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【春の女】-5 優しい雪

花祭の終わりの日に、わたしは正式に王城へ迎え入れられた。王を慰める楽師としてだ。


白亜の王城、居並ぶ人々。厳しい顔をした大臣にも、困惑したような高官にも、好奇心丸出しの侍女達にも、わたしは心からの笑顔を振りまけた。

と、言うより、笑顔がこぼれてしまったと言った方が正しい。


だって、この城には彼女がいるのだ!同じ屋根の下、同じ床の上に彼女がいるというだけで、わたしはどこまでも舞い上がれた。



藍色の瞳の少女―――――――イルヴァ。

そう、“青藍の戦乙女”。



わたしが身勝手に妬み憎んだ存在こそ、わたしが一目で恋に落ち今また身勝手に愛する相手だった。


正式に国王への目通りが叶ったとき、歓待の言葉を述べた赤毛の王は真っ先に彼女をわたしに紹介した。


『イルヴァ。私と王城を守る近衛の長を務める者だ。

 私が最も信頼する側仕え。そなたと顔を合わせる機会も多いだろう。』


役職よりも先に彼女の名を呼ぶ。常に傍に控えさせる距離感やその親しげな様子に気分が沈みかけたのも、一瞬だった。



『――――ノルヴィーク近衛隊隊長イルヴァと申します。

 以後、お見知りおきを。フレイア殿。』


深く鮮やかな藍色の髪に藍色の瞳。どの貴婦人が纏うドレスよりも優美な藍色の鎧。腰には氷の精を模った銀の剣。

静かに瞳が伏せられ、流れるような礼の所作と共に透明な声が紡がれる。一切の不純物を含まぬ水晶のような声。その声で歌を歌ったら、どれほど美しい調べになるだろう。


『初めまして、イルヴァ様!お会いできて嬉しく思います。』


頬が、唇が薄紅色に染まってゆくのがわかる。どうしようもなく浮かれてしまう。

同時に、どうしようもなく緊張してしまう。今の声はうわずってはいなかっただろうか?仮にも歌い手たるものが!

それでも、この胸を満たす衝動は抑えることができず。


『なんて、綺麗な藍色でしょう…!髪も、瞳も。

わたしは、これまでこれほど美しいものを見たことがありません!!』


静謐なその色に比べたら、わたしの薄紅などただ派手派手しいばかり。

わたしは思わず手を伸ばしていた。ただ柔いばかりの手を、藍色の手甲に覆われたすらりとした手へ。

一瞬、彼女はぎくりと身を震わせたが、結局突然のわたしの成し様を咎めることはなかった。

冷たく鎧われた手を、両手に抱く。

ひんやりとした白い手は、剣を扱うためかところどころ硬くなっていた。強い手だ。そして、優しい手。

わたしに触れられるのが嫌なら、その手はいくらでもわたしの手を振り払うことができたのに。あるいはわたしの手が触れる前に、礼を解くこともできたのに。

王の御前とはいえ、彼女はわたしの手を、好意を拒みきることができなかった。



( ……優しいひと。 )



雪のような手はわたしの手の中で溶けることもなく、わたしはそのことに心からの微笑みを零した。


本当に投稿量がまちまちすぎて申し訳ないかぎり。

…でも、きりがなあorz

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