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【冬の娘】-5 枯死の言霊


その後、「手折られる命が忍びないのなら」、と、王が王城の庭園を丸ごと歌姫に捧げたという話を伝え聞いた。

北の国にあって常に花の咲き乱れる王家自慢の庭園。一緒に家庭教師から逃げ回って、王妃様の命日の時には涙ぐんで、毎日他愛のない話をした思い出の庭園。

ああ、それすらも貴方は彼女に捧げてしまうのですね。

そこで彼女は、王の為だけに歌を歌うという。


その歌を聞くときは、近衛の私すら王から庭園の薄い扉一つを隔てた場所へ離された。

何かあっては、と言ったところで彼の不興を買うだけなのは明らかだった。何より歌姫フレイアに紙切りの小刀すら扱えるわけがない、というのが多勢の意見だった。

私は黙々と銀の剣の手入れをする。鎧の隙間を貫き、首筋を掻き切る、鋭利な細身のものだ。


王は歌姫をまさしく掌中の珠のごとく慈しんでいたが、視察などでどうしても王城を離れなければならない時は必ず私を歌姫の傍へ侍らせた。

歌姫の身を案じているのだろう。女でありながらその武を認められた者として、その信頼に未だ応えられるのだと思うと哀しくも嬉しい。だが、彼に付いてゆけないことが、その要因となった歌姫が憎らしくもあった。




そんな私の醜い心も知らず、フレイアは常に嬉しげに私を訪ねた。

丈夫な卓と来客用の長椅子、本の詰まった書棚の他に、私の部屋には彼女のために柔らかなクッションと茶会のセットが用意されるようになった。


幸いなことに彼女は私と共にいるときに彼についての事柄を口にすることはなく、ただ他愛のないおしゃべりや小鳥のような歌を口にしていたが、ある日、私の卓の上にある一輪の花に気がついた。



「この花は、随分と長い間活けられていますのね。」



無邪気に、零れそうな瞳で見つめる先には、あの日アルから贈られた花があった。

歌姫に拒まれたが故に私にめぐまれた花。

それでも、『枯れないで』、と言霊の力まで使って未練たらしくこの手に留め置いている花。歌姫の長く柔らかな髪と同じ色。


「それは……」


何を言えというのか。怒りと憎しみと哀しみ、情けなさに唇を噛んだ私に




「あなたの傍ならば、花さえも永らえようとするのですね。イルヴァ様。」




向けられた言葉と笑顔は、あまりにも清廉すぎた。その先にある薄紅の花さえ色褪せるほどに。



“また、来ても良いでしょうか。今度はこの様な理由もなしに。”

そんな言葉と共に彼女が部屋を出て行くまで、私は自分がどういった受け答えをしていたのかほとんど記憶にない。


それでも、彼女が去った後、私は薄紅の花に向かって囁いた。





『 枯れてしまえ。 』



忌まわしき“言霊”。無理矢理に(ながら)えさせていた花は、一瞬で萎れ朽ち。


――――――――そして、歌姫フレイアが私の元を訪れることは、二度となかった。




自分では王道をいっているつもりです。

明日からちょっとネット環境のないところへ行くのでいっぺんに上げようと思ったのですが、これは果たして切りがいいのか悪いのか。

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