表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/54

【夏の愚者】-18 最後のぬくもり

多大な戦果とそれに倍する戦禍を引き連れ、帰ったイルヴァの目は何を見ただろうか。


活気が絶え、半死半生の病人のような王都。

家族を、友を、恋人を失った困惑と悲嘆と怨嗟を閉じ込めた街並み。

尽くしたはずの俺のねぎらいの言葉もなく、城内には争いにより私腹を肥やした蛆虫どもが蔓延り、王都を囲む灰色の石壁には、錆びた赤い色。息子が全て先の戦で戦死した事を嘆いた女を、俺が見せしめに首をはねさせた。

王の聖色たる“赤”は、もはや炎の色から血反吐の色へその意味合いを変えている。



―――――フレイアがそのイルヴァを自室へ招き入れたと知って、俺はしばらくの後フレイアを訪ねた。


発作を起こされたのです、と言う侍女の言葉のわりには、安らかな寝息。

震える睫毛。流石に痩せた頬。薄紅の髪に埋もれ、まるで花の中にいるような白皙。


何か、夢を見ているのか―――――どこか哀しげな面。その、頬につ、と涙が伝った時。



俺は、思わずその頬に手を伸ばしていた。



柔らかな感触。病をえて血の気の失せた、それでもすべらかな頬。

拒まれ続けていた俺が、初めて触れる頬。


その感触に戸惑いながらも、俺はそのまま頬に伝った涙をぬぐった。

温かい涙は、零れてしまえばすぐに冷たくなる。

ふ、と眉を寄せた少女。けれど、その瞼が開く事はなく。

安堵と残念な気持ちを同時に抱きつつ、俺はそっとその手を離した。



――――――初めて触れた温もり。最初で、おそらく最後になるだろう感触。



すぅ、と一際深い眠りへと堕ちてゆく少女。

緩やかに上下する胸、微かな歌と雪の気配。




彼女が見ているのは、冬の夢だ。なんの根拠もなくそう思った。



フレイア編の微妙な違和感とリンク。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ