにパクリとその肉を血液と共に頬張った。

「乃蒼の言葉を借りるなら『私もよく皇帝陛下に献上するメニュー』でね」

 生肉を咀嚼し、飲み込んで続ける。


「我々なら『A5ランクのシャトーブリアンを』と言いたい所だが、キミ達が本気で私のあとを継ぐ『錬石術師』になりたいと言うのならば、絶対的にこの生肉の味を覚えてもらわなくてはならない」

「なんでだよ」

 迦允の、いきなり飛躍したとんでも理論に海流は思わずツッコむ。

 

 迦允には、それは聞き慣れた問いなのだろう。逆に愉快そうに海流を見た。

「うん?。いずれキミ達がお仕えする陛下やあの子は、火が通った食べ物は一切受け付けられない体質なものでね。キミの亜人のクラスメイトや友人にもしばしばそんな子が居るだろう?。

 彼らには我々の方が進んでこのような生肉を食して構造理解し、再現して造り出してあげるのが手っ取り早いんだ」

 そう答えると迦允は至極満足そうにまた一枚、皿の肉を取り上げた。


「そう言うわけで、これが本日のViande。メインの肉料理だ。

 これは精肉の専門家と私が厳選した近江牛の生食肉の中で一番旨い、サシの入りが少ない赤身のモモの部位だよ。

 肉の旨味が凝縮されている赤身だから、噛むほどに味わいが増す。

 まあ騙されたと思って一度口に運んでみなさい」

 そう言って迦允はつ、と手にしていた皿を海流に押し出した。


「ユッケならイけっけど」

 海流は内心うぇぇ……となりながら生肉を見下ろす。

「……卵とかソースとかねえのかよ」

「無いよ。あの子はそんな物は邪道派だ」

「はあ?」

「ちなみに陛下の今の好みはハーブミント味らしい」

「はあああ??」


 ふざけんな。アイツの好みなんざ知らねーよ。

 てかこっちはまだ義兄弟の話でキャパオーバーしてんのに、肉の味なんかわかるわきゃねーだろ!。


 そう心の中で悪態を吐きながらも、促されるまま海流は箸を構えておそるおそる生肉を取り上げる。


 肉を唇に触れさせ、意を決して噛む。

 ゴムみたいな感触かも?と想像していたがそうでも無い。

「……まあ、意外といける?」


 迦允が厳選したと言う最上の生肉だけあって、噛めば噛むほどにじんわりと淡く甘さが広がり、口の中でほどけて消える。

 とろける。

 血の滴りは気になるが、飲み込めない事はないと海流は思った。


 だがやはり醤油くらいは欲しい、かもしれない。

 んー?ワサビも合うだろこれ?。

 薬味の想像してたら肉の甘さがより際立って来た!。

 肉。生肉。

 ……何気に割と美味いのでは??。


 海流は2枚3枚と食べ進める。


「良い食べっぷりだね、海流。ならば第一関門は突破かな?」

 迦允はにこやかに海流を見やる。


「ボクは遠慮します」

 乃蒼には無理だったようだ。

「たとえ父上のすすめでもこればかりはいただけません。せめてレアステーキに。

 衛生上、表面だけでも火を入れるべきです」


 乃蒼はハンカチで口元を押さえながら気持ち悪そうな表情を隠そうともせず、肉の乗った皿を莎丹に押しやった。

「莎丹、料理人にこれを持って行って『焼け』と伝えろ」

「御意に」

 莎丹は頷き乃蒼の皿を取りメイドに渡す。メイドは急ぎ足で晩餐室からキッチンに向かう為に消えていった。


「おや乃蒼はギブアップかい?」

 迦允は綺麗に上品に生肉を平らげると、残っていた真紅のしたたりもバゲットで拭い取って口に運び、赤ワインで喉を潤した。


「だが、その調子では海流を支える『錬石術師』の道も遠いように思うが、いかがなものかな?」

 迦允はいつものように純粋な笑顔で乃蒼に話しかける。

 どうやらその仕草は乃蒼の神経を逆撫でたようだ。

 弟の眉がビキリ!と引き上がったのが海流にも見えた。

 おー、なんか。嵐が来る予感がする。


「御冗談を」

 乃蒼は内心の憤りを抑える風で迦允に言いつのった。

「父上。幾度も訴えておりますが櫻井の全血族一致の総意で『錬石術師』の頭目はこのボク『乃蒼』だと決まっております。このクズに肩入れして『決選投票』などしても無駄ですよ。櫻井の血族は皆、ボクに票を入れると意気込んでおります」

 乃蒼が肩を震わせて心の底から怒っていた。


 そんな乃蒼に、海流は今のところ冷静だった。

 まあ俺様が乃蒼の立場なら怒るわ。わかるー。


 クソ親父は悪気は無いんだろうがたまに俺様の肩を持つみたいに乃蒼を煽るよな。

 てか乃蒼の奴、票固めは一応やったのか、ごクローさんなこって。

 海流は日々聞き飽きたセリフだったので、いつも通りに特に気にせず肉を頬張り続けた。


 美味しこの肉。

 肉に罪無し。


 しかし迦允はいつも通りにと捨て置く気は無かったようだ。


「はて?」と

 迦允はそれは不思議そうに身を乗り出して辺りを見渡した。


「この場に『クズ』と言う名の者は居ただろうか?。海流は知っているかい?」

「は?知るかよ」

 分かってるくせに、食えねー親父だぜ。

 軽く海流が睨んで返すと迦允は「これは由々しき事態だね」と肩をすくめた。


「乃蒼」

 迦允が乃蒼に、一段低いトーンで語りかける。

 とたん、周囲の空気がスッと冷たくなったように海流は感じた。


 親父?。


 いつも穏やかな迦允がこのような雰囲気を纏う姿はなかなか見た事がないので、海流も乃蒼もビクりと動揺する。

 何だ?何が始まるんだ?。

 

 迦允は己付きの執事に目の前の皿を下げさせるとテーブルに肘を付いて顔の前で指を組み、乃蒼を見やった。

 

「『決選投票』とは、一体何だろうか?。

 櫻井の現頭目たる私の預かり知らぬ所で誰が?何を決めようと言うのかな?。

 私はそれら一切を承服した覚えはないが?」

「そ、それは……」

 思わず乃蒼は莎丹に助けを求めて視線を彷徨わせた。

 莎丹も戸惑っているようで「私めには何も分かりませんが……!」と慌てふためく。


「答えられないのなら私が答えようか?。全て莎丹の入れ知恵だね」

 迦允は組んでいた指を解くとスッと右手を軽く上げ、パチンと指を鳴らすとバッサリと乃蒼と莎丹を切って捨てた。


「懐かしい出来事だ」

 迦允は眼鏡の奥から鋭く莎丹を見据えた。

「幼い私がリル・ダヴァル王国を追われた時。莎丹、お前は我が弟の亜鈴に付いて私の母と共に父に退位を迫ったね。

 要求を飲み、玉座をから降りる父へ罵詈雑言を浴びせかけて威嚇し追い立てさえした。

 私達が皇国に亡命した後も、亜鈴派の者達が殺戮武器商会に成り果てた時も『率先して櫻井の異能を行使していた』と密ませていた間者から聞き及んでいるよ」


「そ、それは違います迦允様。

 その頃の私めは亜鈴様や唯風様に親族の命を握られておりまして仕方なく……!」


「知っているとも。キミの血族は実に9代に渡りリル・ダヴァル王国に尽くしてくれた最も信頼の置ける血族だよ。キミは亜鈴と母にそれはよく尽くした。

 だが、私が亜鈴派達の悪行に業を煮やし断罪すべく立ち上がった時。

 皇帝陛下に願い出て、私が愛乃様のご血族よるお力添えの約束を取り付けたと知るや、亜鈴派を真っ先に裏切って私に命乞いをして来たのには少々驚いたが。

 戦勝後。私が座った亜鈴達の血で色彩った血塗れの玉座で私が組んでいたその足にすがり、涙ながらに『自身が置かれていたと言う状況』とやらを訴えて、以後は私に生涯の忠誠を誓うと言うから許してやったのが記憶に新しいね」


 淡々と昔話をしているが言外に怒りが滲んでいる風な迦允に乃蒼が困ったように言い募る。

「父上、僕の話も聞いてくださいませんか?違うのです、莎丹は私の事を考え……」

「それは私の発言を遮るに値する言葉だろうか?。キミこそ私の話を最後まで聞くべきだと思うが、いかがかね?」

「っ!…………う」

 乃蒼は押し黙る。


「……沈黙は了承と捉えるよ。

 さて、ではその後の事だ。

 私が皇国に亡命してこちら、新たに興した櫻井の家で私を守り育ててくれた家令が引退する事も重なって、莎丹に家令を引き継いでもらったね。キミは今日まで存外よく尽くしてくれたと私も思うよ。

 降嫁にあたり聖良の異能を封じた所為で目を開く事が出来なかった芝蘭の目にもなってくれた。

 礼を言うよ。

 海流が創造神様にも創世神様にも拒絶された日までについては」


 お、俺?。

 いきなり挟まれた自身の名前に海流は驚く。


 同時にギリッと乃蒼に睨まれたので「こんなの貰い事故だろ」と小さく言い、睨み返しながら海流はうんざりとして舌打ちした。

 迦允の演説は続く。


「あれからキミは芝蘭に尽くす振りをして暗に第2子を産むよう誘導した。

 圧をかけたとも言っていいだろう。

 ことあるごとに「次のお子様なら必ずや!」と、私にも芝蘭にもいたわりの言葉をかける振りをして陰で海流を邪険に扱った。

 私がそこでキミの思惑に気づいていればと悔やむばかりだが、はたして乃蒼が生まれ彼が櫻井の異能を発現したと知るや、櫻井の家令の仕事を部下に丸投げして乃蒼付きの執事に成り下がった。


 キミは乃蒼に亜鈴を投影したのかな?。

 海流を蔑ろにし、乃蒼に海流への侮蔑の種を植え付けたね。

 種は芽吹き、乃蒼はそうあれかしと望んだように、乃蒼はキミの思い通りに動く傀儡となった。

 莎丹、ここまでの話で何か反論はあるだろうか?」


 莎丹は幾分か平静を取り戻したのか挑戦的には笑った。

「もちろんです迦允様。私めが亜鈴様に付いたのは先刻申し上げました通りやむを得ぬ事態だったからで、私は決して乃蒼様に亜鈴様を見出してなぞおりませぬ。

 乃蒼様が櫻井の次代の頭目を継げるようなお力を蓄えられたのは、須く乃蒼様のお人柄とたゆまぬ努力の結果でございます。

 私めの事は自らの過去が招いた事象ですので何を言われようとも構いませんが、乃蒼様をクソカ……海流様と同列に並べて話されるのは心外にございます」

 莎丹と、晩餐室にいた他の使用人も揃って同意の頷きを返す。


「ありがとう莎丹。皆も、君たちはボクの宝だ」

 乃蒼は感極まり涙を浮かべる。


 クソッタレ共が……。

 海流は唇を噛み締めた。


 親父ももう止めてくれ。

 俺がみじめになるから、

 頼む。


 もうこの場から逃げ出したい海流の隣で、迦允は戯けるように両手を上げて降参のポーズをとった。


「そうか、まいったな。キミが乃蒼をここまでの愚か者にたらし込んでいたとは。まったく度し難い邪悪の成せる業としか言いようがない。芝蘭には詫びても詫び切れないが、私の完敗だ。

 征くがいい、乃蒼を連れキミの気の済むまで。

 ただし言っておくが」

 迦允はそこで言葉を切ると冷徹に笑った。

「そこにキミが座りたいだろう『玉座』は無い」


「なにをおっしゃれておられるのやら、迦允様が座す櫻井の頭目こそ『玉座』にございましょう」

 慇懃無礼に瞳を光らせた莎丹に、迦允は座っていた椅子に深く座り直し、澄まし顔て答える。


「確かに。私は『玉座』を残してリル・ダヴァル王国を解体した。

 だが肝心な事をキミは忘れてはいないだろうか?。

 今、私達が住まうこの地こそ、皇国に併合されたリル・ダヴァル王国の国土だったと言う事を。

『櫻井』は、『錬石術師』は皇国の臣下に下った。


 もはや私達が今仕えているのは神々ではない。

 もはや『櫻井』が他国の王と肩を並べ、語らう事は二度と無い。


『「玉座」をもって胸壁となすことなかれ』と言うが、

 それでもキミは『玉座』を求めるのかな?」


「ええ。もちろんですとも。私めが育て上げました乃蒼様であれば、迦允様亡きあとは芝蘭様がそこのクズがなし得るとおっしゃった以上の『錬石術師』に更なる変化と繁栄をもたらす『者』に成られると、私めは信じておりまするゆえ」


「私の亡きあとか……。それを想像しろというのかい?。

 だが私はあと四千年は生きる気だし、まだまだ現役で宰相を続けるつもりなのだが?。

 なんて冗談は置いておいていよいよキミも本性を現して来たようだね。


 さて乃蒼は?私は心からの言葉が聞きたい。

 荒唐無稽な莎丹の妄言は無視するとして、今の『櫻井の頭目』の職務は政務をどう考えているかな?。

 もちろんインフラの整備から物流に、文化学力の向上まで多岐に渡るこの労苦をだよ?。

 更にはこの皇国の宰相として陛下の暇つぶしや殿下の暴走を止める事も何故か私の役目にされている今日この頃を、だ。

 

 海流もそろそろ就職が視野に入った学年に上がるから、この際だ。心をぶちまけてはっきりと言う。

 いやはや。まさに疲労困憊だよ、私?。もはや吹っ切れた。悩む事すら馬鹿らしくなった。

『忙殺』の文字通り、今私が任されている仕事量は私1人が捌き切れる量を遥かに超過して働いている。

 このように家族と食卓を囲むと言うささやかな願いすら月に一度叶うかどうかだ。

 それでもこの座は誰にも譲る気は無いがね。


 おっと、想像の話だったね。

 もしももしもだよ?乃蒼。

 私があの座を降りる日が来た時、私が担ってきた政務のそれらを東雲侯爵の兄弟のように仲良く海流と役割を分かち合い、共に櫻井を盛り立ててゆく気は無いかな?。幼き日のように海流の手を取る気は無いかな?」


 迦允の問いに乃蒼は大きくかぶりを振って叫ぶように言った。

「ありません!あり得ません!。

 莎丹の言葉も真実です!。

 ボクの真名は「ノアシエル・ル・ロワ・ソレイユ・サグラダ=リル・ダヴァル」!。

 ボクこそが『錬石術師国家 リル・ダヴァル』の『輝ける王』と名付けたのは他でもない父上でしょう?。つまりはかの王国を再興する事出来るのはボクだ!。

『無能』の兄の『カイルアーク』じゃない!僕『ノアシエル』しか成しえないんだ!」

 そう決意表明すると乃蒼はギリリと海流を睨んだ。


「ケッ」

 海流も毒づき返す。

「んなもん、俺様こと

『カイルアーク・リュニック・ル・ロワ・トレ・クレティアン・サグラダ=リル・ダヴァル』

『いとも敬虔なる信徒たちの、王の中の王』様もごめん被るぜ」

 海流も迦允や乃蒼の神経を逆なですることを知っていてワザと自身の真名を口にした。

 案の定、乃蒼は顔色を赤に青にコロコロと変えて怒りをあらわにしている。

 ザマぁ!すぎて、虚無すぎて涙が出る。

 海流は大きく長くため息をつけ、続けた。


「就職が視野に入った……だぁ?。嘘つけ!俺は卒業すらできねーよ!。

 学科は良くても実技はさっぱりだしよ!」

「そうだね。だが中退の何が悪いのかな?。成績なんて人物を測る指標にすぎないよ。

 むしろ私はこう考えている。『頭目に必要なのは成績ではなく人徳』だとね。

 私は学園でキミがどれだけクラスメイトに愛されているか私が知らないと思ったのかい?。

 であるならばこそキミは私に付き、私の行動を見て頭目の職務のなんたるかを肌で学んで欲しいと願っているのだよ」

「はあ?」

 海流は呆れた。


 今まで海流がもがき、足掻いてきた人生をすべて否定されたようでもはや言い返す気力も起こらない。

 クソ親父の頭の中はどうなってやがんだ?。てんで話になんねーわ。

 がっくりと力が抜けてしまい首を振る海流を押しのけ、乃蒼は食い下がる。


「父上!…クソ……いえ、兄も嫌がっております。それらはボクが引き受けますからどうかボクが頭目になるべき道をお示しください」

「そうか……ならば仕方ないな」

 迦允は2人の愛しい息子たちへ寂しそうに眼鏡を上げ直し、答えた。


「まったくもって非常に遺憾であると言わざるを得ないよ。

 並びに2人とも真名を軽々しく開示した行為についても残念極まりない。

 海流には逐って処罰の沙汰を下すが、まずは乃蒼から行こうか。

 私は海流こそが私のあとを継ぐ『者』だと皇帝陛下に奏上し、宣下をいただき正式なる『櫻井』の継嗣だと喧伝する。早急にキミ達の思い描く『未来』を全力で阻止しよう」

 そして迦允は不敵に笑った。その時だった。


「た、大変です莎丹様!調理室に曲者が居りました!。すれ違うメイドも見知らぬ者達ばかりで、ど、どうしたら宜しいでしょうか?」

 先程莎丹の指示で肉を焼くために調理室に走ったメイドが、皿だけは守りぬきながら震えながら晩餐室に戻って来たのだ。


「曲者ですと?!当家のセキュリティは皇宮と同等クラス。蟻の入り込む隙間も無いはず……?。

は、もしや迦允様!?」

 焦りを滲ませて主人を振りかぶる莎丹に、迦允は口角をほんの少し引き上げる事て返した。


 あー、さっき指を鳴らした時か。

 海流は虚な瞳でぼんやりと父を見る。


 迦允は『錬石術師』の長けた者なので無詠唱で異能を行使するが、感情が昂った時は癖なのか指を鳴らす事で錬石する事がある。


「うん。先程乃蒼派の者と私に仕える者とを転移陣を造って入れ替えた。もちろん『私の執事』が丹念に『今後キミは誰に仕えるか』の聞き取り調査をおこなって排除したから安心して欲しい。

 キミ達は櫻井の血族は皆乃蒼を支持すると豪語していたが、存外私は人気があるようでね。9分9厘の血族が私を支持すると表明したよ」


「父上、それは今はまだ父上の御代ですから……」

 乃蒼はへりくだった様子で迦允の機嫌を取ろうとする。

 迦允はすげなく首を振り

「御代などおこがましい事言い方は止めなさい。私は王では無い。一介の、ただの『錬石術師』達を取りまとめる長に過ぎないよ。

 ああ、それと。排除した者は郊外に新しく造り変えたセカンドハウスに転移させただけだ。まあ今頃は慌てふためいているだろうから、この夕食が終わったらキミ達も移って落ち着かせてあげなさい」

「ち、父上?」

 声音こそにこやかだが裏に怒気を孕むことを隠そうとしなくなった迦允にあてられ、乃蒼の顔から色が消えた。


「ちょうどセカンドハウスの運営に適した人材を探していたから渡りに船だと言う事だ。これから乃蒼派の者はそちらでそちらの思惑を育てれば良い。

 おっと、その前に。

 当家を取りまとめる新しい家令と使用人達を一部紹介しておこう。今後、キミ達との折衝は彼らに一任する。

入りなさい」


 迦允がパンっと両の手を打つと晩餐室の扉が開き、数名の者とデザートをサーブする者が現れた。


実香ミカ・Lと申します」

羽生ハニ・Lと申します」

深々とこうべを垂れて、若き青年使用人達はハキハキと名乗った。


「彼らは私が皇国に亡命した折に私達に付き従って共に皇国に亡命してくれた、我が家に『10代』に渡り仕えてくれている『流志布ルシフ・L』の血族だよ」


「「私達は流志布のおじじ様が亡くなるまでの間おじじ様に付き、従僕としてご主人様方の身の回りのお世話から領地経営など、家令としての薫陶を受けて参りました。

 まだまだ未熟な私達ですが誠心誠意努めたく存じます。海流様、よろしくお願い申し上げます」」

 新たな櫻井家の家令達は一層深い礼を以って海流と迦允の前に跪いた。


「き、キサマの面は亜鈴様の前で見た事があるぞ?!。亞暖派の間者だったのだな?!」

 莎丹がツバを飛ばす。


 実香と羽生は膝立ちのまま涼しい顔で莎丹を見やると

「間者だなど。相変わらず口がお悪いですね、『サタナ・L』の伯・父・上♪」

「あー、そんな血族も居たね?。Lの血族は多いのによく覚えていたな。羽生」

「アホの父『アザ・L』と一緒に造反したかどで除籍された奴の名前だよ?私達まで一緒の縊りにされたくないじゃないか?」

「そういうことならオレも覚えておくか。えーっと。『Lの血族の名折れさん』だったかな?」

「だいたいあってるよ」

「だいたいあってるか!」

 と、けらけら笑いあう。


 莎丹は「キー!」とも「イー!」ともつかない声を上げて地団駄を踏んでいる。

 迦允はとどめと言わんばかりに莎丹に手を伸ばして言った。


「キミのattiranceになるかは分からないが、キミが座りたがっていたあの血塗れの『玉座』をセカンドハウスに据えておいた。

 もはや王国に在った頃のような華美な装飾は廃した、ただの椅子にしか過ぎないが。

 その椅子は永く私の執務室で、二度と身内で仲間割れなど起こさぬようにと自身を戒める為に在ったのだが、こうなってしまっては何の意味も成さなくなったからね」


「おのれ、迦允……!!一度ならず二度までも!!」

「莎丹?お前は父上に対して何という口のききかたを……」

 ギリギリと歯噛みし馬脚を現して憤る莎丹に、怖じる乃蒼。


 いい加減に…。


 海流はゆらりと立ち上がり、仄暗い闇の奥から言葉を振り絞るようにして叫んだ。

「テメェら、いい加減にしやがれ!!」


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