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【夏の愚者】-1 赤金の少年

誰に許しを乞えばいい。どうやって愛を乞えばいい。

手のひらの雪は消え、手折った花は萎れる。そんなことは知りたくもなかった。

誰か教えてくれ。

どうすれば、この手はなにかを掴めたのか。





◆盛夏:赤金の血の愚者は乞う




大陸の北方に覇を唱えるノルヴィーク。その建国の歴史は、実に伝承(サガ)の御代にまで遡る。

曰く。

かつて、大陸の北方は雪の山脈と深い森に覆われた、霜の巨人の支配する土地だった。

人々は微かに森が途切れた空き地に、荒れ野に、息を潜めるように住まうのみ。

絶え間ない寒波。常に暗い空。霜の巨人のしわぶき一つにも怯えて暮らす日々。

そんな人々のために、ある時一人の勇者が立ち上がった。勇者は雪色の外套を纏い、矮人(ドワーフ)の鍛えた斧を手に、霜の巨人を打ち倒した。


かくて北の地の冬の猛威はおさまり、空には日が差し、森と山は切り開かれた。

そして勇者は、切り裂かれた霜の巨人の心臓から生まれた炎の娘―――聡明の女神を妻に娶り、その子孫が興した王国は、霜の巨人の名を取って“ノルヴィーク”と名付けられた。


以後、代々の王は炎の娘から受け継いだ赤金の瞳と聡明さを持ち、巨人の血に染まった雪白の外套と同じ深紅が王衣の色となるのだ。

そして、勇者と炎の娘の血を受け継ぐ者こそがノルヴィークの正統な王者だというのなら。



己は、|真実ノルヴィーク王などではなかった《・・・・・・・・・・・・・・・・・》。



アルヴィド・マグヌス・ティセリウス。

そう名付けられた俺は、王妃エリヤと国王アルトゥル―――その乳兄弟である男(・・・・・・・)との間にできた、不義の子であった。


炎の娘の生まれ変わりと言われるほどの見事な赤毛を持っていた母。

そして、まさにノルヴィークの継嗣に相応しいともてはやされるほどの赤毛と赤金の双眸を持って生まれた俺。

茶味がかった赤毛の国王アルトゥルよりよほど鮮やかな色を纏った俺には、しかし一滴のノルヴィーク王家の血も流れてはいなかった。



その事を知ったのは、不義の王妃エリヤが死した時。

年は十と一にもなっていたか。冬の病を患い死に瀕した母は、最期に俺に告げた。「お前は王の子ではない」と。

何故、あの女が今際の際にそんなことを俺に告げたのかはわからなかった。王の乳兄弟であるその不義の相手は、文字通り父王アルトゥルと同じゆりかごで育った相手である。産まれた時から傍近く仕え、国王の信も厚く、最も重要な東方領伯の座をすら与えられている。


その、男が、何故!!

遥か東の地に在る男を兄弟のように心配する父を、冷えぬようにと母の肩掛けを織らせる父を知る自分には、衝撃以外の何物でもなかった。


母の葬儀。参列もそこそこに城の奥で吼えるように泣く俺を人々は母への哀惜の故ととったが、俺がまき散らすそれは悲しみではなくどうしようもない怒り故の涙だった。




そして、混乱極まった俺は、逃げ出した。


あまりにも幼い所業。あまりにも愚かな逃避。物心も付き分別もつく年頃だろうに、俺には微塵の思慮もなかった。これこそ正に、俺が赤金の血、聡明の女神の血を引かぬ証だろう。

どれほど時がたとうと俺の愚かさには変わりがなかったが、それでもその当時、過去の俺はあまりに愚かだった。


なにせ、初めて自身が愚か者であると思い知るに到るまで、俺は実に一つの村を丸々滅ぼす(・・・・・・・・・・)という大過を必要としたのだから。




王様が王様じゃなかったです。いや王様だけど(意味不明)

そんなわけで始まります、三角関係最後の一人アルヴィド編。何が大変だったって副題をつけるのが。順当にいけば【夏の男】なんでしょうが、夏の男とか言われると眩しい日差しの中サーフボードあたりを抱えて白い歯をきらめかせて笑う日焼けマッチョメンあたりしか思い浮かびません。真夏の夢男(と書いてヒーローと読む)みたいなノリというか。台無しです。そういえばこの間湘南行ってきました。どうでもいいです。


そんな入りの後書きから不憫な感じで。

おそらく一番長く一番不憫なお話になるかと思いますが、よろしくお願いします。



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